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自分の作品を愛しているか

 先月、愛知県瀬戸市のせともの祭に初めて出店した。若手作家のブースの一角だったので初めは遠慮したのだが、思い切って出店してみれば、他の作家たちは窯業訓練校の後輩だったためストレスもなく実りある二日間だった。ブースの作家たちは若い女性が多く、ポップな作品や繊細なアクセサリーが多かった。その中で民芸調の僕の作品が新鮮に映ったのだろう、後輩たちの顧客が自分のブースに流れてきたり、反対に僕の知り合いの高年齢層を若い作家のブースに誘導したりと好循環が生まれ、おかげで僕の作品もそこそこ売れた。
 もちろんお客様からは評価だけでなく、厳しい声もいただいた。でも一番こたえたのは値引きをして売る僕に「正田さん、自分の作品をもっと大事にして下さいよー。正田さんの作品の価値はそんな値段じゃないですよ」と若い後輩に言われたことだった。彼女の口調は決して「安売りされては私たちが迷惑」と言っているのではなかった。彼女によれば自分の作品は一つ一つ愛おしく、自分の手を離れるときは、まるで我が子を旅立たせるような気持ちだという。なるほど作品は、自分の「人生」の「一部」のようなものだから彼女の気持ちもわかる。
 自分の作品に対する愛が足らない。それは以前から気づいていた。確かに、ろくろで粘土を形にする時や焼きあがりを待つワクワク感がたまらなく好きだ。でも焼きあがった作品にさほど執着はない。文章にしても推敲を重ね書き上げるまでの時間が楽しいのであって、出来上がった瞬間に興味をなくしてしまう。だから人前にさらした文章を後になって手直しすることはまずない。想像するに創作している間は脳内にドーパミンが出まくっているが、いざ作品が完成してしまうと脳内ホルモンは減退してしまうのだろう。
 自分の作品を愛せといっても急に心変わりできるものではない。さて皆さんはいかがだろうか。自分の作品を自分の分身のように愛することができているだろうか。

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