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なぜ「うちの子は小(中)学校まで勉強ができた」のか。
私が勤務する私立高校に勤務しています。私は主には大学受験をする生徒を担当しています。
今まで担任をしたクラスも基本的に進学クラスです。
その時に保護者面談などでよく聞くのが「うちの子は小(中)学校まではすごく勉強ができた」という言葉です。
特に成績が伸び悩んでいる生徒の保護者ほど、このことを感じることが多いようです。
受験の構造を知っている人にとっては自明のことなのですが、この事について書いていきたいと思います。
小学校の時は誰もが高得点を取っている
まずは、これです。
小学校における「テスト」は業者テストと呼ばれる、市販の教材業者が作成したプリントテストです。
この内容は、教科書の確認事項をきちんとできているか、を問う難易度です。
そのため、自分の子供が100点だとしても、クラスにはそれ以外の多くの生徒もまた100点である可能性が高いのです。
しかし、教員側からはそれがわかっても、本人や保護者からはその分布は見えません。
したがって、自分の子供が100点を連発する秀才である、と考えてしまうケースは多いようです。
高校受験と大学受験の難度と分量の差
次に、中学校に入ってから定期試験などで上位の成績を取っている場合のケースを考えます。つまり中学校までは成績が良かったのに、高校で伸び悩んでいるケースです。
ここには単純に、中学校と高校で履修している内容の難度と分量の差が原因であることがあります。
中学校で学習する教科書や、公立高校入試のレベルは非常に簡単(大学入試と比較すると)です。記述式解答の割合もかなり低い上に、二重、三重に思考力を必要とする問題はほとんど出題されません。
さらに、分量に大きな差があります。
中学校と高校で学習する分量は、例えば数学であれば教科書の頁数だけでも3倍以上になります。
実際には内容や問題数なども考慮すれば、入試の前段階の時点で10倍程度差があると言っていいでしょう。
英単語などの必要な語数も、単純に共通テストレベルで6倍以上、難関大の試験ともなれば当然それ以上になります。
受験者数や層の違い
そして、三番目として「受験者数や層」の違いが考えられます。
これは特に偏差値で考えるとわかりやすいでしょう。
偏差値とは平均点の人を偏差値50、と強引に決めて平均点との点差を偏差値50±で考える指標です。
ですから中学校のときの偏差値50は同一県内の同年代、中学○年生の真ん中、ということになります。
しかし、高校(大学受験)ではそもそも模擬試験に参加するのが全員では有りません。日本の大学進学率は現在ようやく50%を超えたぐらいです。
ということは中学校の成績での上半分(正確に上半分とは言えませんが)の人しか受験に参加しない、ということです。
つまり、高校の全国模試での偏差値50は中学時点の上位1/4ということになるのです。
さらに、ここに地域性が加味されます。大学受験の偏差値は全国規模で集計されます。
私の住む九州地方は関東や関西と比較すると大学受験者も少ない(大学進学率は5割を切ります)上に平均学力が低いのです。
その上、高校受験において存在しなかった難関中高一貫校の超上位層も参加します。
ですから九州の中学生が高校受験で偏差値65を取っていたとしても、大学受験では偏差値55程度に落ちることは頻繁に発生します。
当然の帰結
以上のような結果、本人の努力している様子は変化がないのに極端に成績が落ちる、という事例が見られるわけです。
このように、普通の生徒が、普通に学習や努力をするだけの場合、必ず校種が上がっていくに連れて成績が落ちていきます。
ですから、成績が落ちる現象は当然発生する気象の変化、雨が降って気温が下がるようなものだと考えるべきです。
ただ、大学受験自体は分量が多い分、学習量で挽回できる余地は十分にあります。まずは先取りをベースとした計画と、早めの受験勉強の開始でしょう。