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【ストーリー論】ウマ娘のアニメ、ものすごく良くできてない?って話【第1期編⑦】

SHO+XENONです。

 さあ、この回がやってきてしまいました。
 正直私は、この回について書くにあたって、二つの感情が渦巻いています。
 一つは、この回について書くことが怖い、憂鬱だという感覚。
 そしてもう一つは、この回を書くためにここまで書いてきたんだという感覚。
 何故そんな感覚を持っているのかを含め、この回を見ていきましょう。

前回:

アニメを視聴しながら:

第7R①冒頭

 自室に戻ってきたスペシャルウィーク。菊花賞に出るもセイウンスカイに敗れてしまいました。

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 京都レース場からのお土産の八ツ橋をやけ食いするスペシャルウィーク。太っちゃうよと指摘されますが、明日猛特訓するのでと食べ続けることを選択した模様。
 サイレンススズカは「2着なら胸を張って良い」と言いますが、「この前も1着だったじゃないですか」と不服なようです。話の流れで、翌週の天皇賞秋のことに触れながら、「スズカさんと一緒に走りたい」と希望を口にします。サイレンススズカの方も「スペちゃんと走ってみたい」と言い出して、スペシャルウィークは大喜びです。次のジャパンカップに一緒に出られるようお願いしてみることになりました。もしこの機会を逸してしまうと、サイレンススズカはアメリカに行ってしまうから……。その前に一緒に走るという「約束」が二人の間に交わされました。

第7R②道なき道を

 いきなり山奥の旅館まで走っていくよう指示されるチーム・スピカの7人。坂の特訓とスタミナ訓練を兼ねたロードワークです。菊花賞に敗れたスペシャルウィーク、お腹が出ています。また食べ過ぎたのでしょうか?

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 現在時刻は15時。18時までに到着しないと夕食抜きと告げて、トレーナーは車を出して行ってしまいました。トレーニングと言うより、道なき道を行く修行と言わんばかりのこのメニューですが、サイレンススズカが地図を持って先に行ってしまいました。サイレンススズカの脚では置いて行かれかねません。慌てて残り6人も走り出します。

 視点は変わってチーム・リギルの練習風景。グラスワンダーマルゼンスキーに並走トレーニングを願い出ます。毎日王冠での初の敗北を味わったグラスワンダーですが、負けに慣れたくないと言います。それを聞いてマルゼンスキーは快諾します。
 一方エルコンドルパサーエアグルーヴにサイレンススズカについて訊きます。昨年は勝ったエアグルーヴですが、今年は敗れています。サイレンススズカは去年とはまるで別人だと評価しています。ハナはその違いを、「サイレンススズカは他のウマ娘など関係なく、タイムトライアルのように走っているため」と分析しました。天皇賞で当たるヒシアマゾン(史実ではヒシアマゾンとサイレンススズカは同じレースで競ったことはありません)に「できるだけ食らいつけ」と指示します。エルコンドルパサーも「凱旋門賞に出るためにも次は負けない」と気持ちを新たにします。

 すっかり真っ暗になった灯りのない山の中の街路を走るスピカの7人。やっとの思いで旅館に到着すると、浴衣を着たトレーナーが待ち受けていました。「遅えぞ!」「とっとと風呂入って汗流して来い!」と指示するトレーナーに、

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「お礼はさせてもらいますわ」

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 メジロマックイーン、トレーナーを絞めます。こういうことを率先してやる人なんですね、マックイーン。それを見つめて、

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良い笑顔を見せるサイレンススズカ。このチームの皆が、雰囲気が、本当に好きなんですね。

 入浴回……的なシーンはなく、風呂上がりに早速チームメイトに、サイレンススズカがジャパンカップ後に渡米することが伝えられます。「納得するまではいるつもり」と強い意思を持っていることを伺わせますが、チームメイトは皆「もっと近くで走りを見たかった」「寂しくなる」と寂しそうです。

 夕食。「食べ放題って聞いたけど?」「特上お寿司!」「ニンジン追加」と遠慮なく好きなだけ食べまくる7人。

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 その横でジャパンカップ出走を直訴するスペシャルウィーク。トレーナーはチームから2人出してどちらかが負けることを嫌って渋りますが、これを条件付きながら了承します。次々と走りたいと言い出すチームメイト達に、サイレンススズカは「楽しみにしている」と笑顔を見せます。その横で財布の中を見ながら、トレーナーは一人がっくり肩を落とすのでした。

