長毛のカーテン
本当に恥ずかしいのは、恥ずかしくて顔を覆った手の薬指から濃い長毛が一本伸びていることではなく、その濃い長毛を一刻も早く処理してあげたいという、あなたの心である。_____________________________tawara
その日の朝、といっても11時半頃、大手通信販売業者から何やら薄茶色した箱が届く。金城武には似ても似つかぬ宅配業者の彼から箱を受取り、寝起きのコーヒーとタバコを飲み吹かしながら箱を開けてみるべくガムテープをなるべく綺麗かつ勢い良く剥がしやる。
箱の中の白い箱を持ち上げ見てみる。ゴーグルらしき物か、いや、VRゴーグルらしき物が入っている。
一昨日頼んだからだ。だから届いた。
数あるVRゴーグルから輝かしい物、相応しい物、を選び抜いたあげく、発注ボタン押した、だから届いたのだ。
何故私がVRゴーグルを必要としたのか、それは後々語ることにして、まずはFANZA(旧DMM18)からVRアダルト動画を買い求め、見てみることにする。
しかし、VRAV、それこそが本来の目的だったのだと、VRゴーグルが不良品でないか、入念にチェックしながら確信した。
今回は選び抜いてはいるが、安価なVRゴーグルを買い求めた。リスクは冒せない、ローリスクローリターンの信念に基づき、スマートフォンをゴーグルに装着し手軽にバーチャルリアリティーを体験するという手法を3,000円程の出費で執り行うと自身に命じていた。
カーテンの閉め切られた日中だが薄暗い部屋、外は気候もよく過ごしやすい日常が広がっているのだろう。
頭部にゴーグルを装着した成人男性は、新しき物に触れる機会を得て、生きている実感と文明への感謝を、口元が薄ら笑いを浮かべるという行為で表現してみせた。
その薄ら笑みは、バーチャルリアリティー内に向けて発信されたものであるのか、VRAVの製作者に向けてのものなのか、あるいは両方であったのかもしれない。
私は、バーチャルリアリティーという体験を今するのか、一生しないのか、という分岐点に立っていた。その様に深く感じていた。
新しき物を追い求めるのか、または、新しき物から目を反らし、今ある現状をより良く大切に生きるのか。
笑みを浮かべたゴーグル付き成人男性が周囲を見回し、思わず仰け反り、ウホホと思わず声帯を震わせたりする姿は喜びに満ちていたのだろうか。
新しい物を一つ手に入れたとき、今まであった物が一つ、どこか遠くへ消えさっていくのが実感としてあった。
それが何だったのか、もう分からない。
しかし、私はこの後、数ヶ月、いや来月にも、もっと良いバーチャルリアリティーの機械を購入する意志を固めるだろう。そして、その後も、もっと性能の良いバーチャルリアリティーの機械を買うことにする意志を持つだろう。
そして多くの金銭と、大切な何かを現実の世界に置いて、あちら側空間へと旅立つのだと、私は、何かを避けよとしても避けることができず、ウホホと声帯を震わせる。
あとは、カーテンを固く閉ざし、誰の目にも触れることなきよう、祈る。ウホホ。