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【ストーリー論】ウマ娘のアニメ、ものすごく良くできてない?って話【第1期編⑧】
SHO+XENONです。
友人がこの連載をちょっと読んでくれたようで、「このアニメを見たことないのに、手にとるように話の流れが分かる」と言ってくれました。あらすじを追うだけでなくかなり細かく描写を文章化していますから、この記事を読むだけで得られる情報量は相当多いと思います。
今これを読んでいる人の大半はすでにアニメを見たことがあったり、どっぷりファンになっていたりするでしょうが、もし貴方がまだアニメを見たことがなくて、でも私が書く記事で興味を持ったなら、アニメの方をぜひ視聴されることをお勧めします。マジでいい作品なので!
サイレンススズカが死を乗り越えた前回、いよいよここからは「ただ生き永らえた」だけでなく、名実ともに「復活」のために歩いていくことになります。一方、スペシャルウィークの時間は流れ続けています。両者にとっての時間はその速度が違っていますが、そのことがそれぞれにどのような影響を与えるのでしょうか。
本題に入る前に
ここに至るまでのこの物語は、【プロローグ】→【主人公の成長】→【一度目の勝利】→【敗北】→【限界の突破】→【更なる大きな勝利】→【絶大な挫折】と、王道中の王道と言える展開をしています。
ここから想定される以降の王道展開は、前半の展開を【挫折からの復活】の中で繰り返すことになります。そして、【復活】を果たしてからの【大勝利】による【大団円】に繋がっていくのですが、この復活までの道筋の中に【更なる挫折】と【二度目の限界突破】が何処かのタイミングで起こることになるでしょう。
そして、この物語はスペシャルウィークとサイレンススズカ、二人にスポットを当てて展開していきます。ですので、二人がそれぞれ違う段階にいる状態で、大きな流れとして物語が展開していくこともあるのです。サイレンススズカの経歴を全て追いかければ完全にそうと言い切れないところはありますが、物語の中においては、まだサイレンススズカの挫折は一度目ですし。ということは、二人共にこれから、何らかの二度目の挫折が用意されている可能性もあるのです。
さあ、この読みが当たるかどうかも含め、第8Rを見ていきましょう。
第8R①冒頭
トレーナーが慌ててサイレンススズカの病室に入ってくると、彼女の傍らでスペシャルウィークが眠っていました。
スペシャルウィークはサイレンススズカの想いも背負ってジャパンカップに挑んでいましたが、結果はエルコンドルパサーとエアグルーヴに敗北。スペシャルウィークは、本来なら一緒に走るはずだったサイレンススズカのためにも絶対に勝ちたかったのでしょうが、力及ばず。その無力さと悔しさで、膝から崩れ落ち号泣してしまいます。
あの日以来、スペシャルウィークは毎日サイレンススズカの病室を見舞い、世話を焼く毎日でした。ただ、サイレンススズカはそのことに複雑な感情を抱いていました。気持ちは嬉しいが、スペシャルウィークはちゃんと自分のトレーニングができているのだろうか?
走りたくてうずうずしているというサイレンススズカ、逸る気持ちを抑えきれないのか「早くトレーニングを再開したい」と言い出します。不安を口にしそうになった時、スペシャルウィークが飛び起き「復帰したら絶対私と一緒に走るんですからね!」と大声をあげます。まずはジャパンカップの反省会だとトレーナーに連れ出される彼女を見つめて、サイレンススズカは笑みを浮かべます。が、不安な気持ちを隠すことは、扉が閉まったその瞬間までしかできませんでした。
皆のキャラが立っていますね。意外と皆字が上手い。特にウオッカ。もっとガサツな字を書くと勝手に思っていました。
こういうのを見ても感じるのですが、サイレンススズカはもともとリギルのメンバーでもあったとはいえ、例えばリギルとスピカは敵同士なわけではなくライバル同士、互いに競い合うけれども、誰かが傷ついた時には皆で励まし合う、そういう関係なんですね。熱いけれども殺伐とはしていないこの感じ良いですよね。
第8R②WDT(ウィンタードリームトロフィー)の日
新年、この日、夢のようなレースWDTが開催されます。どうやらこの世界における「トゥインクルシリーズ」での現役を終えたウマ娘は、次のこのようなシリーズに移ってまだ走り続けるようです。その出走者の中には会長・シンボリルドルフもいる模様。世代を超えた夢のレース、確かに現実の競馬ファンも見てみたいことでしょう。
車椅子のサイレンススズカもその映像を見ていました。そこにスペシャルウィークが駆け寄ってきます。どうやら迎えに来たようです。サイレンススズカの手にも外出許可願が。
チームメイト達の前に二人が現れました。おもむろにスペシャルウィークはサイレンススズカの脚を見せます。その脚はもうギプスが取れていました。今日はチームメイトとトレーナーでWDTを見ながら新年会をやるようです。
トレーナー、財布に隙間風を吹かされたり下準備させられたり締め上げられたりしながらも、豪華な鍋を作ってみせました。美味しそう!