 帰路の車中。後部座席では6人がすっかり眠っています。サイレンススズカは、「アメリカに行く報告をする」機会を作ってくれたトレーナーに感謝の意を伝えます。「私をチームに誘ってくれて有難う御座います」という静かな呟きを聞いて助手席に目をやると、サイレンススズカも眠っていました。
 いえ、眠っていませんでした。寝たふりをしてチラッとトレーナーの方を見ていました。

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そして静かに、

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目を閉じます。

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 安らかに。まるで遺言を伝え終えて臨終の時を迎えたかのように

第7R③天皇賞秋

 11月1日、東京レース場第11レース「天皇賞秋」、1枠1番に入る1番人気のウマ娘、サイレンススズカ。こんなに1が並ぶなんて、何か運命的なものを感じますね。その運命は「Destiny(偉大なる運命)」なのか、「Fate(不可避な宿命)」なのか、それとも「Doom(悲惨な定め)」なのか。
 物販でもサイレンススズカグッズは早々に完売。皆がサイレンススズカの鮮やかな勝利を期待しています。こういう注目を集めている時にこそ、何かが起こりそうなものです。

 ターフに向かうサイレンススズカ。ふと気付くと、左足の靴紐が外れていました。メジロライアン(史実では出走していません)、ナイスネイチャ(左に同じ)らが声をかけてきましたが、エルコンドルパサーは一瞥もせずに去っていきました。その後緊張で身体が痒くなっているウイニングチケット(メジロライアン、ナイスネイチャに同じ)、「タイマン、逃げんなよ」と挑発するヒシアマゾン(左に同じ)らが出てきます。

 ターフに現れたサイレンススズカがチームメイトの所に歩いていくと、スペシャルウィークに四つ葉のクローバーを渡されます。ダービーの時にスペシャルウィークに幸運をもたらした、あの四つ葉のクローバーです。これを受け取って、「楽しんできます」と去っていきました。思えばいつも「楽しんでね」と言ってスペシャルウィークを送り出してくれていました。これこそが彼女の強さの秘密なのでしょう。

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 ファンファーレが鳴り、いよいよゲートインというところで、エルコンドルパサーがサイレンススズカに歩み寄ります。
「私は同じ人に2度も負けません。今度こそスズカさんに勝って、堂々と凱旋門賞にチャレンジします」
 サイレンススズカは笑顔で応じます。
追いつけるかしら?
 逃しませんと息巻くエルコンドルパサーでした。どちらが勝るか、いよいよ勝負の時です。

 ゲートが開いて一斉にスタート。サイレンススズカが先頭に立ちます。エルコンドルパサーは2番手、これまでの追い込み戦術から先行に変えてきました。しかし、サイレンススズカはエルコンドルパサーをぐんぐん引き離していきます。エルコンドルパサーに笑顔はありません。ヒシアマゾンもメジロライアンもナイスネイチャもウイニングチケットも、あまりに速すぎて完全に置いてけぼりになっています。
 1000mの通過タイム、57秒4。通常60秒程度が平均的とされる中で、明らかに速すぎるペースです。解説の細江さんをして「こんな快速で走るウマ娘、今まで見たことがありません」と言わしめるほど。

「気力も体力も今までで最高。私は……走れる!

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 なんと、さらにペースを上げました。サイレンススズカの走力は、先程ので全力ではなかったのです。あまりに圧倒的なレースですが、サイレンススズカはまだまだ走れます。まだまだ――――

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――――運命は「まだまだ」を許しませんでした。大欅を過ぎたサイレンススズカは、突如失速を始めました。

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「え…?」

 実況さえ言葉を失いました。明らかにおかしな走り方をしながら、彼女はどんどん速度を落としていきます。

 その場にいた誰もが目を疑い、言葉を失いました。
「サイレンススズカ……サイレンススズカに故障発生です!


