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『平成パンツ(略)』刊行記念トーク:松永良平さん×髙城晶平さん対談(前編)

松永良平さん『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』の発売日当日にHMV Record Shop渋谷で開催された、髙城晶平さん(cero)と松永さんの対談より一部を抜粋し、前後編に分けてお送りします。

前半は松永さんがどんなふうにこの本を書いていったかというお話から、ceroとの出会い、世代と音楽の聴き方など……普段から仲のいい二人のおしゃべりをお楽しみください。

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読んでて、朝ドラ見てるみたいでした(髙城)

松永良平(以下、松永) 今日(2019年12月17日)の時点では、まだこの本読んだ人はいないと思うんですけど、髙城くんには事前に読んでもらってて。
髙城晶平(以下、髙城) これ、1989年から2019年までの「松永良平クロニクル」ですよね。青年が白髪頭のおっさんになるまで(笑)
松永 まあ、わかりやすく言えばそういうことなんだけど。
髙城 読んでて、朝ドラ見てるみたいでした(笑)。読みながら頭のなかでキャスティングしてて。青年のときの松永さんは、俳優の山中崇さん。そのまんま白髪になってくと、現実の松永さんにはならないんだけど(笑)。でも、いい朝ドラを見たみたいに楽しめる本でした。
松永 本当?
髙城 おもしろかったですよ。
松永 ちょうど発売前日の昨日、編集を担当してくれた林さやかさんがこの本に登場する曲を集めたSpotifyプレイリスト(下記に掲載)作ってくれたんですよ。それを聴きながら読むと、また立体的に思えていいかも。でも、Spotifyには乗ってない曲もあるんで、今日はそういうのをときどきかけながら進めようかなと思う。

髙城 いきなりですけど、オープニングになにか1曲かけませんか?
松永 ええと、じゃあまずはこれをBGMとしてかけ流しで。

♪SAKEROCK「弟義父さん」

松永 まずね、今日、このHMVでは本を面出しして売ってくれてるじゃないですか。こうやって実際に売ってる光景を見たのは、おれ今日が初めてだったんですよ。昨日、知り合いが「新宿の紀伊国屋書店で面出しでしたよ」って教えてくれて、早速今朝売り場を見に行ったですよ。これね、自分で自分の本を買いに行ってウキウキするっていう、つまり『ワンハリ(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド)』でいうところの「シャロン・テートごっこ」しようと思ったわけ。
髙城 自分の映画を自分で見て、周りがウケてるのを見てキャッキャみたいな(笑)
松永 そしたら、見当たらなくて。ただうろうろしてる不審なおっさんになっちゃった(笑)。そしたら目の前にテッド・チャンの新刊『息吹』が売られてたんで、それを買って帰ったという。「シャロン・テートおじさん」になるはずが「うろうろおじさん」になり、最終的に「SFおじさん」になって帰ったという。
髙城 いや、たとえこの本が平積みで売ってたとして、松永さんはシャロン・テートには絶対ならないでしょ(笑)
松永 シャロン・テートそのものになりたいんじゃなく、シャロン・テート状態になりたかったの。でも、それができず。
髙城 ようやく今日、こうして見れたと。
松永 でもね、おかしなことですよ、これは。だっておれの半生だよ?
髙城 そこ、聞きたかった。こういうのって、おれはようやらんなと思って。恥ずかしいってのもあるし、まとまっちゃったらもうあとは死ぬんじゃないかって。結構、これ書いて人生締まっちゃったんじゃないですか?
松永 いや、もともとそこまで深く考えてなかったんだよね。人にインタビューする仕事が多いから、場合によっては生い立ちとかから聞くでしょ。人に対してずっとしてきたことを自分に対してはしたことなかった、というのもあるし、思いついたのが今年(2019年)の元旦で、平成も終わるし、「1989年のことを書いてほしい」ってずっとリズム&ペンシルの相方に言われてたこともあったし。89年のことだけ書くのは気が進まなかったんだけど、そこからはじめて1年ずつ書いていけばいいんじゃない? って急に思ったの。区切りもいいし、1日1年書いていけば30日で終わる。ちょうどいいな、って。
髙城 それで連載ものにしたんだ。
松永 noteは前からちょっとやってたんだけど、どうも活かし方がよくわかんなくて。こういうのに向いてるんじゃないのかなと思ってやってみた。それで、正月の3日に温泉に行ったんだけど。
髙城 1月3日! ぼくの誕生日です。
松永 おめでとうございます(笑)。それで、旅館で新聞読んでたらさ、「平成31年」って書いてあって。
髙城 そこで知ったんだ(笑)
松永 そう。それまでは去年のことまで書けばいいと思ってたんだけど、31年の4月30日まで書かなきゃなんだと。あー、どうしよう、ってなった。それで、とりあえず平成30年まで書き進めて、そこから今度は1年ずつ戻ることにした。人生逆回転で間を持たせて、最後に平成31年に戻ってきて、4月30日に連載が終われてよかったね、ってなるんじゃないかと。
髙城 人生逆回転。まさに、SFおじさんだ(笑)
松永 人生逆回転をやってみておもしろかったのは、さかのぼることによって築いてきた人間関係とか仕事とか全部失われていくんだよね。「あれ? おれ、また無職に戻ってるけど?」みたいな(笑)
髙城 確かに。最新から書いていくとそういうことになるよね。松永さんの89年から2000年くらいまでの人生って、結構ロクでもないもんね(笑)。だって(大学)7年生でしょ? 迷える時代が30歳くらいまで続いてたわけでしょ? まあ、ぼくもceroのファースト・アルバム出した時点で27歳だったから、遅いですよね。大学を卒業してからの迷える時間が長いところにもシンパシーを感じた。いまもおなじように迷ってる人がいたら、「こういう人でもいきなり細野さんに取材したりできるようになるんだ」って思うんじゃないかな。
松永 いきなり、ではないけどね。
髙城 まあ、いろいろあってだけど、「こういう人生スゴロクあるんだ」って思うんじゃない?
松永 別のイベントで「ライターになるんだったら、出版社に就職するとか、しかるべきところに投稿するとかね、方法はいくらでもあったでしょ」って言われて、結構ハッとしたんだよね。
髙城 当時はバブルだし、時代もよかったわけだしね。
松永 言われてみれば、そういう方法もあったんだな。
髙城 だけど、会社情報のDMとか捨てまくってるじゃないですか。最初からもうそういう就職とかはしないって思ってたんですか?
松永 単純に4年生の時点で6年まで留年することは決まってたから、資料なんてあってもしょうがないと思ってた。あと、『リズム&ペンシル』ってミニコミを99年に出すんだけど、卒業する94年くらいからずっとそれをやってるわけ。その間、一緒にやってた他の2人は「どこかに投稿しろ」とか「こういう出版社にあたれ」とか言わないで、ひたすら「何とかしてこの本を完成させろ」って言ってた。おれとしては「この本が完成するまではなにもほかのことはできないんだ!」くらいの気持ちになってたくらい(笑)
髙城 なんだよ、それ!(笑)
松永 とにかくおれの20代は、いつ出るのか、誰が読むのかもわからないような本のことにひたすら関わって過ごしてたんだよね。

