内発的発展論とRENEW
「くたばってたまるか」という強烈なステートメントを掲げた2020年のRENEW。
福井県企業のコロナ禍での事業活動に関する緊急調査(福井県立大学地域経済研究所調べ)において、”業況は、上期(1-6 月期)、回答企業の 70.4%が「悪くなった」”との調査結果が示すとおり、コロナ禍の厳しい地域経済状況は続いているが、RENEWに新しい光を確実にみさせてもらった。(2020年10月9日(金)〜10月11日(日)開催)
RENEWは、福井県丹南エリアの工房を一斉開放する産業観光イベント。今年は、76社が出展し、工房見学やワークショップを楽しむことができた。昨年の2019年を例にとると、来場者数28,000人(延べ計算)、売上18,000,000円という凄まじい成果を残している。
ただし、RENEWにとって産業観光イベントとは大事な一側面であり、それだけを見るとさらに大事なもののことを見落としてしまう。トークイベント「RENEWのつくりかた」にて、RENEW事務局長の森くんは、RENEWの目的を“持続的で内発的な動機をデザインする”ことであると表現していたことが象徴的だった。
”持続的で内発的な動機”と聞いて、国際協力の現場が長く、英国シューマッハカレッジで学んできた自分にとっては、”内発的発展/endogenous development”のことが頭に浮かんだ。
内発的発展は、日本では鶴見和子氏の内発的発展論が源流だろう。著書「内発的発展論」において、”内発的発展”は以下のように冒頭で表現されている。
”もし発展が、個人として、また社会的存在として、解放と自己展開をめざす人間の発展であるとするならば、このような発展は事実上、それぞれの社会の内部から発現するものでなければならない。”
その土地らしさやその土地に住む人々らしさへの尊重のない外発的な発展が世界的に進行したことへのアンチテーゼでもあった。
この世界の源流をたどると、経済学者E.Fシューマッハのミャンマーでの経験にはじまったと私自身は捉えており、著書「スモール・イズ・ビューティフル」でその意識は広がり、チリの異端の経済学者マックス・ニーフのHuman Scale Developmentが精神的な柱となりながら、”もう一つの経済”と呼ばれる内発的発展の運動体は脈々と広がっていった。今現在も。
そんな内発的発展の流れを、RENEWをつくりあげる若人からひりひりと感じたのだ。
今年度のRENEWには鯖江市の牧野市政の締めくくりにも巡り合わせがあった。スペシャルトーク「鯖江市長トーク」では、牧野市長とRENEWクリエィティブディレクターの新山くんの愛のつまったトークショーが発生。内容は、あの場に集まった皆さんの心の中の秘密ですね。とにかく、愛のつまった、人間っていいな~という時間で涙なくしてその場に居ることはできなかった。
そのトークの中で、牧野市長は、なんども、”若者の居場所と出番”の重要性にふれられ、加えて、市政の原動力は”市民力”であったと力強いお言葉があった。内発的発展論を現代的にかみ砕くと、この言葉に行き着くのだとメッセージをいただいた気分であった。
内発的発展の世界的な意識の流れに現代性とデザインの力を加味し、内発的発展の世界に誇るベストプラクティスであるRENEWが、地元福井に、たくさんの友人たちの手でつくりあげられていることに、ただ感動し尊敬した3日間だった。
地域づくり愛好家 /福井県立大学 地域経済研究所 准教授 高野翔