 笑顔なく、天皇賞を制した盾を掲げるエルコンドルパサー。レースには勝ちましたが、勝ったのにこれほど無表情なエルコンドルパサーもこれまでなかったでしょう。

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 マルゼンスキーも、テイエムオペラオーも、ナリタブライアンも、エアグルーヴも、タイキシャトルも、皆悲しげな顔をしていました。チームメイトの勝利を誰一人祝える気持ちにはなれませんでした。

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 ハナは記事を読み、トレーナーを気遣って電話するも、彼は出ません。病院の待合室に集ったチーム・スピカの面々も、皆複雑な表情で目を伏せていました。

第7R④病床のサイレンススズカ

 目の前には白い蛍光灯と天井が映っていました。そして、心配そうに覗き込むルームメイトの顔。サイレンススズカが目を覚ましたのです。
 スペシャルウィークは慌ててトレーナーを呼びに行きました。サイレンススズカは下を見ると、そこにはギプスで固定された左足がありました。

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 トレーナーが病室入ってくるのを見てサイレンススズカは起き上がろうとしますが、それを見たトレーナーは「無理するな!」と声を荒げます。しかしすぐに静かなトーンに戻り、こう言いました。

「こうして話せてホッとしている」

 サイレンススズカはレース中に骨折したことを知りました。不安な気持ちをぶつけるように、質問します。

「骨折ということは、治りますよね?」
「……ああ。もちろん」

「走れるように……」
「……ああ。まあ」

レースに出て、全力で走れるようになりますか?

 一瞬の沈黙の後に、振り絞るように、トレーナーは言葉を紡ぎました。

「前と同じように100%力を出し切って走ることができるようになるかどうかは……わからない

 その言葉にサイレンススズカは悲しい表情を見せます。しかし。

いえ! 走れます!

 スペシャルウィークが笑顔で、しかも自信満々に言い放ちます。

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「絶対レースに出られます!
 ほら、スズカさん、私と約束したじゃないですか!」

 そして、スペシャルウィークはサイレンススズカのリハビリを全力でサポートすることを約束します。そんな時。

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 チームメイト皆ドアの前で話を聞いていましたが、バランスを崩して病室に雪崩込んでしまいました。皆チームメイトの容態を心配していたんですね。
 こんな状況でもいい意味で緊張感が希薄なチームメイト達に、でも確かな気遣いを感じて、サイレンススズカも思わず笑みがこぼれます。

「スズカ先輩、あの後、覚えてないんですか?」
 ウオッカが訊きます。
「トップスピードで挫いて転んだりしたら命を落とす危険性もあったのに、骨折で済んだのはスペ先輩のおかげだって」

 実は、サイレンススズカを救ったのは、スペシャルウィークでした。左足の故障を見抜いたメジロマックイーンの声を聞いて、スペシャルウィークとトレーナーはターフに飛び入り駆け出しました。そのまま走り続けたらサイレンススズカの命はないかも知れません。スペシャルウィークは持てる全力でサイレンススズカの元に走りました。そしてサイレンススズカを抱きかかえ、

「左足を下に付けるなぁっ!!!」

というトレーナーの声に従って左足をかばい、ゆっくり芝に寝かせました。荒い呼吸を繰り返すサイレンススズカに、必死で声をかけ続けます。

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「スズカさんは、どんな時でも約束を守ってくれたじゃないですか。
 だから……私と走るって約束も、必ず守ってもらいますから。
 スズカさん……聞こえてますか? ……スズカさん!」

 一生懸命声をかけ続けました。声をかけ続けて、サイレンススズカは、

「ありがとう」

絞り出すように一言、そう呟きました。その声を聞いて流した涙は悲しみでしょうか。悔しさでしょうか。それとも、安堵でしょうか。

「約束、守らなきゃね」

 病床のサイレンススズカが笑顔を見せました。これからです。サイレンススズカはこれから、もう一度カムバックを果たすために、スペシャルウィークとの約束を果たすために、そして再びよみがえるために、ここからまた這い上がっていくのです。

「これからも一緒に、走るんです!」

 スペシャルウィークの宣言を以て、今回はここまで。

第7R・総評

 第1期のシリーズで、この回より視聴者の心をバキバキに心を折ってくる回はなかったのではないでしょうか。サイレンススズカの骨折という大きな悲劇。本人も、トレーナーも、チームメイト達も、ここからまた這い上がる物語を紡ぐためにはどれだけ厳しい試練を乗り越えねばならないでしょうか。

