専門家の利益相反問題。
これまでに「授乳・離乳の支援ガイド」の改定に関わる委員の問題、#おやすみポカリキャンペーン、粉ミルクで牛乳アレルギー予防といった発信の問題について記事にしてきた。
今回、これらの問題と共通する要素から起きたと思われる出来事について紹介する。
きっかけは以下のコラムである。
「朝の栄養バランスコラム」
https://www.glico-youji.jp/column/
このコラムは、離乳食や幼児食のアドバイザーの認定なども行い、一般向けにも情報提供を行っている「母子栄養協会」の代表理事によって書かれたものである。
この協会による発信は、原則的には育児に役立つ良好な情報がほとんどであることを前置きしたい。
しかしながら、ご覧いただければ分かるようにこのコラムは「幼児のみもの」という商品を支持するものと読み取れる。
#おやすみポカリの記事で飲料とむし歯の関係を詳述しているので詳しくはそちらを参照していただきたいが、この商品が対象としている1歳児に与える飲料としては糖分が多く含まれており、決して推奨できるものではない。
WHOのファクトシートが要点がまとまっているので分かりやすいだろう。
https://japan-who.or.jp/factsheets/factsheets_type/sugars-and-dental-caries/
なお、コラムの筆者は「このコラムと商品(幼児のみもの)は切り離して書いた」と述べているが、それはあまりに苦しい言い訳だろう。
とはいえ、この記事はコラムの筆者や母子栄養協会を批判しようという意図はない。
専門家にとっても一般の方にとっても概ね有用な情報を発信している専門家や団体が、なぜときにこうした過ちをおかしてしまうのか、という点に主眼を置きたい。
授乳・離乳の支援ガイド、#おやすみポカリ、粉ミルクで牛乳アレルギー予防。
これらの問題すべての背景によこたわるのが「利益相反」である。
ここでいう利益相反とは、専門家や団体が企業から資金提供などを受けている場合に、患者利益と企業利益が相反し、為される行為や情報発信が公正に行われない可能性のある状態と捉えていただきたい。
授乳・離乳の支援ガイドは、その改定に関わる委員が乳業メーカーとの利害関係が確認されているため、液体ミルクの取り扱いについて疑念が生じる。
https://note.com/sho_x/n/n62b131456976
#おやすみポカリは企業によるキャンペーンであるが、医師がポカリスエットを推奨する背景に利益相反がある。
https://note.com/sho_x/n/n62b131456976
そして粉ミルクで牛乳アレルギー予防の問題は論文の解釈の仕方が主な原因ではあるものの、引用された論文で用いられた粉ミルクが乳業メーカーから提供されていたという利益相反が存在する。
https://note.com/sho_x/n/ncf07b30103c8
そして今回のコラムについても、コラム筆者は当然ながらこの飲料メーカーと利害関係がある。
それゆえに、この商品を幼児に推奨することの問題点を公に発信することができないと考えられる。
コラム筆者は以前より、企業から商品提供を受けていることを公に明かしている。
そのことからもこの業界全体が「利益相反」に対しての認識が浅く、コラム筆者に限らず企業からの商品提供は日常的なものとなっていることがわかる。
しかし「利益相反」の影響はそう甘くはない。
商品提供を行って企業を利することがなにもないのであれば、なぜ企業は商品提供をするのか?
当然であるが、少なからぬ利益を企業が得ることを分かっているからこそ商品提供を行うのである。
それがいち個人の発信だけでなく、団体の発信、そして国の指針にまで影響を及ぼす。
「自分だけは大丈夫」というのが一番危ないと言うが、利益相反もまさにそれなのである。
企業は利益を追求するのが当然である。
WHOが指針を出しても商品自体がなくなるということはない。
そのため、この利益相反についていかにシビアに対応するかは、専門家それぞれの判断次第となっているのが現状であるが、個々の責任とするには少々酷な話でもある。もらえるものをわざわざ買うのか?ということだ。
利益相反に対する認識、そしてその指針などは、第三者機関によるガイドライン作成(この作成にも利益相反対策が必要)や、それぞれが監視する文化的な環境が必要であるように思う。
繰り返される情報発信の問題は、個々の「ヒト」の問題ではなく、仕組みによる「コト」の問題だと考える。
発信者の責任にするのでもなく、受け手の責任にするのでもなく、
そういう仕組みが今存在していない「コト」が問題なのだ。