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SHODENSHA COMICS通信 9月号 ~ 朝井リョウ・著『正欲』読書感想文

こんにちは。SHODENSHA COMICS編集部です。

ロバート秋山さんのラジオ番組『俺のメモ帳!on tuesday』にドはまりしています。おもしろすぎる…。

ラジオなのにエピソードトークなどは一切なく、ただ秋山さんの思うまま、自由奔放に歌ったり、お便りを読んだりしている30分間が最高にくだらなくて救われます。「くだらない」は人を救うんです…。

いつも破天荒な秋山さんが、さらに破天荒なリスナーからのお便りに困惑している姿も新鮮で面白いですし、毎週火曜日が待ちきれないです。



編集部の日常や、普段考えたり、話したりしていることをゆる~くお届けするSHODENSHA COMICS通信。

今回は、朝井リョウさんの小説・『正欲』の読書感想文をお送りします。

〈あらすじ〉
自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――。
息子が不登校になった検事・啓喜。初めての恋に気づく女子大生・八重子。ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。だがその繫がりは、”多様性を尊重する時代"にとって、ひどく不都合なものだった。
読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。


文庫版発売や11月の映画公開を控え、今最も注目されている作品のひとつである『正欲』。

「多様性」という言葉が多々使われるようになった現代、マジョリティの渦の中にいる人や、その影で生きる人々を鮮烈に描いた物語が、多くの読者の心に傷跡をのこしています。

小説を読んだり映画を観たりして「自分の中だけで大事に抱えていたい」と思うものもあれば、「誰かと語り合って、作品と向き合いたい」と思う作品もあると思うのですが、この作品は圧倒的に後者でした。

今日は編集部員たちに課題図書として、この『正欲』を読んでもらい、それぞれの感想文を記していきたいと思います。


※以下、ネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。



「愛とは」(編集長・山田)

 正しくあろうと思った時に人は間違えるのかもしれない。誰かのために、良かれと思って…など、正当性がどこかで担保されると極端な思考に至ることが多いように思う。
 不幸の度合や孤独の深さは、それを感じている当人以外には誰にもわからない。多様性、繋がりといった前向きに思える言葉も、場面によっては人を苦しめることがある。当たり前のことのはずなのに忘れてしまう瞬間がないか、改めて自分に確かめながら生活していかなくてはと背筋が伸びた。
 この作品で特に印象的だったのは、佳道と夏月の関係性だ。極めてマイノリティな性的対象を持つ者同士が奇跡的に出会い、社会に溶け込むために契約結婚する。佳道はこの関係が薄氷の上を歩むような心許ないものだと自分に言い聞かせるが、読者として受ける印象は全く逆なものだった。
 取り替えのきかない存在の価値は高い。さらに、性的指向を公表していない二人はお互いにとって強力なサポーターでもある。恋愛感情が一切なくても、共に過ごす時間の長さに伴って二人はより強く結びついていく。「いなくならないから」という台詞に、愛と呼ばれるものの正体をみたような気がした。

「繋がり続けるために」(編集部員・上代)

 この物語の感想をどう言葉にしたらいいのか、正直答えを見つけられていません。ただ、自分が自覚していなかった感情を剥き出しにされて切り刻まれたような痛みと、わかりあえない他者との会話の気持ち悪さが、未だに体の中で渦巻いています。
 作中では「誰にも理解されない孤独」を抱く人々について、夏月や佐々木、諸橋のようにマジョリティに紛れようとする人や、藤原悟のように社会との関わりが断たれてしまった人として、その姿が描かれていました。もし、彼らに対しての「対話」と「繋がり」を諦めなかった人物が一人でもいたとしたら、物語のラストは変わっていたのではないでしょうか。
 そんな中、諸橋との「対話」と「繋がり」を諦めなかった八重子こそが、かすかな希望の光だと思いました。相手と向き合い、対話し続けること。簡単そうで難しく、何より相手のことを愛していないとできません。でも、それが繋がり続ける唯一の手段なのだと思います。
 読後、物語と現実の境界が曖昧になった感覚に陥り、これからこの世界をどう生きていくつもりなのか問われているような気がしました。そしてこの先「多様性」という単語を見るたび、戒めのようにこの作品を思い出す予感もしています。

「届かない物語」(編集部員・川端)

 私はこの物語と出会うべきだったのだと思う。読み終わってから今日まで、「多様性」という言葉をほとんど使わなくなった。
 この2年間ほど、冒頭の佐々木が書いた手紙を何度も何度も読み返し、お守りのようにしてきた。ああ、私と似た景色を見ている人がいる。それがたとえ、フィクションの中だって構わない。佐々木も私も、欲していたのはやっぱり"繋がり"だった。
 ”会話はできても、対話はできない”。そういう記憶が、私にもある。求められた「ふつう」の自分を演じていればなんとかなる時間をやり過ごして、死にたい気持ちになって帰る。言葉を発するたびに自分の中の「ふつう」じゃない部分が浮き彫りになって、そういう自分を誇らしいと思った瞬間だってあるはずなのに、それを上からグチャグチャに塗りつぶされるのだ。
 人は誰しも、正しい部分と間違った部分を内在している。善か悪かは、その人を見る角度によって変わるものだ。それでも、自分にとって悪であるものには正直に「間違っている」と言い切りたい。そんな自分の願望と向き合わされた気がした。
 しかし思うのは、この作品が届いてほしい人にはたぶん一生届かなくて、それがとても悲しい。


作品の感想を言葉にしながら、こうやって誰かの胸に届くだけでなく、語られるような作品を作りたいなあといつも思います。

それが人との”繋がり”を生み、誰かを救うことになるのではないかと願っています。



10月には『FEEL FREE』最新号のお知らせもありますので、お楽しみに!
SHODENSHA COMICS通信、次回もよろしくお願いいたします。



(イラスト:川端)


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