 第5話のダービー同様、史実に忠実な物語を紡ぐ上で、その史実に背くのは本当に難しいことです。史実のサイレンススズカはターフの上で散りました。そんな物語を望んでいないのは制作陣も視聴者も同じでしょうが、ではどのように避ければそれを安っぽい改変で済ませずに、皆が納得できる形に収めた上で、感動に昇華することができるでしょうか。

 ここまでを単純に見ていくと、現時点では「やはり死なせなかった」というところで止まっています。ここから先、史実に忠実であればあるほど、本来死んでいるはずのサイレンススズカの存在が歪みとなっていきます。どう辻褄を合わせるのでしょうか。そしてどう運命を打破させるのでしょうか。この時点で評価をするには、まだ早いのではないかと思います。

サイレンススズカの死

 サイレンススズカは史実においては、ここで死んでしまったわけです。ではこのアニメは単純に「死ななかった世界線」にしているのでしょうか。視聴者が見たい、あるいは制作者が見たい夢をそのまま形にしただけなのでしょうか。

 サイレンススズカの死はこの物語において直接的には回避されたものの、実は間接的にはちゃんと描写していたのではないかと、私は思っています。

 では何処でそれが描かれていたのか。それは車での帰路のシーンに隠されているのではと思っています。

 具体的には、「私をチームに誘ってくれて有難う御座います」と呟くシーンです。

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 この時、サイレンススズカが「寝たふりをする」必要性はあったでしょうか? 照れ臭いから? 仮にそうだったとして、ではその後の【間】は必要あったでしょうか? 眠りに落ちるまでを描くのに
 少なくとも、このアニメは今まで1秒たりとも、無駄なシーンは存在していませんでした。24分のアニメ12本の中に可能な限り必要な情報を詰め込むために必ず何か意味があるシーンで構成されていました。今回に限り、引き伸ばす意味の希薄な【間】を3秒も入れる意味はなんでしょうか?

 私は、この時の「私をチームに誘ってくれて有難う御座います」こそ、トレーナーに最期に伝えたかった遺言だったのではないかと思います。そしてその後ゆっくりと目を閉じるのは死の暗喩だったのではないかと思っています。

 目を開けていては、そのまま会話が続いてしまいます。ですから一度目を閉じた後で目を開け、再び時間をかけて「死」に向かっていくことを描写し、視聴者に彼女の死を一度自然な形で見せつけたのではないでしょうか。

 では、何故彼女を一度死なせる必要があったのでしょうか。理由は大きく分けて二つあると思います。
 一つはサイレンススズカに自身の死を乗り越えさせるため不死鳥のように一度死んでよみがえるような描写なのかも知れませんし、あるいは一度死を経ることによって史実を切り離し、以降を運命から完全に切り離されたサイレンススズカにするためかも知れません。いずれにせよ、サイレンススズカ自身が自分の運命を断ち切り、現実世界では止まってしまった時計を止めないために敢えてそうしたのではないか、というものです。
 もう一つは視聴者も一緒に彼女の死を乗り越えさせるため。何がどうあれ、史実のサイレンススズカはここで死を迎えます。アニメでは生き永らえましたが、それは別に当然の流れというわけではありません。特に史実を知るものからすれば、そこからサイレンススズカの死を連想することを止めることはできません。なので、死を敢えて予感させる演出をすることで心の準備ができる時間を稼ぎ、その上で物語の流れを受け入れてその死を乗り越えさせるためだったのではないか、というものです。

「Silent Star」はサイレンススズカの死を描いているのか

 サイレンススズカの死について描いているポイントはもう一点、今回限りのEDテーマ曲になっている「Silent Star」にもあるのではないか、という意見も散見されています。
 この曲はサイレンススズカ(役の高野麻里佳さん)が歌っている曲で、サイレンススズカ自身の何らかの心情やメッセージを歌ったものと考えて良いでしょう。

