電気自動車は本当にエコなのか?
テスラを始めとするビッグ・テックも注力する「モビリティ革命」、その筆頭して挙げられる存在の1つが電気自動車です。走行中に環境に負荷をかける物質を排出しないため、利便性だけでなく究極のエコカーとしても注目されています。
しかし、もし使用する電気に化石燃料を用いた火力発電などが使われていたり、利用されるレアメタルの産出や部品の製造・処理が環境破壊に繋がっていたりすれば、「それは本当にエコなのか?」という疑問も生まれます。
そうした疑問に答え、電気自動車の仕組みを詳しく解説している書籍が『図解まるわかり 電気自動車のしくみ』(翔泳社)です。
本書では電気自動車の長所・短所、歴史、構造、電池とモーター、制御技術やインフラまで網羅的に説明し、興味を持ったばかりの人が電気自動車の概要をしっかり把握できる内容となっています。
では実際、電気自動車は本当にエコなのかどうか。
今回は、現在の技術やビジネスにおいて電気自動車がどれくらいエコを実現できているのか、どのような取り組みがなされているのかを解説した「第8章 電気自動車と環境~どれくらい「エコ」なのか?~」の一部を紹介します。
電気自動車は本当にエコなのか?
環境規制から生まれたクルマ
電気自動車は走行中にCO2などの環境に負荷をかける物質を一切排出せず静かに走れるため、「エコカー」の一種とされています。また、ZEV(無公害車)や次世代自動車の代表例とされており、「環境に負荷をかけないクルマ」として期待されてきました。
このため先進国を含む多くの国々は、従来のガソリン自動車の排気ガスに対して厳しい規制をかけるとともに、電気自動車をはじめとする「エコカー」の普及を推進してきました。
その結果、世界全体で「エコカー」の販売台数が大幅に増えました。例えばイギリスのロンドン交通局(TfL)は、公共交通全般のCO2排出量を減らすためにバスの電動化を積極的に進めました(図1)。また、ノルウェーやオランダ、中国などのように、電気自動車の普及の推進を国家戦略の1つとして取り組んだ国では、電気自動車の販売台数が急速に増えました。
「エコ」に対する疑問
ただし、電気自動車を普及させることは、本当に「エコ」なことなのでしょうか。この疑問に対する答えは、残念ながら明確には示すことはできません。
なぜならば、電気自動車の充電に使われた電力や、製造や廃棄に使われた電力がCO2を排出して発電したものであれば、「エコ」であるとはいいがたいからです。また、電気自動車で使われた駆動用バッテリーなどの部品をそのまま廃棄すると、環境に影響を与えるからです。
つまり、電気自動車が「エコ」であるか否かを判断するには、走行中だけでなく、充電した電力の発電方式や、ライフサイクル全体を見渡してトータルで判断する必要があるのです(図2)。
見えない場所で出すCO2
発電方式で異なるCO2排出量
電気自動車が「エコ」であるか評価するには、「見えない場所」で排出するCO2の量に着目する必要があります。この「見えない場所」の代表例には発電所があります。
発電所の発電方式にはさまざまな種類があります(図3)。その中には、原子力発電や再生可能エネルギーによる発電のように、発電中にCO2を排出しない発電方式がある一方で、石油・石炭・天然ガス(LNG)といった化石燃料を消費してCO2を排出する火力発電もあります。
もし、電気自動車に充電する電力に火力発電で得た電力が含まれていると、電気自動車は「エコ」であるとはいえません。
火力発電の割合が大きい現在の日本
発電方式の割合(電源構成)は、国や地域によって異なります(図4)。
例えば現在の日本における電源構成は、化石燃料(石油・天然ガス・石炭)による火力発電が8割近くを占めています。これだけ火力発電の割合が大きくなった背景には、2011年に東京電力福島第一原発事故が発生したのを機に、国内のすべての原子力発電所を停止させたことが関係しています。現在全体の約4%を占めているのは、この事故後に再稼働した原子力発電所が発電した電力です。
これほど火力発電の割合が大きい国では、電気自動車に充電する電力がCO2を排出して発電したものになる確率が高くなるので、電気自動車が「エコ」であるとはいいがたくなります。 この問題を解決するには、電力構成における再生可能エネルギーの割合を増やす必要があります。
環境性能をトータルで評価する
環境性能を比べるための2つの指標