チームメンバー各々が好き好きに楽しんでいますが、スペシャルウィークはずーっとサイレンススズカの横で世話を焼き続けています。ややサイレンススズカも困惑気味。
そんな中で、テレビ画面はWDTの様子を映し出していました。勝つのは皇帝・シンボリルドルフか、シャドーロールの怪物・ナリタブライアンか(名前は呼ばれませんでしたが女傑・ヒシアマゾンか)、スーパーカー・マルゼンスキーか、二段ロケットのフジキセキか、地方から来た怪物・オグリキャップか。
その様子を見ていたチーム・スピカの面々も感化されてきているようです。トウカイテイオーは会長コール、サイレンススズカはじっと画面を見つめ、スペシャルウィークはただただ唖然。ウオッカも「俺達もいつかここで走りたいです」と訴えます。それを受けてメジロマックイーンとトウカイテイオーは「結果を出さなければならない」と気持ちを新たにします。
トレーナーはそれぞれにアドバイスします。
スペシャルウィークには、「ムラがあり過ぎる。ダービーだけが日本一じゃないぞ。」
ウオッカとダイワスカーレットには「競い合うライバルがいるのは速さへの近道だ。相手に負けるな。」
トウカイテイオーには「才能に甘んじるな。その向こう側を見つけろ。」
メジロマックイーンには「泥臭くても努力しろ。」
ゴールドシップには「好きなように走れ。」
そしてサイレンススズカには、「もっとお前で夢が見たい。リハビリ頑張れよ。」
今年のスピカはリギルを超える、気合で負けるな! その言葉で気持ちを引き締めたメンバー達を、トレーナーは何処かへ連れ出します。行き先は神社。初詣ですね。甘酒を堪能するトウカイテイオー、【凶】のおみくじに残念そうなメジロマックイーン。そして、ファンに囲まれるサイレンススズカ。スペシャルウィークも応援して貰えました。
それぞれがそれぞれの想いを胸に参拝。サイレンススズカは「必ず復帰します、レースに」と神様に誓いを立てました。
第8R③冬が過ぎ、春が去り、夏が来て
雪の降りしきる冬の日。スペシャルウィークはお母ちゃんへの手紙の中で、サイレンススズカに毎日付き添っていること、リハビリを頑張っていることなどを書いています。
桜が咲く頃、チームの皆が勝利を重ねる中、サイレンススズカも自分の力で立ち上がり、少しずつではありますが歩けるようになってきました。
もうすぐ夏。まだサイレンススズカの脚は完治こそしていないものの、日常生活を送るには支障ないくらいまで回復してきました。
そしてとうとう9ヶ月と3日の時を経て、チームメイトとサイレンススズカの7人が、同じように走れるときがやってきました。スペシャルウィークの世話焼きは、ここに来てもまだまだ続いているようです。
その様子を目にし、喜びのあまり柄にもなくサイレンススズカのもとに駆け寄るエアグルーヴ。隣りにいたマルゼンスキーも回復を祝福します。
邪魔して悪かったと謝るエアグルーヴに、スペシャルウィークは「嬉しい」と返します。サイレンススズカの復帰を皆が待っていることが分かって嬉しいようです。
その会話の中で、次の宝塚記念でスペシャルウィークは初めてグラスワンダーとぶつかることが明かされます。第1話から一緒にいながら、今まで一度も直接対決をしたことがないグラスワンダー。以前の復帰戦ではサイレンススズカやエルコンドルパサーに敗れていましたが、その実力は如何ほどでしょうか。
第8R④宝塚記念を前にしたスペシャルウィークとグラスワンダー
一方グラスワンダーの方も、スペシャルウィークとの直接対決を意識していました。「スペシャルウィークは抜きん出た存在になりつつあるが、それはお前もだ」と評価するハナに「余裕はありません」と慢心はない様子。「『獅子は兎を狩るにも全力を尽くす』と言う。全力でぶつかれ」と諭します。グラスワンダーも、その言葉を噛みしめるように「全力でぶつかる……」と呟きます。
そんなグラスワンダーに対し、スペシャルウィークはリハビリの本を(セイウンスカイが頭に何冊もの本を乗せても気付かないほど)読みふけったり、
