【雑談・小ネタ】育成選手や3軍制について
突然ですが、皆さんは育成選手や3軍についてどのようにお考えでしょうか。「育成上がりの誰々」と聞くと「這い上がってきたんだな、頑張ってほしいな」と何となく誰しもが感じるところではありますが、彼らが歩んできた道のりについて考えたことがある、そこまでの頑張りを知っているという人はどれぐらいいるでしょう。今や当たり前の存在になっている育成選手ですが、そもそも育成選手とはどういう存在なのでしょう。今回は筆者が育成選手や3軍制について以前から思っていたこと・感じていいたことなどを、思考の整理を兼ねてだらだらと書いていく記事です。深い考察もデータを用いた議論もないので期待はしないでください。
育成選手のはじまり
かつてNPBには「練習生」という制度がありました。ざっくり言うと今の育成選手のように支配下登録外であり、試合には出られないものの練習には参加できるというものでした。往年の名捕手であり現在は中日のヘッドコーチを務める伊東勤も練習生出身です。ただ、選手の発掘・育成のためだけでなく、伊東のような「囲い込み」にも使われ、批判の対象となって廃止されました。「育成選手」はその代わりという側面もあります。
その後2005年から導入され、同年の育成ドラフトで6人が指名を受けました。埋もれていた才能の発掘や、生え抜きスターを求めるファンの声に応えること、また野球の裾野を広げることなどが目指されました。
支配下登録の上限は70人ですが、ここに少し課題があります。1軍登録枠は現在29人で、中10日での運用等あるので概ね30人程度が「1軍」と言えます。さらに2軍でも同様に30人程度が必要です。怪我で試合に出られない選手が10人ほどいると、あっという間に上限の70人に達してしまいます。割とカツカツの運用を強いられている現状があるのです。それゆえ、+αで育成選手を少し雇って、運用を楽にしたいという需要もあって浸透しているという側面もあるのだろうと思っています。
育成枠のルールと運用
一応育成選手に関わるルールをおさらいしておきます。皆さんご存知の通り、育成選手は1軍の試合には出場できません。また、支配下登録選手が65人以上いる球団しか育成選手を保有できません。2019年の読売は開幕時点で63人とかでしたが、外国人補強や支配下昇格などで7月末の期限までに65人以上としました。最低年俸は240万円。非常に安い。これが「育成は安上がり」と言われる理由のひとつと思われますが、詳しくは後ほど。
また意外なことに(?)、2軍の試合であっても育成選手は1試合に5人までしか出場できません。育成選手を本当に育成するための出場機会を十分に与えられないのです。育成指名から3年が経過して支配下登録されない場合は、その年のオフに一旦自由契約となります。4年目以降の育成選手と元支配下の選手は1年ごとに自由契約となります。継続して育成契約を結ぶことが多いですが、自由契約なので自由に他球団に移籍することが出来ます。そのパターンで移籍したのは亀澤恭平(ソフトバンク→中日)、白根尚貴(ソフトバンク→DeNA)、長谷川宙輝(ソフトバンク→ヤクルト)らです。入団初年度に26歳以上の外国人選手は3月末までしか支配下登録できません。某中日球団は30ぐらいの外国人選手を今オフ獲得しましたが、どうもこのルールを知らなかったようです。
育成枠はもちろん真に育成するのに使う場合が多いのですが、その名前からはずれた使われ方をされる例もあります。まずは故障者リスト扱いです。育成契約をしておくと支配下枠を使うことなく選手を保有できます。それを利用して、復帰まで時間がかかる怪我や病気をした選手を育成契約に切り替えることがあります。いわゆるトミー・ジョン手術は復帰まで1年半~2年と言われるので、高橋朋己や黒木優太らは手術後に育成になりました。もちろん、彼らには1軍に帰ってきてほしいですし、河内貴哉や脇谷亮太や由規のように復帰できた例もあるので一概に批判はできませんが、本来の目的から逸脱した使い方は褒められたものではありません。故障者リストは別に考えたほうがいいと思います。