 私は作詞家でもありますから、歌詞については一家言あります。基本的に歌詞というのは、小説などとは違い、可能な限り抽象的に書かれます。一つの情景や心情を描写することで、それが二重三重の意味に受け取られるよう、あるいはそれが各々の記憶にそれぞれ別々の形でリンクするように書きます。そうすることで、できるだけ多くの人が歌詞に「心当たり」を見出すようにするのです。恋愛の曲などはそうですね。文字数が極限まで限られる歌詞の世界では、このようにすることで逆に誰にとっても没入しやすいように書かれるのです。

 さてこの「Silent Star」の歌詞、時折出てくるワードがそれぞれ何を意味していると想定するかによって多少解釈に違いが出るようになっていますが、基本的には「主体はサイレンススズカ自身」であることに疑いようはありません。問題は「やさしい人」とは誰なのかです。私が最初に受けた印象ではスペシャルウィークのことだと思ったのですが、これを武豊氏のことであると捉える人もいるようです。それでこれを、武豊氏への別れの言葉を歌った曲であると解釈する向きもあるようです。もしこれがスペシャルウィークのことであったとしても、遺言、あるいは死後の世界からのスペシャルウィークへのメッセージと捉えることもできるかも知れません。

 何故別れの言葉、あるいは死後の想いを歌った曲だと解釈できるのか。それは歌詞の世界の中では基本的に「ひとり」「孤独」だからです。自分自身と「やさしい人」以外には誰もいません。しかも「やさしい人」さえも、常にそこにいるのではなく、一瞬見えている情景の中か、あるいは記憶の中にしかいないのです。あれだけの仲間に囲まれていたサイレンススズカがひとりでありえるでしょうか? 孤独でありえるでしょうか? それは死後の世界にいるから孤独なのではないでしょうか?
 ――とこのように読み解くこともできる一方、生きている彼女を「ひとり」「孤独」と描写するにも十分な理由はもちろんあります。過去の彼女はひとりきりで、友達もおらず、孤独にレースを走っていたことが明かされています。彼女は孤独をすでに知っているのです。
 また、彼女はこれから孤独な戦いを強いられます。他の皆とは違うリハビリメニューで、自分自身と戦い続けなければなりません。いくらスペシャルウィークらが支えてくれると言っても、誰も肩代わりはしてくれません。結局は自分自身の孤独な戦いなのです。自分の身体と、自分の心と戦い続け、最後に勝っていなければレースには復帰できないのですから。それを描いているのだとしたら、この歌詞は死後の世界の歌ではありません。

 歌詞の世界は抽象的であるが故に、その抽象的な言葉をどのように受け取ったかによって見える情景が全く違うものになります。したがって、この曲を死後のサイレンススズカの歌と捉えることも可能だし、生きてなお自分の夢を追いかけ続けるサイレンススズカの歌と捉えることも可能なのだと思います。ですので、私はこれをどちらだと決めつけることはせず、それぞれが納得する形で聴けば良いと思っていますし、どちらと解釈しても通ると思っています。特にラスサビの歌詞は、どちらと捉えた時にも、見える情景はとても美しいものになると思いませんか?

前を見て進む時 誰もみな ひとりだ
決して流されることなく 自分の速さでいい
やがてまた夜が来て 星が生まれて
新たな光 見つけられる

きっと未来で きっと待ってる 輝く Silent Star

 死後のサイレンススズカがこの歌詞を歌うなら、スペシャルウィークなり武豊氏なりに「無理しないで、自分のペースで頑張って、新しい夢を探して。先に逝ってずっと待ってるから」とメッセージを送っているように受け取れるし、生きているサイレンススズカが歌うなら「今までと同じ夢はもはや見ていない。でも焦らず自分のペースで行こう。そうすればまた新しい夢が見つかる。きっとそこに夢はあるはずだから」と決意を新たにしているようにも受け取れるのです。どちらであってもサイレンススズカらしく、美しいじゃないですか。この美しい情景のどちらか一方しか見ることができないのは、私には勿体なく感じられます。

 「Silent Star」というタイトルもまた、私の目にはいくつかの意図が見え隠れしているように見えます。「Silent Star」、カタカナで書けば「サイレントスター」。静かな星。星は静かに瞬くものですし、星を夢だと捉えるにしても、夢は静かにそこにあるものです。そのような本質的なことを端的に表現したタイトルだと思います。
 また、サイレンススズカの名前にも多少なりとも関連付けているように思います。「Silent」は「Silence」の形容詞形ですし、サイレンススズカとサイレントスター、カタカナにした時も文字数も同じ、8文字中5文字が完全一致し、母音が同じになるのがさらにもう1文字あります。これで無関係、偶然であるとは言い難いですよね。
 そして、サイレンススズカを「静かなるスター」と評するのも、また素晴らしくカッコいいと思いませんか?