グラスワンダーやセイウンスカイとのランチを「スズカさんの所に行かないとだから」と言って断ったり。
その様子を、少し冷めた目で見つめるグラスワンダーがいました。「最近様子が……」と、少なくとも彼女の目からはスペシャルウィークのここのところの言動は「おかしい」と感じているようでした。
甲斐甲斐しく世話されならが、サイレンススズカはスペシャルウィークに言います。「走ることって幸せね。」その言葉にスペシャルウィークもますます喜びの気持ちを大きくしていました。
いよいよサイレンススズカも練習で本格的に走るようになりました。しかし本調子ではないサイレンススズカは、途中で止まってしまいます。それを見つけて駆けつけるスペシャルウィーク。それを有難く感じながらも、サイレンススズカは「自分のことに集中して」と諭します。トレーナーは「サボるな」とスペシャルウィークを追い散らす一方で、サイレンススズカにも「慌てるなと言ってるだろう」と声をかけます。
ある日、グラスワンダーはスペシャルウィークをランチに誘います。「スズカさんと……」と断ろうとするスペシャルウィークに、グラスワンダーも「それじゃあ私も一緒に」とついて行くことにします。
その日の食堂では、スペシャルウィーク、サイレンススズカ、グラスワンダー、セイウンスカイの4人が一つの食卓を囲んでいました。そこではエルコンドルパサーからの手紙が読まれ、海外でも変わらずに頑張るエルコンドルパサーの様子が感じ取れるものでした。そんな会話の中でも、スペシャルウィークは「スズカさん……」と、サイレンススズカの方ばかり見ています。グラスワンダーが残念そうに目を伏せました。
グラスワンダーはサイレンススズカに脚の具合を訊きます。グラスワンダーも脚の怪我で大変なリハビリをした経験があります。その時のことを踏まえ、同じ境遇を経験した者同士の会話をしようと試みます。「焦らず一つずつ」。その言葉に呼応するように、スペシャルウィークも「スズカさん、私も手伝います!」これにグラスワンダーは驚いた表情をしました。
「あの……スペちゃんは、宝塚記念のこと考えてますよね?」
とうとうグラスワンダーがスペシャルウィークに訊ねます。きっとこの瞬間までずっと胸の奥でもやもやとした違和感を覚えていたのでしょう。「うん!」と力強い返事を聞いて安心した表情をするも、直後にグラスワンダーの表情はまた曇ります。
「去年のスズカさんみたいに、カッコ良く走れたらって思ってるんだ」
「私のことは……?」
ついにグラスワンダーが、心中のもやもやを吐き出し始めました。が、すぐに言い直し、「頑張りましょう」と声をかけます。
ごちそうさまと立ち上がったサイレンススズカの食器を横から、「私がやります!」とスペシャルウィークが持っていってしまいました。セイウンスカイは「ホントに仲良しだよねぇ、あの二人」と微笑ましく見ていましたが、
「そう、ですね」
肯定しつつも、グラスワンダーの表情は、静かな怒りを湛えているかのように、固くなっていました。
第8R⑤宝塚記念
宝塚記念は6月末から7月初頭に阪神レース場で行われる、芝・2200mのGIレースで、上半期の総決算的なレースとして捉えられています。過去にはサイレンススズカが制しただけでなく、マヤノトップガンやビワハヤヒデ、メジロマックイーン、タマモクロス、イナリワンといった名馬達がこのレースを制しています。そんな重要なレースにて、スペシャルウィークとグラスワンダーがぶつかります。
グラスワンダーの目はスペシャルウィークを見ていました。そして、これまでにない猛烈な闘気に満ち溢れていました。
さあゲートが開きレース開始!キングヘイローの3番手に続く5番手にスペシャルウィーク、すぐ後ろにグラスワンダーがいて、ピッタリとマークしています。そんなスペシャルウィークの様子を、サイレンススズカは画面越しに心配そうに見つめていました。
「スズカさん、見てますか?
