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はじめに|『美しきタロットの世界』(読売新聞社「美術展ナビ」取材班/東京タロット美術館・監修)

本日より全国発売となります『美しきタロットの世界ーその歴史と図像の秘密』。今回はnoteで「はじめに」を公開します。タロット=オカルトというイメージも強いですが、小さなカードの絵柄からさまざまな人類の叡智を読み解くことができます。キリスト教、ギリシャ神話、哲学、ユング心理学、数秘術……。本書では、占いだけでなく、大人の教養として楽しめるタロットカードの魅力を読売新聞社「美術展ナビ」の取材班がお届けします。

「タロット」というと、何を想像するだろうか?

 占いのツール? ゲームに使うカード? それとも古代から伝わる神秘主義の象徴? どれも正しい、だけど、どれも正しくない。

 タロットカードは15世紀半ば、イタリアで成立したといわれている。もともとは貴族が遊ぶ「絵入りカード」だったようだ。18世紀から19世紀にかけて占いに使われるようになり、ヨーロッパを席巻した神秘主義と結びついた。20世紀に入ってユング心理学やニューエイジ思想などの影響もあり、さらに複雑な意味づけ、解釈が行なわれるようになった。

 あれ? タロットって中世ヨーロッパで出来たモノなの? じゃあ、「古代エジプトの叡智」とか、古代ユダヤ民族の「カバラの秘密」とか、関係ないんじゃない?

 いやいや、ところがそうでもない。タロットには、大きなヒミツがある。
タロットのカードは全部で78枚。大アルカナ22枚、小アルカナ56枚で構成されている。大アルカナは「愚者」「戦車」など、様々な絵が描かれている「絵札」。小アルカナは、棒、金貨、剣、聖杯の4種類のマーク(スートという)に1から10までの数字を当てはめた「数札」と王、女王、騎士、小姓の「人物札(コートカード)」を合わせたトランプのようなもの。そして、大アルカナの絵が何に由来しているのか、どうしてこの絵柄が選ばれたのか。正確なところは誰にも分かっていない。

 聖書の説話やギリシア・ローマ神話の物語、アリストテレスやピタゴラスら古の賢人たちから伝わった「知恵」が下敷きになっていることは間違いないだろう。そのうえで、グノーシス主義などの「東方の叡智」を取り入れているかもしれないし、ルネサンス期の詩歌や絵画のモチーフが入り込んでいるかもしれない。あるいは中世ヨーロッパの民間伝承や社会状況を反映しているのかもしれない。研究者による探究は世界中で続いている。タロットの成立や歴史には様々な学説があり、それ以上に解釈も多くある。

 そんな「通説」や「解釈」を、東京タロット美術館(東京・浅草橋)の監修の下、タロット研究家で図案作家のイズモアリタさんの助言、指導を得ながら「美術展ナビ取材班」が取捨選択してまとめたのが、この本だ。読売新聞社が運営するウェブサイト「美術展ナビ」で2022年4~8月に連載した原稿を、書籍化にあたって大幅に加筆改稿した。「タロットのヒミツ」を、古今東西の「絵」を楽しみながら解き明かす……それが狙いの企画である。

 最初のカード「愚者」から最後のカードの「世界」まで、タロットの大アルカナはひとつながりの物語、無垢の存在である「愚者」が真理を求めて世界を旅する「愚者の旅」として捉えることもできる。そこに内包される様々なイメージは、世界中の神話や伝説や「宇宙の真理」について古今東西の人々が考えてきたことにつながっている。カードを手にとって、絵を見ながら「自己との対話」を試みるのもいい。知人友人との会話を広げていくのもいい。その絵を通じてイマジネーションが広がり、それが「癒やし」のきっかけとなれば……、コミュニケーションのきっかけになり、人々の心を豊かにするものになれば……。

 テーブルの上の「小さなアート」であるタロット、使い方は人それぞれ。
それでは、いざ、深遠なるタロットの世界へ――。

           
読売新聞社「美術展ナビ」取材班

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