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喫茶アネモネ

 最近、声を出して笑ったことなんてあるだろうか。多分、妻とテレビを見ていて笑ったことはあるだろうが、何の番組だったか思い出せない。それほど笑いから遠ざかっているのだろう。若い頃は些細なことでも腹を抱えて笑うことができた気もするが、歳とともに笑いの感度も鈍化しているということか。これも老化だと思うとため息が出る。
 だがそんな僕にも週に一度、笑わせてくれるありがたいものがある。月曜日の中日新聞に連載されている『喫茶アネモネ』という漫画である。アネモネはちょっとした商店街のどこにでもありそうな喫茶店。店を切り盛りするマスターとバイトのよっちゃん、常連客たち個性豊かな登場人物の掛け合いが面白いのだ。月曜は「今日のアネモネどうだった」が朝のあいさつになるほど、夫婦して楽しみにしているのだが、毎週、期待を裏切ることなく笑わせてくれる。
 中でも不良グループの総長だったと噂のあるバイトのよっちゃんがいかしている。例えばコーヒーが飲みたいと駄々をこねる小学生に、カップをのぞかせて「底が見えないほど真っ暗でしょ、何が潜んでいるかわからない闇、この闇にひとりで立ち向かえるほどぼうやは大人なの」と真顔で詰め寄ったりする。こんな具合に昭和レトロな喫茶店の中で、ちょっとシュールな話が展開される。そのミスマッチな感覚が面白い。そしてもう一つ、個性あふれる登場人物たちをさげすんだり批判して笑いにしようとしていないところにこの漫画の魅力がある。それぞれの個性を寛容し、誰も傷つけることないように配慮されているから、笑いに癒されるのだ。
 最近のバラエティー番組を見ていて、極端な自虐ネタで自分を貶めたり、他人の欠点や弱みをネタにして、笑いを取ろうするのには閉口する。自分自身や、他の誰かを平気で傷つけて笑いに結びつけようとする世相にうすら寒ささえ感じる。こんな世の中だから、アネモネのように誰も傷つけずふっと息の抜けるような笑いを大切にしたいと思う。皆さまも是非アネモネを読んでいただきたいが、読むときは声を出しても恥ずかしくない場所で読むことをお勧めする。
 

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