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居場所と舞台 幸せ実感できる社会の礎

* 2022年10月23日に福井新聞「ふくい日曜エッセー」に寄稿した文章です。https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1658926 

 幸せな生活において、ほっと安心できる居場所と自分を表現できる舞台が欠かせない。今回は、居場所と舞台という二つの場所の重要性について綴ってみたい。

 人の幸せを学問するウェルビーイング研究の系譜を辿ると、幸せとは何かを哲学的アプローチにより問うことからはじまった。古代ギリシャに生きたアリストテレスは、幸せを最高善と呼ぶ。幸せとは、誰しもがそうなりたいと願い、人が生きる上での最上の目的であるとした。以後も多くの哲学者がこの問いを繰り返してきており、社会的動物である私たち人は、紀元前から現在まで2500年もの間、幸せをずっと問うてきている。そして、これからも。

 次に、二つ目の社会科学的アプローチ。個々人の価値観を尊重し主観的な視点を重視し、幸せの実感であるウェルビーイングを測定する研究および測定方法がここ20年で進歩した。これにより、一人一人の幸せの状態や集合体としての国や地域の幸福度を数字により見える化することが可能となった。これまで幸せに関しては、哲学や思想による議論が一般的であったが、多様な関係者と合意がとれる科学的な数字を介して幸せを議論することができるようになった功績は大きい。公共政策の現場である国や地方自治体において、ウェルビーイングをビジョンに掲げ、自治体政策としてものさしを策定し、人々のウェルビーイングの測定を行う事例が国内自治体でも多く見られるようになってきた。地域の強みや課題を人の幸せの視点から明らかにすることまではできるようになってきたと言える。

 しかしながら、では実際どうやって人々のウェルビーイングを深めることができるのか。この点は、まだまだ手探りな状態である。そこで、三つ目の新たなアプローチとして、まちづくりアプローチとしての場づくりに私は注目している。人々の幸せを深めるプロセスに欠かすことのできない人と人とのつながりや他者との対話や協働が生まれうる最小の空間単位としての場の在り方にヒントがあるように思うからだ。

 先行して、越前市において、居場所と舞台の研究調査を行った。自分の住まう地域にほっとできる居場所があるとおもうか、また、自分を表現したり活躍できる場や機会としての舞台があるとおもうかを尋ねると、地域に居場所と舞台を持てているという実感が高い人ほど幸福度が高く、加えて、引き続き住み続けたいという定住意思も高いことが分かった。

 人々が幸せに人生を生きるためには、自分らしく生きられる尊厳が守られ、だれしもが持っている可能性が花開くことが基盤となるが、尊厳の保護を支える「居場所」と一人一人の人間が可能性を実現する機会と選択肢を支える「舞台」という二つの場所がやはり重要なのだ。

 裏を返せば、自分の住む地域に居場所と舞台を得られない、または感じられないということであれば、その土地を離れてしまう可能性が高まる。ありのままの自分を受けとめてくれる居場所がなければ、出て行きたくなる。学びたいことを学べる場や安心してやりたいことに挑戦できる働く場、自分を表現できる文化芸術の場などの舞台がなければ、外の地に行きたくなる。その気持ちはみな想像できるだろう。

 自分たちの地域に、居場所と舞台はととのっているだろうか。同様に、家族の中に、職場の中に、学校の中に、居場所と舞台と感じられる場や機会はあるだろうか。このまなざしが、誰もが幸せを実感できる社会に向けた礎となる。

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