【ストーリー論】ウマ娘のアニメ、ものすごく良くできてない?って話【第1期編⑫】
SHO+XENONです。
前回:
とうとうやってきてしまいました、第1期第12R、物語の進行上はほぼ最終回と言って良いところです。前回も触れた大団円を迎える条件の残る二つ、「ブロワイエの撃破」と「スペシャルウィークが日本一のウマ娘になること」、これらを今回で達成することになります。そして、これを一度に達成できる機会が今回描かれているのです。それは当時唯一の国際GIレースであった「ジャパンカップでの勝利」、これに尽きます。果たしてスペシャルウィークは勝利することができるのでしょうか。それでは今回も見ていきましょう。
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第12R①・冒頭
サイレンススズカが復活を果たした日の夜。ホテルのスイートルームの一室ではブロワイエが倒立しながら精神統一をしていました。しかも、親指と拳だけで体重を支える形で。
――――範馬勇次郎かな?
側近がドアをノックしました。「時間だ。」ブロワイエは両足で立つと、記者会見に向かいました。
ブロワイエは記者会見で「私が誰よりも速いことを証明し、サイレンススズカよりも盛り上げてみせよう」と余裕の笑みを浮かべました。記者がスペシャルウィークについて質問するも、「全く気にならない。私が勝つ、それだけだ」と、表情一つ変えませんでした。その会見を、スペシャルウィークは画面越しに見つめていました。
第12R②・リフレイン
東府中駅。そこでは一人の女性が地図を見つめていました。この女性はスペシャルウィークのお母ちゃん。東京レース場に行こうとしていたお母ちゃんに、駅員が呼び止めます。
「東京レース場なら隣の駅だよ。」「ちょっと遠いよ」と言うと、お母ちゃんは「今日は娘が走るので、私も走ります」と言って走り出します。「それに私、走るの大好きですから!」という言葉を残して。
駅員はそれを見て呟きます。「前に同じものを見たな。」そう、第1Rの、スペシャルウィークの初登場と全く同じ構図でした。やっぱり親子ですね。
スピカのメンバーとトレーナーが東京レース場に向かう車中、ダイワスカーレットはブロワイエの名前が踊る新聞記事を読んでいます。緊張感溢れる車内ですが、スペシャルウィークは呑気に眠っています。メンバー全員がスペシャルウィークの勝利を願っていました。
東京レース場ではすでにブロワイエがウォーミングアップをしています。そのあまりの速さに、報道陣からは本当にウォーミングアップかと疑う声も。
第12R③・La Victoire est à moi
レース場に着いたお母ちゃんは、シンボリルドルフの像の下で誰かを待っていました。周囲から聞こえる「(スペシャルウィークがブロワイエを下す)奇跡を起こして欲しい」という声に憤慨します。娘の勝利を疑わないお母ちゃんには、その声が無礼なものに聞こえたのでしょう。そうやって絡みにいったお母ちゃんの背後から、サイレンススズカが声をかけました。
お母ちゃんが待っていたのはトレーナーのことでした。トレーナーがお母ちゃんを呼んだのです。
サイレンススズカと顔を合わせるのも初めてのことでした。いつも手紙に書いてあったあのウマ娘に、どれだけ手紙でその名を見たか、娘が慕っているか、そして目標にしているかを話します。サイレンススズカの方も、「今までは自分のために走っていた」「今はスペちゃんとの約束が夢の一部」と語ります。その言葉に、お母ちゃんは娘の成長を実感するのでした。
急に足を止めるお母ちゃん。「あの子は今日のレース、勝てるんでしょうか……。」信じて疑ってはいないものの、やはり不安もあるのでしょう。そこにサイレンススズカが力強く、「勝てます!」と言ってのけました。
「スペちゃんは、約束を破るような子じゃありませんから。」
この言葉に笑顔を浮かべるお母ちゃん。しかしもうすぐ控室という段になって、急に弱気な顔を見せ始め…………。
「さすがに緊張してるんじゃない?」
「そんなの気にしすぎだって!」
「そうそう!」
控室前では、幾度となくぶつかりあったライバルであり親友である、セイウンスカイ、キングヘイロー、エルコンドルパサー、グラスワンダーの4人のウマ娘達。
様子を伺いますが物音一つ聞こえません。そこにハルウララがやってきます。声が大きいとセイウンスカイが注意しますが、そんなセイウンスカイの声も大きいとキングヘイローが口を塞ぎます。その様子を見てマルゼンスキーがやってきて嗜めますが、応援をしたいという5人の話を聞いて笑みを浮かべます。
そこにスペシャルウィークがドアを開けます。応援に来てくれたことが分かってとても喜びます。