他にも、1年間1軍に上げる見込みのない成長途上の選手を”育成落ち”させることで枠を空けることもあります。今オフの西巻賢二のようなパターンです(結局西巻は育成再契約の打診を蹴ってロッテに移籍しましたが)。育成落ちは個人的に好きではありません。いたずらに選手を不安定な立場にするものだからです。まあ実力主義の世界なので「かわいそう」というのもアレですが。また、3軍導入の際には戦力を整えるために必要なものでもあります(詳しくは後ほど)。ここから帰ってきた選手は応援したくなります。
まあ、様々な問題はあるものの、育成選手という制度があったからこそプロ野球選手になれて活躍できたという人も多いわけです。身体は小さいけど肩は抜群に強い、脚はべらぼうに速いといった一芸で入団してスターダムを駆け上がる選手、例えば偶然受けた入団テストでスライダーを評価されて後に9年連続60登板を達成する選手も出てくるのです。選手自身も球団も運命が変わることがあります。
支配下登録率
2005年の導入から2018年までに育成指名されて入団したのは286人。そのうち支配下登録を勝ち取ったのは97人で、割合にして34%です。3人に1人は支配下になっている計算ですが、想像していたより多いなというのが正直な感想です。しかし、そうは言っても「戦力」と見てもらえるのが3分の1というのが狭き門であることに変わりはありません。
人数で最多だったのは読売の21人、ソフトバンクが20人で続きます。なお、移籍後に支配下になった選手(読売は丸毛謙一、ソフトバンクは先述の亀澤・長谷川)も含めています。そもそもの指名数が多いので、当然と言えば当然の結果です。しかし、しっかり育成している球団とも言えます。読売は山口鉄也・松本哲也と新人王を2人出していますし、ソフトバンクは千賀滉大・甲斐拓也の日本一バッテリーや侍ジャパンの周東佑京を育てました。指名選手に占める支配下登録率を見てみると、意外にも(失礼)西武とDeNAが高いことが分かりました。読売が29.5%(21/71)、ソフトバンクが34.5%(20/58)であるのに対し、DeNAは52.9%(9/17)、西武は62.5%(5/8)でした。特に西武は昨年指名した3人以外の全ての選手が支配下登録を勝ち取っています。こちらもしっかり育成に成功していると言えます。
指名選手一覧は記事の最後に画像を張り付けておきます。懐かしい名前がたくさんあるので、是非見てみてください。
3軍制のはじまり
3軍制は今や育成選手を語る上で欠かせない概念になっています。3軍の名前を使い始めたのは1990年の読売だったそうです。選手の育成とリハビリのために2年間用いられました。92年には1年だけ西武も取り入れ、リハビリ組としては広島が現在まで運用しています。
また、2007年には育成や若手の選手の出場機会を確保するために、イースタンリーグの球団が選手を出し合う「フューチャーズ」が組織されたほか、2009年には当時育成選手を多く雇っていた読売とロッテの選手による「シリウス」という活動もありました。
2011年からはソフトバンクが3軍監督・コーチを置いており、対外試合を行う「現代型の3軍」の先駆と言えるかもしれません。読売も同じく11年から2軍コーチの肩書のスタッフを通常より多く配置しており、「育成チーム」を運用しはじめ、16年からは3軍を導入しました。「マタギと化した読売」と言われたドラフトが懐かしいですね。来季からは練習だけの組織として西武が導入。オリックスは早ければ21年にも3軍を導入するといいます。
3軍の組織
読売やソフトバンクを見ていると、3軍を単体で動かすためには選手は25人ほど必要だと推察されます。と言うよりも、先述のように1,2軍に70人必要なのであれば3軍もベンチ入り25人程度が必要になってきます。「良い選手がいっぱい育ってていいなぁ。ウチも3軍やりたいなぁ」と思っても1年で作れるものではありません。オリックスは今年8人を育成指名して3人を育成に切り替えたものの、怪我人がいるため実質14人。さすがに3軍単体では回せないので、2軍から選手の派遣を受けながら3軍的運用をするのかなと思います。
