百花繚乱の現代タロット|『美しきタロットの世界』(読売新聞社「美術展ナビ」取材班/東京タロット美術館・監修)
15世紀のイタリアから21世紀の日本に至るまで、タロットは世界中で様々な文化と結びつき、様々な人々の想像力を刺激してきた。それぞれの時代、それぞれの地域でタロット制作者たちはイメージを膨らませ、数多くのデッキを作成してきた。東京・浅草橋にある東京タロット美術館は、約3000種類のカードデッキを所蔵している。どんなデッキがあるのか、こちらもイズモアリタさんに解説してもらおう。
「おおざっぱにいって、①ヴィスコンティ版、②マルセイユ版、③「黄金の夜明け団」の系譜、④ニューエイジ系のカードの4系列に大別されますね」とアリタさんはいう。
「ヴィスコンティ版」は、「ヴィスコンティ・スフォルツァ版」など、15世紀のイタリア貴族社会で流布していたデッキを基本とするもので、失われたカードはその他のカードや同時代のデッキなどから類推して作られている。「マルセイユ版」は17~18世紀に流通していた木版画の〝庶民のカード〟。「バッカス・タロット」や「タロー・デ・パリ」などの派生型がある。18~19世紀のフランスで、「マルセイユ版」と神秘主義とが結びついた「エテイヤ版」や「オズヴァルド・ヴィルト版」もある。
イギリスの魔術結社「黄金の夜明け団」(ゴールデン・ドーン)の影響下からは、「ゴールデン・ドーン・タロット」に加え、「ライダー版」、「トート版」が生まれた。「ライダー版」と「トート版」は、現在でも影響力の大きいデッキだ。20世紀後半に派生した「ニューエイジ系のカード」には、「東洋哲学やネイティブアメリカンのグレートスピリットのような諸地域のフォークロアなどにも絵柄の着想を得ていて、英仏で培われてきたオカルティズムとは一線を画す雰囲気があります」とアリタさん。フェミニズムの影響を如実に表しているのが1980年代に発売された「マザーピース・タロット」。「ユンギアン・タロット」、禅の思想を持ち込んだ「和尚禅タロット」も有名だ。
また、画家のサルバドール・ダリなど、タロットの持つ奥深いイメージに触発されて自ら作画するアーティストも20世紀以降は増えている。カウンター・カルチャーとの結びつきが強くなってきた現代では、グラム・ロックの雄、デビッド・ボウイがプロデュースした「スターマン・タロット」のように、映画やアニメ、特定のミュージシャンなどとのコラボレーションも行なわれるようになっている。
タロットの絵柄は時々の社会情勢、そこでよみ生きる人々の心理に左右される。だからこそ、21世紀の今も新たなタロットが次々と生み出されるのだ。