私、スズカさんが走ったレース、走ってます!」
スズカさん、スズカさんと頭の中で考えていたスペシャルウィークは、唐突に殺気に似た何かを感じ取ります。
「スペちゃん。今日の相手は、私ですよ」
それがグラスワンダーが放つ猛烈な闘気でした。「スズカさんなら…」と第3コーナーでスペシャルウィークが仕掛けますが、それをグラスワンダーが猛追します。
「今日のスペちゃんなら、私の相手じゃありません!」
グラスワンダーは並ぶことすらなく、スペシャルウィークをかわして前に出ました。「スズカさんが見てるのに!」と焦るスペシャルウィークですが、本気のグラスワンダーの前になすすべもなく……。
そしてそのまま、グラスワンダーが後続に3バ身差をつけて、1着でゴールインしました。
へたり込むスペシャルウィークの前にグラスワンダーが立ちました。スペシャルウィークを見下ろしながら、ここまで胸の内に抱えていたものを吐き出します。
「私はスペちゃんだからこそ全力でした。
スペちゃんは私に全力で来てくれましたか?」
敗北を噛み締めたスペシャルウィークは、また悔しさを叫ぶために「あの場所」に向かいました。そこにいたのはトレーナー。
「レースは甘くない。そしてメンタルはとても重要な要素の一つだ」
「スペ、今日何考えて走ってた?」
そう、スペシャルウィークは、「スズカさん、スズカさん」と、サイレンススズカのことしか考えていなかったのです。
「スズカさんのこと……」
「お前は誰だ?」
「スペシャルウィークです……」
「今日の競争相手は誰だった?」
「……グラスちゃんです」
「なあスペ。お前の目標って何だ?」
「スズカさんと一緒に走るって約束……」
「それだけか?」
トレーナーの問に、スペシャルウィークは心底意外と言った表情を浮かべます。スペシャルウィークは初心を忘れていました。
じっと目を見つめられ、やっと、思い出します。
「お母ちゃんに勝ったところ見せてあげたかったのに!」
そう、お母ちゃんとの約束、日本一のウマ娘になること。これがスペシャルウィークの夢でした。よそ見をしている場合ではなかったのです。
「秋だ。秋のレース、全部勝つ!」
トレーナーの言葉に、ようやく闘志が戻ってきました。
そしてその頃、サイレンススズカは、一人夜の中を走りに出ていきました。何か大事な想いを秘めて。
第8R総評
このシリーズ中見ていて最もイライラした回でした(笑)。
この回はスペシャルウィークにとって大きな敗北を知る時でした。これからもっと上向いていきたいところにそびえ立つ巨大な壁に押し返され、とうとう打ちのめされる回でした。
誰かのために尽くすこと、本来であればとても美しいことだし、大事なことだし、尊ばれるべきことです。しかし、そのことが今回、スペシャルウィークから闘志を削ぎ落としたのです。
彼女はアスリートとして最も大事なことを忘れていました。初心を忘れ、あろうことかアスリートとしての本分を忘れていました。そして、サイレンススズカの優しさが故もありますが、しかしサイレンススズカの言葉、グラスワンダーの眼差し、どれも彼女に届いていなかったのです。トレーナーとの最後のやりとりが、スペシャルウィークの敗因を簡潔に如実に表していました。「スズカさんスズカさん」ではいけなかったのです。それに気付けず、結局敗北することになってしまったのです。
しかし、ここでスペシャルウィークが目を覚ましたのであれば、また自分の限界を超えていくことでしょう。次回以降どうなるか、見ていきたいですね。
それではまた次回お会いしましょう。SHO+XENONでした。