夏
夏はあんまり好きじゃない。
東京の夏はあんまりにも暑すぎる。
なので僕は毎年、梅雨が明けると昼夜を正式に逆転させている。
だから夏の思い出はほとんどない。
別に遊びにも行かないし、なるべく家にいたい。
でもたまに家を出ると夏を感じさせられる。
例えば去年、制作に行き詰まってた時ちょっと近くの川までサイクリングに行った。そこはいつも行くルートで人はほとんどいない。
なのにその日は川に行くまでの道に何故か人が多かった。不思議に思いながらも川にたどり着くと、
土手には見たことない数の人がいて、その奥に屋台がたくさん並んでいるのが見えた。
ーーーーそして空には花火が上がる
夏祭り?なのだろうか。
みんな歓声と共に携帯を掲げて花火を撮っている。
その様子を呆気に取られながら自転車を漕いでいると
近くの警備員さんに
「自転車は押して歩いてください」と呼び止められた。
僕は黙って自転車を降りる。
いつも人がいないこの場所に選んできてるのに、自転車の僕がまるでお祭りに迷惑をかけてるみたいじゃないか。いつもはみんないないくせに。夏だからって。
もう引き返そう。帰ろう。
そう思ったのだけど気付けば後ろにも人だかり。自転車で簡単に抜け出せる状況でもない。
仕方ないのでゆっくり自転車を押して歩いた。一度コンビニにも寄って水を買った。
そしてコンビニを出た時
後ろで大きな歓声と共に最後の花火が上がった。
そしてそれは帰宅の合図でもあり周りの人たちは振り返り僕と同じ方角の帰路につきはじめる。
その瞬間だった。
ぽつり。と手に水滴が落ちた。
雨だ。さっきまで雲ひとつなかったのに花火が終わった途端の雨。
すると近くにいた人から
「よかったあ、花火の時に降らなくて、運がよかった!」
チラッと顔を覗き込むと笑顔で友人と話す女性の顔が見えた。その友人もまた笑顔だった。
じゃあ花火のせいで制作の息抜きができなくて、帰りに雨にも降られて運が悪いのは僕だけじゃないか。
悔しくなって帰り道ではないが人のいない道に進んだ。
そしてさっきまでは弱かった雨が一気に降りかかる。
僕はたくさんの人を背に坂を上る。
すごく制作に集中していてただ作りかけの曲を聴きながらサイクリングしたかっただけなのに。
これだから夏は嫌いなんだ。
1年を1日に通してみたら夏はまるで昼間のように感じる。
きっと春が朝で、夏は昼。
秋が夕方で、冬は夜だ。
僕は昼の日差しももちろん嫌いだし、朝まで起きて制作してる時に差してくる朝日も嫌いだ。
僕はまだ今日を生きてるのに強制的に明日が迫ってくるような感じがある。
そしてお前はまだ昨日を生きている。って言われる気持ちになるのだ。
本当に鬱陶しい。
だから僕はカーテンは閉めっぱなしで朝眠り、夕方に起きる。
春と夏には出来れば会いたくない。
夏には特に。
梅雨もどうか明けないでくれないか。