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【たちよみ】稲葉振一郎『宇宙・動物・資本主義――稲葉振一郎対話集』より「あとがき」掲載

2024年5月24日刊行の『宇宙・動物・資本主義――稲葉振一郎対話集』は、日本を代表する社会倫理学者・社会哲学者である稲葉振一郎さんの膨大な仕事、広大な関心領域を一望のもとに収めた対談集です。初出6本を含む白熱の対談を12本収録した全608頁の大冊となりました。

発売を記念して「あとがき」を公開します。それぞれの対談の経緯と主題が簡潔に述べられており、本書の広大な世界への道案内としても好適です。

「2000年代(ゼロ年代)、まだアラフォーの頃、『経済学という教養』(東洋経済新報社、2004年。ちくま文庫版、2008年)のスマッシュヒットで調子に乗っていた私は~」というチャーミングな回想からはじまる一文をお楽しみください。

あとがき

2000年代(ゼロ年代)、まだアラフォーの頃、『経済学という教養』(東洋経済新報社、2004年。ちくま文庫版、2008年)のスマッシュヒットで調子に乗っていた私は、対談・座談ベースでいくつかの本を作った(長谷川裕一さんへのインタビューを軸とした『オタクの遺伝子』(太田出版)、吉原直毅、松尾匡両氏との『マルクスの使いみち』(太田出版)、先ごろ物故した立岩真也氏との『所有と国家のゆくえ』(NHK出版))が、2010〜11年の勤務先での役職者への就任以降、この手の企画は控えていた。それでも10年代以降もぽつぽつとシンポジウムやトークイベントの類に呼ばれることはあり、特に2020年からのコロナ禍の下ではオンラインイベントも増えたのでなおさらのことだった。しかしながら、トークイベントの中には結構面白かったのに、活字媒体にされずそのままのものも少なくなかった(映像アーカイヴ化されて配信可能なものもあったが、結構高価になる)のが、何とも惜しかった。そこで今回、旧知の吉川浩満さんにお願いして、トーク集を書物の形でまとめることにした。

本書の企画自体の開始は2021年で、10年代からコロナ禍までのものをまとめて22年中には出すつもりだったが、諸般の事情で作業は遅れ、23年には私も還暦を迎えた。そんな中、2023年4月に荒木優太さんのお招きで実現した企画が思いのほか手ごたえがあったので、それをねじ込んで今の形となった。こうしてできあがってみると分量的にも大部だが、内容的にも哲学、SF、社会科学と多岐にわたり、形式的にも気楽なトークイベントから、学会でのフォーマルなシンポジウム、更に役所の政策担当者向けのセミナーに至るまでなかなかバラエティに富んでおり、50代における私の関心の全体像を瞥見していただくにはちょうどよいものとなった。本書への収録をご快諾いただいた関係者の皆様に御礼を申し上げる。

以下収録の順番にご紹介していく。開催時期は前後するが、吉川さんのお考えでテーマごとにまとめていただいた。

第1部は編集者たる吉川さんの解釈するところの、稲葉振一郎の「核」にかかわるトークを集めた。その「核」のなんたるかは読者の皆さんの解釈に委ねたい。偶然にも、すべてコロナ禍以前のものである。

01は本書中でも最も古いもので、かれこれ十年前、法哲学者の大屋雄裕さんのご著書『自由か、さもなくば幸福か?』の刊行を記念し、担当編集者の筑摩書房の石島弘之さんのご依頼で、勤務先の教室を借りて開催したものである。読まれればわかる通り、陰の主役はその場には不在だった安藤馨さんであり、のちのお二人の共著『法哲学と法哲学の対話』の前哨戦とも言うべきものになっている。

02は拙著『宇宙倫理学入門』を意識しての、吉川浩満さんによる私へのインタビューであり、吉川さんの著書『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』にも収録されている。

03は拙著『社会学入門・中級編』の刊行記念イベントであり、旧知の岸政彦さんとの何度目かの対談となった。

第2部は第一部の延長線上に、学問分野としての「応用倫理学」のフォーマットに一応則ったトークを収めた。

04は田上孝一さんの『はじめての動物倫理学』の刊行記念イベントであり、コロナ禍のなかで全面オンラインイベントとなった。ウェブサイト「集英社新書プラス」(https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/)で公開されたものの再録である。

05は八代嘉美さんのご依頼で、政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策研究センター(SciREX センター)のイベントに登壇することになり、お相手として飛浩隆さんを希望し、ご快諾いただいて成ったものである。官僚の皆さんが大半を占める聴衆を前に科学哲学とSFのおさらいをするという異様なイベントだったが、時間の都合で出席者のご感想を聞く機会がなかったのは残念である。稲葉振一郎、大屋雄裕、久木田水生、成原慧、福田雅樹、渡辺智暁編『人工知能と人間・社会』(勁草書房、2020年)に既に収録されたものの再録である。