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照れがあるっていうのは、やっぱりおもしろい(髙城)

髙城 松永さんがceroに関わりはじめた時期って結構覚えてないっていうか、しれーっと入ってきましたよね?
松永 まあ、本にも書いてあるけど、ceroとの出会いは、2010年の秋に角張(渉)くんから『WORLD RECORD』をCD-Rで聴かせてもらった、それが音源が最初かな。
髙城 「どう思います?」みたいなね。でも、そういう下地はおれは全然知らないわけですよ。気がついたら「なんかあのおじさん、打ち上げいるなー?」みたいな(笑)。そういうのが何回か続いた。
松永 「打ち上げおじさん」だね。
髙城 そう、しかも、割と人当たりのいい「打ち上げおじさん」だと思ってた。そこから、(髙城がレギュラーで入っていた)Rojiに来てくれるようになって、だんだん親しくなっていったけど、最初のほうの感じは本当にフェードインしてきた感じでしたよね。
松永 2010年、2011年のcero周りのシーンは、おれにとってもおもしろかったからね。
髙城 でも、人生で「こいつはこういうやつで、こんなことやってきて、こういう興味がある」みたいにがっつり説明受けて関係がはじまることってそんなにないわけで、みんなフェードイン、フェードアウトで関わってくるわけじゃないですか。だからこそ、松永さんのフェードインの前になにがあったかは、こういう本でしか知り得なかった。こういう流れがあってceroに触れていったんだ、みたいな。しかも、本で読んで知るっていうのも稀だからおもしろかったですね。
松永 noteを書きはじめた時点では、そういう展開になってceroとか出てくるんだなってことすらちゃんと考えてなかった。もっと簡単に想定してたかな。1日1200字くらいで、断片的な思い出をホイホイ書いておけば、あとで役立つこともあるんじゃないだろうか、みたいな。ところが、いろんな局面で、卒業できなくて父親に叩かれたりしてるし、仕事やめて派遣で椅子工場で働いたりしてるじゃない? 「あれ? あれ? こんなこともあった」みたいな感じで膨らんじゃったんだよね。あそこのタイミングで源くんにも会ってるし、あそこでceroのことも知った、みたいな「なっちゃった」感が書いてる途中にも作用した。
髙城 いかに人生がフェードインでできてるかってとこですよね。ところで、いまかかってる曲は?
松永 これはね、ピチカート・ファイヴの「大人になりましょう」。