 以上から、この曲を以てサイレンススズカの死を描いているとは断言こそしないものの、そのように受け取ることもできるし、また同時に「死を乗り越えたサイレンススズカの歌」であると捉えることも可能だと思っています。いずれにせよ、このウマ娘の世界観におけるサイレンススズカが歌うにはとても相応しい歌であると思います。

サイレンススズカは何故助かったのか

 さて、サイレンススズカの死を回避する狙いが制作陣の中にあろうとも、彼女が助かるだけの十分な要因がなければ、彼女の運命を変えることはできません。史実を元にした物語であるからこそ、制作者の夢想全開のご都合主義であっては、視聴者の心は世界に没入できないのです。

 サイレンススズカが死を免れることができた要因は、大きく分けて二つあると思っています。

 一つはサイレンススズカやスペシャルウィークがウマ娘だったからです。「馬」ではなく「ウマ娘」だったから、サイレンススズカは助かったのです。
 ウマ娘は馬並の走力を持っていますが、頭脳は人間のものです。状況を判断し、科学的に適切に行動することができるのです。しかも走力は馬に匹敵するので、人間の何倍もの速度で駆けつけることができます。スペシャルウィークが迅速かつ適切に行動したからこそ、ある程度以上のケガの悪化を止め、手遅れになる前に病院に搬送できたのかも知れません。馬ほど大きく重くもないことも、救急搬送がスムーズにできた要因になり得ます。
 また、医者も人間の医者がそのまま診察し、治療することができます。ウマ娘とは意思の疎通も可能ですし、ウマ娘側も医者の言うことが理解できるので痛くて暴れまわることもありません。サイレンススズカはほとんど意識を失っていましたのでコミュニケーションの必要はなかったかも知れませんが、これもウマ娘だからこそのメリット、擬人化の恩恵だった可能性があります。

 もう一つは、サイレンススズカはラッキーだったからです。もちろん「史実と違って生き延びられる程度のケガで幸運だったね」という投げやりな意味ではありません。これのことです。

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 スペシャルウィークにもダービー制覇という幸運をもたらした四つ葉のクローバーが、サイレンススズカにも幸運をもたらしたのです。その幸運は、残念ながら彼女を1着にはできませんでしたが、ケガが致命的にならない幸運、スペシャルウィークが(自身もケガしたり転んだりしてしまうことなく)駆けつけてくれる幸運、治療がきちんと施される幸運、何より命の意図が繋がる幸運を運んできてくれました。ちゃんとした根拠があってのサイレンススズカのラッキーさが彼女を救ったのです。

 このように、一見ご都合主義と捉えられないような話の展開にも、一つ一つに根拠がちゃんと用意されており、それらを緻密に組み合わせて説明可能なように物語が紡がれています。もしかしたらもっと設定を詰めることができて、より完璧な形で描き出す余地もあるのかも知れません。ですが、史実においてはもはやこれ以上続くことがないサイレンススズカが生きる時間を、これだけしっかりと作り上げてくれたこと、そしてファンはもちろん、本人もトレーナーもチームメイトもライバルたちも望んだサイレンススズカが生きている未来を紡いでくれることに、ファンとしては感謝の意こそあれど、文句を言ったり非難したりすることなどできるでしょうか。むしろ、サイレンススズカが再びターフに舞い戻るその時が待ち遠しくなるのではないでしょうか。


終わりに

 というわけで、今回は本編についてよりも、描写や歌詞の分析についての文章が長くなりました。ウマ娘プリティーダービーのアニメ1期で一番伝えたかったのはこの回についてだったので、ようやく書けてホッとしています。10,000文字を超える長文になりますが、この想いが伝われば重畳です。

 次回の第8Rは、今回ほどは長くはならないはずです。また次回お会いしましょう、SHO+XENONでした。


もう1回アニメを見返しませんか?


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