3軍の対戦相手は主に独立リーグや社会人のチーム、たまに大学(3月と8月、大学リーグ前のOP戦の時期)。それなりのレベルの相手と、年間90試合ほどをこなす必要があります。3軍の選手を素材型で固めてしまうと、そのへんの独立や社会人チーム以下のレベルになってしまい、プロの3軍と試合をするメリットを相手に与えられなくなりますし、シーズンをこなす”体力”が十分にない状態になってしまいます。ヒグマ狩りをしていた頃の読売は独立リーグの選手を多く指名しすぐにリリースしていたので批判も多く、またドラフト雑誌には未だに「読売は独立の選手が好きなので」みたいな書かれ方をします。筆者個人の意見としては、独立の選手の乱獲は以上のような理由から3軍を回せるようにするために必要だったと思います。すぐに切るのはよくありませんが、彼らの尊い犠牲の上に出来た3軍から多くの支配下選手が生まれるのです。勿論その時のチーム事情が第一であり、例えば今年の読売が指名した2選手は3軍及び若手層に足りていない部分を補うものでした。また、”育成落ち”も創設当初においては(読売で言えば坂口真規のような選手)同様の理由でやむをえないことだと思います。
また、よく「育成選手を育てたほうがFA補強より安上がり」と言う人がいますが、ありえない話だと思っています。例えば楽天が3軍導入を検討という記事へのコメントに「3軍で若手を育てるほうが安い(からFA補強は要らない)」という旨のものがありました。しかし、3軍のために25人の育成選手を年俸300万円平均で雇うとこの時点で7500万円となり、そこそこの助っ人外国人を連れて来れる額です。さらに、10人弱のコーチやスタッフを雇い、用具や遠征費や寮の維持管理費などなどで年に2億円は下らないでしょう。年俸2億円でどの程度使い物になるか分らない選手を育てるのであれば、より確実なのはFA補強や外国人補強でしょう。ごく少数の育成選手だけを雇い3軍制を敷かなければ勿論お金はかかりませんが、そう都合の良い話はありません。育成にも熱意と金を注ぎ込まなければ良い成果は得られません。「3軍・育成は安上がり」というのは全くの偽だと思います。もちろん、筆者は3軍の浪漫が好きなので批判したいのではありません。ただ、育てるほうも育てられるほうも並の覚悟では成功できないので、そこのぎらつきみたいなのを感じたいと思っています。
3軍制の今後
ざっくり言うと3軍は増えていくと筆者は思っています。ソフトバンクが、某書の言葉を借りれば、勝利と育成の両輪を掲げて常勝チームになり、読売もそれに追随して覇権を取り返そうとしています。このようなトレンドに他球団も乗っかっていくのではないでしょうか。勿論お金がかかる話なので、やる気と資金力があるチームに限られますが。
今後近いうちで可能性があるのはDeNA、楽天、ロッテあたりでしょうか。楽天は去年から石井GMが興味を示しています。DeNAも打席数や投球回数の管理など育成に力を入れており、今年完成した新しい選手寮は3軍を運用している球団並みの40余りの部屋があるそうです。ロッテは最近の経営状態の良さや育成への力の入れ方、かつて育成選手を大量に抱えていたことからも自前で育てようという気があるのでは、と妄想しています。佐々木朗希の関連で話題に挙がった大学や医療機関と連携したチーム作りは、ソフトバンクなど上位球団にとって大きな脅威になるのではないでしょうか。
こうして3軍制が広まると、楽しみなのは3軍どうしの交流戦です。現在は読売とソフトバンクだけで、距離があるためか(と言っても読売3軍は四国遠征などしていますが)特に交流試合は組まれていません。オリックスは2021年と言わず3軍を早く作って、ソフトバンクや巨人の3軍を大阪で見せて。オリックスとソフトバンク以外のウエスタンの球団は腰の重そうなセの球団なので望みは薄いですかね…
いかがでしたでしょうか。いくらか筆者の思いを詰め込んだ部分はあったものの、多くは感想文程度のものでたいした議論はしていない小ネタに過ぎないものでした。筆者自身がこれで何かを展開していきたいというものではありませんが、これをきっかけに皆さんが育成や3軍についてあれやこれやと考えて筆者とお話してくれると嬉しかったりします。
それでは次回の投稿でお会いしましょう!
おまけ:育成選手指名一覧