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教員不足を学級定員を増やすことで対応するという本末転倒な対策
山口県では教員不足を理由に学級定員数を引き上げることで対応できた、という発表をしました。
このニュースを見る限りでは、山口県は教員不足に対応したのに加え、不登校未然防止向けの教員を配置まで行った成功例のような印象を受けます。
学級定員を増やすという荒業
文科省の指定する学級編成基準は現在、中学校におては40人となっています。
山口県では県の基準で小中学校の全学年が35人学級となっていました。ところが、今回はこの基準を変更し、教員不足に対応するということです。
深刻化する教員不足を理由に、中学2・3年生を35人学級から38人学級へ。そして特定教科などを担当する専科教員の配置を一時的に凍結する方針。県教委によると、これにより、280人と見込まれていた教員不足が20人程度にまで縮小できたという。
もちろん、全国的には40人学級である状況の中で、35人学級で教育を行ってきた山口県は評価されるべきではあるのでしょう。
しかし、この基準を変更するという荒業で不足する教員数を補うというのは、問題の解決につながっているとは到底思えません。
学級定員数削減と教育効果
上のリンク先にもありますが、世界と比較して中学校の学級定員数は多いのが日本の特徴です。
日本の場合は平均で32.0名、欧米は25名前後から20名弱ぐらいであり、明らかに定員数が多いのは目立ちます。
もちろん学級定員の数に関しては諸説あり、必ずしも定員数を削減しても学力向上に寄与しないというデータも存在します。
私見ですが、ペーパーテストや一斉型授業によってある程度は担保される「学力」に関しては、定員数削減はそれほど効果が高くないのではないでしょうか。
特にオンラインやオンデマンド授業が普及した現在においてはなおさらその傾向は高まっているでしょう。
一方で、ディスカッションや討論、論理的に思考と説明、コミュニケーションに関してはどうでしょうか。
これらは定量的な測定が難しく、一概には結論を出すことはできませんが、やはり少人数の方がファシリテーションや管理が行き届くでしょう。
つまり、今後必要とされる個別最適な教育環境を構築する上では少人数学級は不可欠ということになります。
業務削減と定員数削減
また生徒側のメリットだけではなく、教員側に対する効果も考える必要があります。
教員が生徒に面談をしたり、個別の指導や相談、所見などの事務的作業を行う場合、学級人数が少なければ少ないほど細かい対応が可能です。
特に近年は保護者の要望も増える傾向にあり、少人数でなければ対応できないケースも少なくありません。
仮に大人数学級の場合に同じことを行う場合、時間が何倍にも膨れ上がってしまい、通常業務を圧迫し労働負荷は著しく増大します。
学級定員数を増やすことは教員の負担増につながる改悪としか言えないでしょう。
+3人の意味
この記事を読んで、もしかするとたった3人増えること文句を言うなんて教員は贅沢だ、という感想を抱く人がいるかもしれません。
単に自分の担当学級が35人から38人に増えるだけならばそれほどの変化はありません。しかし、この基準の数はそういった単純な話ではないのです。
仮に一学年が75人の学校があったとします。昨年まではこの学校では2クラスでは35人を超えるため、25人ずつの3学級編成になっていました。
しかし、38人学級になると38人と37人の2学級編成になります。
当然ながら、保護者や生徒は前年度と同じ対応を期待しますので、そのままの分量で業務を行えば、教員側は単純に面談や所見作成、評価などに1.5倍の時間をかけることになります。
もちろん、学級定員が増えたから昨年度までと同じことはできません、と断ったり変更することは可能かもしれませんが、そうした対応に不満に思う家庭もあるでしょう。
そしてさらにそのフォローに時間を割くか、増えた業務量に耐えるかを教員側は選択することになります。
ゴールポストを動かす本末転倒さ
こうしたゴールポストを動かす変更によって現状の問題に対処するというのは決して最良の方法とは言えません。
(ゴールポストの位置がもともとおかしければ話は別です)
今回の場合、少人数化は教育環境を向上させたり、教員の負担を減らしてよりよい循環を生むための施策だったはずです。
ところが、教員不足のために学級定員数を増やすことは、環境を悪化させ、負担を増やすことになります。
しかも、悪化した環境は教員志望者の忌避感を生み、悪循環にハマっていきます。
山口県の場合、そもそもは他県よりも少人数化に前向きに取り組んでいたはずなのに、こうした変更によって環境や待遇悪化を厭わないという印象さえついてしまいました。
280人の不足のうち、260人の不足を解消したという今回のこの制度変更は明らかに本末転倒な施策であり、根本的な解決になっていないのではないかと思うのです。