電気自動車が「エコ」であるか否かは、電気自動車が消費する電力の発電方法や、製造から廃棄に至るまでのライフサイクル全体を見渡して判断する必要があります。ここではそのための代表的な指標として「Well to Wheel (ウェル・トゥ・ホイール)」と「LCA」を紹介します。
使用時を評価する「Well to Wheel」
Well to Wheelは、油田(Well)から車輪(Wheel)までという意味で、1次エネルギー源の採掘から車両走行に至るまでの環境負荷を定量的に評価する指標です。ガソリンなどの石油燃料でいえば、油田で原油を採掘してから、自動車の車輪を駆動させるまでにどれだけ環境負荷を与える物質を出したかを示します。
図5は、各種自動車の1km当たりのCO2排出量をWell to Wheelで評価したグラフです。これを見ると、電気自動車のCO2排出量が発電方式によって大きく変わることがわかります。
ライフサイクルを評価する「LCA」
LCAは、Life Cycle Assessment(ライフ・サイクル・アセスメント)の略で、自動車の製造から廃棄までのライフサイクルでの環境負荷を定量的に評価する指標です。
図6は、各種自動車の製造から廃棄までのCO2排出量を比較したグラフです。これを見ると、電気自動車(EV)よりもプラグイン・ハイブリッド自動車(PHV)の方がCO2の排出量が少ないことがわかります。
再生可能エネルギーの活用
再生可能エネルギーとグリーン電力
電気自動車を「エコ」な乗り物にするには、CO2を排出しない方法で発電した電力で充電する必要があります。このような電力には、原子力発電で得た電力の他に、再生可能エネルギー(図7)で得た電力(グリーン電力)があります。
先述した2011年の東京電力福島第一原発事故が起きてからは、このグリーン電力の活用がカーボンニュートラル(脱炭素化)とサステナブル(持続可能)な社会を実現するものとして注目されています。このため現在は、より多くの電気自動車でグリーン電力を使用する環境を整えることが検討されています。
再生可能エネルギーの長所と短所
再生可能エネルギーは、自然界に常に存在するエネルギーです。水力や地熱、バイオマス、太陽光、風力などがこれに含まれます。
その主な長所には、「枯渇しない」「どこにでも存在する」「CO2を排出しない(増やさない)」があります(図8)。
一方主な短所には、「エネルギー密度が低い」「電力需要に合わせて発電量を調節できない」「発電コストが割高」などがあります。また、水力発電や地熱発電は、発電量が比較的安定していますが、ダムや地熱が得られる場所など、設置場所が限られます。太陽光発電や風力発電は設置場所に関する制限が少ないものの、発電量は季節や天候によって大きく左右されますし、太陽光発電は夜間に発電できないという弱点があります。
現在は、これらの短所をカバーし、再生可能エネルギーを効率よく利用するシステムとして、後述するスマートグリッドや水素社会を実現させる動きがあります。
ITとスマートグリッド
ITを駆使してバランスを取る
現在、日本を含む多くの先進国で、スマートグリッドの実現が検討されています(図9)。スマートグリッドとは、「賢い電力網」を意味する言葉で、既存の電力網を再構築し、ITでリアルタイムなエネルギー需要を把握しつつ、各発電設備から効率よく送電を行うしくみを指します。
スマートグリッドは、もともと増え続ける電力需要に対応するためにアメリカで開発されたものです。発電所や送電網だけでなく、家庭や工場などの電力消費地を光ファイバーなどのネットワークで結び、電力供給の効率を上げることを目的としています。
再生可能エネルギーを積極的に導入
スマートグリッドが実現すると、再生可能エネルギーを積極的に導入でき、従来の発電所が排出していたCO2を削減することが可能になります。つまり、供給する電力全体に対するグリーン電力の割合が高くなり、社会全体で排出するCO2を削減できるのです。
また、太陽光発電(図10)や風力発電のような発電量の変動が大きくて規模が小さい発電方式にも対応しやすくなり、再生可能エネルギーをより効率よく活用することが可能になります。
グリーン電力の充電で真の「エコカー」に近づく
このようなスマートグリッドを使って充電設備に優先的にグリーン電力を供給できれば、そこで充電した電気自動車は真の「エコカー」に近づくと期待できます。