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1985 Vol.7〜スティング

大物登場です。ポリスのスティングが初めてソロアルバムを発表したのも1985年なんですね。というわけで今回は名盤「ブルー・タートルの夢」を取り上げます。

このアルバムは、サウンドの空間処理に幾分80年代らしさを感じさせつつも、驚くほど時代を超えた普遍的なポップスアルバムになっていると思います。歌詞が非常にシリアスでメッセージ色が強いのに、最終的にはそれをポップ音楽にちゃんと落としこんでいるのが理想的です。スティングの狙い通り大ヒットしました。

当時のミュージック・マガジンの広告がコチラ。

「バックにジャズ界のスター・プレイヤーを配した超絶の問題作」!

いや、実際には問題作でも何でもなく、むしろスティングが正攻法のポップ路線で真っ向から勝負したアルバムじゃないでしょうかね。

とにかく大好きなアルバムなので、今回は気合いを入れて全10曲レビューします。

1. IF YOU LOVE SOMEBODY SET THEM FREE

嫉妬と独占欲と自我の歌というポリスのヒット曲「見つめていたい」に対してのアンサーソング、とはスティングの弁です。それで「愛しているなら自由にしてやれ」という歌詞なんですね。当時ピーター・バラカン氏が司会をしていたテレビ番組「ポッパーズMTV」で観たこのビデオも当時は衝撃のカッコ良さでした。

映像監督は元10ccの二人組、ゴドレイ&クレームです。彼らは80年代の面白いPVを非常に多く手がけていましたね。

2. LOVE IS THE SEVENTH WAVE

レゲエです。ポリス時代からレゲエっぽいビートはお得意なスティングですが、ここまで本格的なレゲエも珍しいです。あえてシンプルな3コードを基本にしているのにもレゲエに対する敬愛の深さを感じます。7つ目の波は必ず大きいという迷信があるそうで、トラブルが続いても7つめは愛であって欲しいという歌です。

3. RUSSIANS

当時の米ソ冷戦に対してのスティングの強烈なメッセージソングです。「ロシア人だって子供を愛している」という内容。歌詞の中でレーガン大統領を名指しで「その意見には賛同できない」と非難しているのに驚きです。例えば日本で総理大臣を名指しで非難する大物ポップ・ミュージシャンがいるでしょうか?ただスティングは当時「僕は反ソビエトでも反アメリカでもない、単に子供の味方だ」と発言しています。

実際にロシアのオーケストラを使って録音したかったらしいのですが予算の関係でここではシンセの多重録音になってます。でも結果的には、この方がアルバムの流れに合ってると思います。

しかしその後スティングは、グラミー賞の舞台で政治的ともいえるこの曲を実際のフルオーケストラをバックにして、朗々と歌い切ったのです。やるといったら必ずやる男。それがスティングです。

4. CHILDREN'S CRUSADE

ムーディで落ち着いた6/8拍子の曲ですが、徐々に演奏者が盛り上がっていく間奏の部分が素晴らしい。ライブ盤だと更にここの部分、凄いです。サビの部分のブランフォード・マルサリスの端正なサックスのリフレインも印象に残ります。

普通に聴けばジャジーでムーディーな雰囲気なんですが、ヘロイン中毒の子供たちを題材にして、いつの時代も大人達の偽善に子供達は犠牲になっているという意味合いの、非常に重いテーマを持った作品です。タイトルは11世紀に王室のために戦わされた幼児十字軍があり、その名前が「チルドレン・クルセイズ」だったことに由来します。

5. SHADOWS IN THE RAIN

当時のミュージック・マガジンのレビューでは「ポリスナンバーを1、2曲収録して欲しかった」と某評論家が苦言しておりましたが、この曲は元々ポリスの曲ですよ。アルバム「ゼニヤッタ・モンダッタ」(1980)の収録曲です。

オリジナルの落ち着いた曲調とは全然違って、シャッフルビートのアッパーな曲に生まれ変わっています。当然バックの演奏もノリノリで、「こういう曲は俺にまかせろ!」と言わんばかりのオマー・ハキムのドラムのグルーヴが最高です。

6. WE WORK THE BLACK SEAM

邦題は「黒い傷あと」。古い炭鉱を閉鎖して原子力発電所を建設している当時のイギリス政府に対して真っ向から反対した強烈な反原発のメッセージソングです。「石炭層は300万年の時の重みが作り上げたものだけど放射能炭素の毒素は12000年まで消えない。黒い傷あとを縫い合わせる俺たち」そんな内容の歌詞です。邦題「黒い傷あと」。曲は静かですが、ドラムパターンが変わっていて面白いです。

7. CONSIDER ME GONE

徐々にフェードインしているイントロから心地よい緊張感。ミディアム・スウィングのブルースっぽい曲です。かなり渋い曲ですが、それでも途中のブレイク部分であるとか、ちゃんとポップソングとしても飽きさせない工夫をアレンジに仕掛けるのが流石ですね。スティングのソングライティングの力量を感じます。

8. THE DREAM OF THE BLUE TURTLES

なんとインスト曲が登場です。ジャズっぽいユニゾンのイントロから、全然スウィングしない風変わりなフレーズのユニゾンに変わり、そこからまたジャズっぽいアップテンポのスウィングでピアノソロになるという、非常に凝りまくった楽曲構成。カッコいいのに、あっという間に終わってしまう曲。最後の笑い声も含めて、スタジオの中でのセッションっぽい雰囲気があり、このアルバムの中でいいアクセントになっている曲です。

9. MOON OVER BOURBON STREET

静かで落ち着いたジャジーな曲です。ムーンということで、どこかヴァン・モリスンの「ムーン・ダンス」に通じる雰囲気も。しかしブリッジのクラリネットのアンサンブルなどは、ハル・ウィルナーの企画盤でスティングが歌ったクルト・ワイルの「マック・ザ・ナイフ」に通じる古いドイツ音楽の様でもあります。

10. FORTRESS AROUND YOUR HEART

エンディングを飾る名曲中の名曲。Aメロのコード進行は何度も転調するのに、スティングの歌唱力のせいなのか、それをさりげなく自然に聴かせててくれるのがさすがです。サビでシンプルに盛り上がる構成も素晴らしく、これをエンディング曲にしたのは大正解。この憂いを秘めた寂しげな雰囲気でアルバムは終了します。

以上、全10曲でした。いやぁ、完璧なアルバムじゃないでしょうか。

翌年に出たスティングの「Bring On The Night(邦題・ブルータートルの夢)」というバンド結成のドキュメンタリー映画と、同名の2枚組のライブ盤が、これがまたどちらも素晴らしい作品なんですよ。映画の方はDVDになってるのかどうかわかりませんが、未見の方は、是非いつか見て頂きたいものです。

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