第3部は「SFと哲学・倫理学」をテーマとするトークで固めた。第2部に収めた05の飛浩隆さんだけではなく、松崎有理さん、柴田勝家さん、長谷敏司さんといったわが国を代表するSF作家の皆さんと意見を交換する機会を得られたのは幸いだった。

06は大庭弘継さんの主導により、応用哲学会第12回年次研究大会シンポジウムとして企画されたものである。コロナ禍により当該年度の大会は中止となったが、このシンポジウムだけは当初予定された2020年4月25日から半年ほど遅れた9月26日に、オンラインイベントとして開催された。ちなみにこの時はまだ私は当該学会の学会員ではなかった(から謝礼をいただいたはずである。その後21年度から加入した)。アーカイヴは2024年3月現在でもYouTube で視聴可能である(https://www.youtube.com/watch?v=MUM3X16-HcA)。

07は当初はSFセミナー(http://www.sfseminar.org/wiki.cgi?page=Top+Page)2020の企画として依頼されたが、コロナ禍により20年のセミナーが中止となり、全面オンライン開催となったSFセミナー2021に持ち越されたイベントの記録である。長谷敏司さんの招聘は私の希望によるものであり、この企画においても八代さんにご尽力いただいた。

08は雑誌『現代思想』「特集:宇宙のフロンティア」(2017年7月号)の誌上対談として行われた。これも拙著『宇宙倫理学入門』を踏まえてのものであり、三浦さんの招聘はこちらの要望によるものである。

第4部は「カルチュラル・スタディーズ」ないしはその批判というか、人文科学からの資本主義論・新自由主義論をめぐるトークを集めた。

09はゲンロンカフェの堀内大輔さんの企画でお招きいただいた。当初は2020年4月を予定していたが、コロナ禍のために大幅に延期され、丸々一年後の21年3月に我々自身は五反田のゲンロンカフェに参集したが、会場には無観客、オンライン配信オンリーでの開催となった。

10は拙著『「新自由主義」の妖怪』の刊行を記念しての『週刊読書人』紙上企画であり、『読書人』2018年8月24日号からの再録である。金子良事さんは大学院の遠い後輩であり、労働問題研究者として将来を嘱望されている。

11は本書のために特別に企画されたものであり、本来なら巻末を飾るはずのものであった。発案・人選は吉川さんによるものであり、山本菜々子さんにもご尽力いただいた。本来ならその後のウクライナ戦争や台湾情勢を踏まえて延長戦を行うべきであったかもしれない。

12は先述の通り瓢箪から駒というか、本書の刊行が遅延したからこそ、ここに収録することができた。荒木優太さんの企画で、阿佐ヶ谷ロフトAでのトークイベントとして23年5月に、久々にリアルのお客さんを前に開催された。アルコールを仕込みながら、われながら舌がまわって、ところどころ暴走もあるがまずはトークとしては会心の出来である。

本書に収録した以外にも、この間拙著『ナウシカ解読(増補版)』刊行を記念して、長谷川裕一さんをお招きしてのトークや、山川賢一さんとの対談も行ったが、内容に鑑みて本書への収録は断念した。遡っては新城カズマさん・田中秀臣さんとの鼎談「3・11以後の世界とSF第一世代の可能性」も面白いものだが、ここまで入れるとあまりに大部となるし、これは今でもwebで読める(https://synodos.jp/opinion/society/2212/)こともあり見送った。

2024年3月
稲葉振一郎

稲葉振一郎『宇宙・動物・資本主義──稲葉振一郎対話集』晶文社

5月24日発売! 本の情報はこちらから☟
https://www.shobunsha.co.jp/?p=8228

【目次】

 お先まっ暗のだれも歩いたことのない未来を肯定する──まえがきにかえて

【第1部】人間像・社会像の転換
01 新世紀の社会像とは?(×大屋雄裕)
02 〈人間〉の未来/未来の〈人間〉(×吉川浩満)
03 社会学はどこまで行くのか?(×岸政彦)

【第2部】動物・ロボット・AIの倫理
04 動物倫理学はいま何を考えるべきか?(×田上孝一)
05 AI「が」創る倫理 ~SFが幻視するもの~(×飛浩隆×八代嘉美×小山田和仁)

【第3部】SF的想像力の可能性
06 学問をSFする――新たな知の可能性?(×大澤博隆×柴田勝家×松崎有理×大庭弘継)
07 SFと倫理(×長谷敏司×八代嘉美)
08 思想は宇宙を目指せるか(×三浦俊彦)

【第4部】文化・政治・資本主義
09 ポップカルチャーを社会的に読解する──ジェンダー、資本主義、労働(×河野真太郎)
10 「新自由主義」議論の先を見据えて(×金子良事)
11 中国・村上春樹・『進撃の巨人』(×梶谷懐)
12 どうしてわれわれはなんでもかんでも「新自由主義」のせいにしてしまうのか?(×荒木優太×矢野利裕)

 あとがき