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「、」を打つタイミング【小論文の極意】
よく「1文の長さの目安はどのくらいなのか」「句読点はどのようなタイミングで打つのが理想的なのか」というようなご質問をいただきます。
結論として、基本的にこれらについては明確なルールは存在しません。それではルールがない中で、いわゆる常識の範囲というのはどのような状態かを考察していきましょう。
【1】 1文の長さの目安
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書き手の目線として、もし頭の中にすでにしっかりとした理論が構築されており、後は「書く」という作業のみが残っているという場合、どんどんペンが動いていくものでどうしても1文が長く長くなってしまいがちです。しかし、読み手の側から見るとずっと日本語が並んで「。」で切れない状態が続いていると、極端に言えばもう眠くなってしまいます。後半に進むと最初の主語が何であったのかも記憶から遠ざかってしまい、結局何が言いたかったのかすら何も頭に残らずに終えてしまいます。そうすると真面目な人であればもう1度読み返すということにはなるのですが、それは決して上手に文章を書けたという状態ではないことだけは間違いがありませんよね。書き手としてどんどん書きたい気持ちはわかるのですが、どんどん書けそうな時こそ1文は短く短くする意識を持っておいて方が良いでしょう。
一般的な論文の目安としては、最長でも150字以上を1文で続けてしまうというのは好ましくありません。長くてもできる限り100字以内で1文をおさめるようにしておきたいですね。
ただし、国語(現代文)の説明問題のように、「なぜ〜か、200字以内で端的に答えなさい」と指示され、一言で一気に「〜だから。」として回答を締めたい場合は、一気に200字を1文で書いてしまっても問題ありません。それはもう全体で200字ということである程度読み手としても集中力を高めて一気に読み取ろうとするものだからです。全体で800字や1200字といった中での説明において、1文が長くなりすぎないようにしましょうということですね。
【2】 「、」を打つタイミング
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書き手の目線として、上記と同様、もし頭の中にすでにしっかりとした理論が構築されており、後は「書く」という作業のみが残っているという場合、どんどんペンが動いていくもので、そうすると「、」を打たずに一気にどんどん書き並べていきがちです。しかし、読み手の側から見ると「、」がなくどんどん日本語が並んでいると、簡単に言えば息継ぎをする場所さえも見つかりにくく、息が続かないような感覚で目も脳も疲れてしまい、理解が進みにくくなってしまいます。ですから、ある程度感覚として自分自身が息継ぎをするような切れ目では「、」を入れておくようにしたいですね。
また何か並列の関係の場合、A and B といった状態であれば特に「、」を打たずにそのままサッと並べておくのが良いわけですが、例えば、A which is 〜 and B that we believe〜のような形で、A and B が「AとB」のようにシンプルに並ばずある程度文の中で距離がある場合は、「〜というAと、〜と私たちが考えるBで」のように「、」を入れた方が良いでしょう。つまり、何かを並べる際の距離が近いか遠いかによって「、」が入るかどうかが変わるということです。
加えて、特に論文においては、「確かに」「しかし」「例えば」「なぜなら」「したがって」「率直に言えば」のように、論文全体の流れを見せる接続語の後には常に「、」を入れるようにしておきましょう。これは前段と同じように、段落と段落といった広い視野での流れを示すために必要だということです。
ただこの辺りはある程度の「感覚」が必要になってきますから、どんどん論文を書いていく中でそのコツをつかんでいくのが最も効率的だといえるでしょう。ルールが厳格に決められているわけではない以上、あまりこの部分を追求して時間も労力も費やしすぎず、その分は他の知識教養の蓄積や論述の技術向上に費やしておいた方が合理的です。
【3】 英語やドイツ語の読点
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英語やドイツ語、スウェーデン語を含めた欧米の言語での「,」という記号に対しては比較的明確なルールがあり、特にドイツ語の場合は厳格なルールがあります。しかし、日本語の読点「、」(本来横書きの場合は「,」とされていますが一般的には「、」と表記されることが多いようです)については特に明確なルールがあるわけではありません。それは言語の作り自体がそもそも異なるからです。英語やドイツ語は、アルファベットを並べるという形式であるため、単語と単語の間には常に1マスのスペースが入ります。そのため文字と文字との間隔というよりも言葉と言葉の間隔が常に存在することになります。それに対して日本語は漢字と平仮名・片仮名をまぜてスペースなく進めていくわけですから、言葉の切れ目が見えにくくなります。それを補う意味でも「、」が役に立つわけで、そもそもの作りが違うということです。ですから、あまり英語やドイツ語の「,」の感覚と日本語の「、」の感覚を同じように考えない方が良いでしょう。