スペシャルウィークはエルコンドルパサーに、「いい勝負にしましょう」をフランス語で何と言うのかを訊ねます。エルコンドルパサーは一瞬考えた後で何かを閃き、いたずらっぽい顔で耳打ちをします。その言葉を聞いて意気軒昂の様子で走っていこうとしますが、自分の足に躓いてズッコケてしまいます。スペシャルウィークは何度も同じようにズッコケていましたが、最後の最後まで変わりませんね。
「転校初日を思い出しますね」
「大丈夫かな……」
「私に勝ったんだもの、負けるなんて許さない」
口々に呟く後輩たちを、マルゼンスキーは「いいわね、同期って」と微笑ましく見ていました。
ついにパドックの時。皆の耳目がブロワイエに、そしてスペシャルウィークに集まります。敵であるブロワイエに少なからず憧れる者、その脚光を羨む者、勝負を挑んでみたかった者……。
スペシャルウィークの勝利もまた、日本のウマ娘として期待されていました。ハナは在りし日を思い出し、「これで勝てば日本一と言っても良いかもね」と見ていました。「唯一抜きん出て並ぶ者なし、ここが踏ん張りどころだぞ」とシンボリルドルフも期待をかけます。
ゴールドシップはまたもチームメイト達に「念を送るぞ!」と号令をかけます。「本当に効くのかそれ? なぁスズカ……」とトレーナーが見やると、サイレンススズカも一生懸命に念を送っていました。
ターフに向かう永い廊下をスペシャルウィークは歩いていました。その先には、いつの間に現れたのか、サイレンススズカが微笑んで立っていました。それにスペシャルウィークも微笑みを返します。後ろから来るブロワイエの不敵な笑みにも、同じく不敵な笑みで返し、再び歩き出しました。その様子を見やるサイレンススズカの笑みは、誰よりも勝利を確信したものでした。
いよいよターフにスペシャルウィークが現れます。声援を送るチームメイトたち、そして同期の仲間たち。お母ちゃんは【もう一人のお母ちゃん】の遺影を掲げて客席からそれを眺めます。
スペシャルウィークはスピカの面々に気付くとそこに駆け寄っていきます。「作戦変更ですか?」と訊くスペシャルウィークに、「ここまで来たら、作戦なんて次元じゃねえだろ」とトレーナー。
ここでトレーナーがスペシャルウィークに語りかけます。
「勝手なことに俺はお前に夢を見ている。ブロワイエに勝って、日本一と言っても良いレースをするんじゃないかって……。スペ、俺の夢も背負ってくれ!」
スペシャルウィークは笑顔で答えます。
「はい! 私、勝ってきます!」
その時大歓声が起こります。ついにブロワイエがその姿をターフに現しました。その雰囲気の中、トレーナーがスペシャルウィークに出した指示はたった一つだけでした。
「楽しんでこい!」
いよいよゲートインが迫る頃、スペシャルウィークがブロワイエに話しかけます。ブロワイエは頬にキスをするなど自分のペースを崩しません。そんな中スペシャルウィークは、エルコンドルパサーに教わったあの言葉を吐き出します。「良いレースをしましょう」は確か――――
「La Victoire est à moi!(ラ・ヴィクトアール・エッタ・モア!)」
「勝つのは私だ」
テロップでは「調子に乗んな!」ですが、正確にはこうなります。でも実際ブロワイエは少なからず調子に乗っていますので、状況も踏まえた(上でエルコンドルパサーの悪戯心も含めた)意訳としてはこの上ないものでしょう(笑)。
しかもその上で右手で握手。超有効的態度で堂々と喧嘩を売る面白いウマ娘に、ブロワイエもニヤリと笑みを浮かべて応えました。
本人が意図しない形で周囲に喧嘩を売りまくるスペシャルウィークと、それを受けて闘志をさらに燃やしたブロワイエの様子を見て、グラスワンダーはエルコンドルパサーが何か吹き込んだことを悟ります。
ファンファーレが鳴り、その時が近付きます。
スペシャルウィークは、お母ちゃんとの約束をその小指に、いよいよ勝負に挑みます。今までこんなにも闘志に満ちた顔を見せたことがあったでしょうか。
第12R④・二つ目のLa Victoire est à moi
ついにレース開始。スペシャルウィークは後方に位置します。一方ブロワイエは、凱旋門賞の時とは違い最後尾付近に、しかしその時エルコンドルパサーにしたのと同じように、スペシャルウィークの真後ろにピッタリと付けました。
スペシャルウィークはそれまでになく淡々と走ります。慌てることもなく、逸ることもなく、表情一つ変えることなく。
ついにスペシャルウィークが仕掛けます。それを受けてブロワイエも仕掛けました。どんどん追い抜いていき前に出てゆく二人。大欅を超えてさらに加速していきます。
初めてブロワイエの表情が変わりました。距離が縮まらない…!
