短編pt2: 謙虚な王
この国には謙虚な王がいる。
でもその実態は謎に包まれて、僕たちマケマケ国の国民はどのような仕組みで王が決められるのか知らない。
畑仕事しかしてない僕らが住むこの村では王の姿を見たものなんかいないのだ。
王の動向を知れるのは毎週でる新聞のみ。そこには王の功績が常に称えられるかのように記される。
“王が怪鳥の被害に遭った村を訪れ皆を勇気付けた”
“王が遭難してしまっていた隣の国”カチカチ国”の者を助け、衣食住をさしあげた”
新聞に記されている王の偉業ははどれも素晴らしく暖かさに包まれていて僕らはこの王が好きになった。
「今朝の新聞を読んだかい?」
「まだ読んでないよ、今度はどうしたの?」
「あのカチカチ国相手に正直に軍事力の低さを一番に認めこの国だけは戦争を回避したらしいよ」
「それはすごいな…戦争にならなくてほんとによかった…」
この謙虚な王が王になる前は、傲慢な王という王がいた。
その王はとにかく傲慢で他国に喧嘩を売る日々だった。そして遂にその中でも隣にあるカチカチ国とは特に仲が悪くいつ戦争になってもおかしくなかった。
きっと仲が悪いのも傲慢な王のせいなのだろう。
だから傲慢な王はついこないだあった100年に一度の選挙で負けた。
「俺達は勝てる。」
とばかり言って自分では何もせず僕らを危険な目にさらす。そんな彼の100年間の傲慢な態度に僕らの嫌気がさし、僕たちは愛想尽かしたのだ。
傲慢な王を倒したこの新王こそがこの謙虚な王である。謙虚とはいいものだ。
謙虚だから他の国と戦争にならないし僕たちも王を信用できる。
自分の力、そして国の力を過信せず自分たちに見合った事をしてくれる。
「そういやもうすぐ王様会議の時期らしいぞ。僕らの新王を他国に見てもらえる初めての機会だ」
「遂にか…今までは喧嘩っ早い国だと思われていただろうからこれからは他国とも手を取り合えるかもしれないな。」
今年はちょうど50年に一度の王様会議。
何をするかは知らないが各国の王が集まって情報を交換したりするのだろう。
きっとここで謙虚な王のまっすぐな姿勢が認められたら僕らの国にも変革が訪れるかもしれない。
我々は期待した。王様会議は今夜だ。
だが次の日、僕らの国は消滅した。
その日は爆撃の音で目を覚ました。
慌てて飛び起きるととんでもない数のミサイルが撃ち込まれていて僕たちはなす術もなくあっさりカチカチ国に捕虜として捕まってしまった。
何もわからないうちにカチカチ国の兵に捕まった僕らは地下深くにある牢獄にいられた。
僕たちを見てニヤニヤしているカチカチ国の兵士がいる。
僕らは尋ねた。
「何があったのです?こんな事をして我々の王、謙虚な王が許すと思ってるのですか?」
すると兵士は答えた。
「許すもなにも謙虚な王が軍事力がないからって負けを認め我々の征服を許可したのだぞ?」
「なんと…カチカチ国との戦争を回避したと新聞で読んだが…?」
兵士は笑いながら答える。
「お前達は戦わずして負けを認めただけだよ。
前の力強い王が居なくなったと聞いてどんな強い王が来るのかビクビクしてたが、なんだただの弱々しい王だったな。謙虚なだけの。ありがとな。選挙であの強い王から貧弱な王に替えてくれて」
そしてこう続けた。
「優しさだけじゃ国は守れないんだよ。お前達マケマケ国の国民が外の国からなんと呼ばれてるか知ってるか?」
「…なんだ?」
「マヌケな国民だよ」