♪ピチカート・ファイヴ「大人になりましょう」

松永 まさにこれを聴いてた91、92年ごろのおれは「大人になりましょう」状態だったね(笑)。そのころは「大人になれる」と思ってたんだ。いまはおっさんにはなったけど「大人」になれたかはまだわかんないな。
髙城 でも、松永さんは変わんないなって印象ですよね。これ読んでても思ったけど、「永遠の大学生」って感じ。
松永 「永遠に卒業できない人」ってこと?(笑)
髙城 何十回留年してんだって(笑)。でも、本当に変わってないなって思いますね。
松永 それって褒め言葉?
髙城 褒め言葉、褒め言葉。だから、こうやってめちゃくちゃタメ口でしゃべれるし、友達になれるしね。こういう人ってなかなかいないですよ。あと、この曲聴いてて思ったことがあるな。おれと松永さん共通の友達でDJ MINODAさんっているでしょ。MINODAさんは松永さんとほぼ同世代だけど、このころ(90年代初め)はUKの音楽に入り込んでて、日本語の音楽なんて聴いてられないって思ってたんだって。でも、この本読んでると松永さんたちはわりと分け隔てなく音楽を聴いてる気がした。
松永 そうだったかな? そうだったかもね。
髙城 松永さんたちの聴き方って、その時代は特殊なことだったの?
松永 自分たちは自然に聴いてたと思う。だけど、洋楽がジャンルとしてまだまだ大きかったから、「日本の音楽は聴いてない」って人は珍しくなかったな。おれだってもっと海外のハードでディープな世界に入って行きたかったし、じっさいマニアックに古い洋楽を掘っていったりもしてたけど、子どものころに見てた『ザ・ベストテン』とか『オレたちひょうきん族』で親しんだポップな音楽への興味もずっと続いてた。「聖子ちゃん好きだったし」みたいな感覚が邪魔してたというか、(マニアの道に)まっすぐ進めないみたいなところはあったかもね。その音楽をおれは認めていいのか認めちゃダメなのか、みたいな葛藤もあったと思う。
 本にも書いたけど、90年代の初めに高円寺の喫茶七つ森という喫茶店でバイトしてて、好きなレコードをかけながら働いてたんだけど、当時シュガーベイブの『SONGS』かけて、「DOWN TOWN」が流れるとお客さんは「ひょうきん族の曲だ!」って笑ってたから。七つ森って浅川マキとか、もっと渋い音楽が流れてるイメージだった。でも、おれは両方好きだったんだよね。
髙城 そういうバランス感覚ってやっぱり珍しかったんじゃないか、って気がするけどね。当時おれはまだ小学生だったから、実感としてはわかんないけど。
松永 珍しかったのかな? どうだろう?

♪ニルソン「スノー」

松永 これはニルソンの『ニルソン・シングス・ニューマン』ってアルバムのアウトテイク。本のなかでは長く飼ってた猫が死んじゃった時期の曲だね。
髙城 あそこね、泣いちゃうよねー。
松永 それもさ、自分は極まって書いてるんだけど、おれの飼ってた猫が死んじゃっただけの話でしょ? 「(これを人に読んでもらうなんて)おかしくないか?」と耳打ちしてくる自分もいるわけ。
髙城 完全なる自分ストリップにはなりきってない。
松永 そういうところはあるよね。(自分に)酔ってしまったら終わりかなって。
髙城 だからこの本はおもしろいんだよ。照れがあるっていうのは、やっぱりおもしろいよ。
 あと、猫だけじゃなく、出てくる人物が結構いなくなってるじゃない? ミュージシャンだけじゃないし、ぼくの母親もそのひとりだし。でもまあ、30年分書いたら自然なことなんでしょうけど。
松永 報せは突然だけどね。
髙城 ぼくの母親のことも書いてくれてて。

松永 (亡くなった報せが来たとき)てんやにいましたから(笑)
髙城 いろいろ読んでて思い出すことも多かったな。

後編に続く
(2019年12月17日 HMV record shop)

髙城晶平(cero)(たかぎ・しょうへい)
ceroのボーカル/ギター/フルート担当。2019年よりソロプロジェクト “Shohei Takagi Parallela Botanica”を始動。その他ソロ活動ではDJ、文筆など多岐に渡って活動している。

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松永良平(まつなが・りょうへい)
ライター、編集者、翻訳家。1968年、熊本県生まれ。大学時代よりレコード店に勤務し、大学卒業後、友人たちと立ち上げた音楽雑誌『リズム&ペンシル』がきっかけで執筆活動を開始。現在もレコード店勤務のかたわら、雑誌/ウェブを中心に記事執筆、インタビュー、ライナーノーツ執筆などを行う。著書に『20世紀グレーテスト・ヒッツ』(音楽出版社)、『コイズミシングル』(小泉今日子ベスト・アルバム『コイズミクロニクル』付属本)、編著に『音楽マンガガイドブック』(DU BOOKS)など。

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