ついに直線、スペシャルウィークがトップに立ちました。後ろにはピッタリとブロワイエ。日本総大将と世界最強の壮絶な一騎打ち!
ブロワイエが、ついにスペシャルウィークを捕らえます。苦しい。そんな時、スペシャルウィークの耳に声が届きます。
「スペちゃああああああん!!!」
その声がスペシャルウィークに力を与えました。
背後まで迫ったブロワイエを突き放しにかかったのです!
ブロワイエの表情にもう余裕はありませんでした。むしろ持てる全ての力を投入している状態。
そしてブロワイエに前を譲ることなく――――
1着でゴールイン!!
会場は大歓声に包まれました。トレーナーも子供のように大喜び。実況席の二人も思わず立ち上がっています。
死力を尽くし膝から崩れ落ちたスペシャルウィークを、ブロワイエが讃えます。「勝利を預ける」「すぐに返してもらう」と語りかけるも、スペシャルウィークにはフランス語が分かりません。しかし、ブロワイエがウィンクしながらかけた最後の言葉は、スペシャルウィークにもちゃんと分かりました。
La Victoire est à moi
ここでの意味はきっと、この二つだったでしょう。
「(次に)勝つのはこの私だ」
「(次も)いいレースにしよう」
スペシャルウィークはそれを受け止め、持ち前の明るい笑顔で「はい!」と力強く答えました。
観客席のお母ちゃんは泣いていました。そして、空から見ているであろう【もう一人のお母ちゃん】に語りかけます。
「見える? あれが私達二人の、日本一のウマ娘だよ」
ウィニングライブのステージの上。スペシャルウィークは「次の目標」について問われます。少し考えて、こう答えました。
「これからも応援してくれる皆の夢を背負えるような、
そして私を応援してくれる人に夢を見せられるような、
そんなウマ娘になることです!」
それを聞いてトレーナーは思います。
「あいつは夢を背負うことが、走る原動力なんだな。皆の夢を――――!」
そして、スペシャルウィークの歌う「Find My Only Way」が会場に響き渡って、今回はここまで。
第12R・総評
いい最終回だったね……!
本当の最終回は次回なのですが、そう言いたくなるような素晴らしいエンディングでした。冒頭でも触れた「ブロワイエの撃破」と「日本一のウマ娘になること」の二つの夢を叶え、ついに大きな物語としての最終目標をクリアしました。今まで山あり谷ありで一筋縄ではいかない展開でしたが、最高のグッドエンドを迎えられましたね。
しかし、この物語において一番驚くべきことは、これがほぼ史実であるということです。もちろん、擬人化されていることによって生じる創作部分や、サイレンススズカに関する大きな運命の書き換えはあるものの、殆どの部分は事実として、あるいは歴史として残っている部分に多少の味付けをしたに過ぎません。それなのにこれだけ王道で熱い、没入できるストーリーができあがるのです。事実は小説より奇なりとはよく言ったものです。
さて、次回は第13Rをやる前に一度Season1を離れ、Season2の全13話を同じように見ていきます。
Season2は「王道の殻を破った破格のストーリー」です。今度はどれだけ王道の殻が破られているかにスポットを当てていこうと思います。
12回書き上げて、さすがにちょっと疲れましたが、まだまだがんばります。SHO+XENONでした。