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入試制度のリセットは、入試だけにとどまらず、輩出人材傾向の固定化を変える副次的効果を持つ

ここ数年の教育制度改革によって、入試制度が大きく変化しています。

推薦や総合型選抜の拡充やセンター試験から共通テストへの流れはそうした一連の改革の最も表層に見える部分と言えます。

ところがこうした改革に対し否定的な見方をする人が結構な数存在します。

というよりも、現場の教員や塾、予備校の講師など教育関係者の大半はそうしたスタンスのように見えます。

共通テストに対する批判

一昨年度から始まった大学入学共通テストに対する批判は非常に多いようです。

以下の動画は、オンライン塾を経営されている方の動画ですが、主な主張としては共通テストを従来型のセンター試験のようなものに戻すべきである、というものです。

現状の共通テストは知能検査的な側面が強く、「英語力」や「数学力」をきちんと測定できておらず、受験で努力をした生徒が報われにくい試験になっているという内容を話されています。

この動画の内容やそれに類する主張をする教育関係者は非常に多いようです。

確かに実際の現場の肌感覚で言っても、まじめにコツコツ単語や熟語を覚え、問題集を地道に解いてきたようなまじめな生徒の結果が芳しくないケースは多いように感じます。

一方で、一見すると軽佻浮薄な高校生活を送っているような生徒がそこそこの高得点を取っているような姿も見かけます。

ミクロな現場視点では、既存の受験勉強的な努力の効果が表れにくい試験形式に変わった、と言って間違いないでしょう。

なぜ共通テストに変更したのか

文科省や大学入試センターはこれほどの批判を受けてまで、どうしてセンター試験を共通テストへと変化させたのでしょうか。

最も大きな理由は求められる学力観の変化です。

「主体的、対話的で深い学び」を目標とする新指導要領において、現在までに得た知識のストックやその利用よりも、見方、考え方を重視する方向へシフトしました。

現在の共通テストがそうした能力を測定するのに機能しているかはともかくとして、既有の知識である程度解ける分野を減らす方向に舵を切ったために現行の試験内容になったのは間違いないでしょう。

また、対策ノウハウが広く普及しているため受験者の学力を測りにくくなっているということもあるでしょう。

センター試験形式の入試がスタートして30年が経過し、その間に小変更がいくつも加えられては来ましたが、基本的には前年踏襲と調整で試験が作成されてきました。

その結果対策で高得点がとりやすい試験になったのは間違いありません。

特に高得点層の受験者の実力を測るのが難しくなってたため、「難化」という方向性を持たせのではないでしょうか。

人材傾向の入れ替え

そもそも試験の方式を変えるということは、その変更内容を問わずもっと隠れた副次的な効果が存在します。

それは、人材傾向の入れ替えを行うことができるということです。

日本という国家が構造的に抱えた問題の一つが、既存の制度があまりにも硬直化しているということです。

現状の日本社会のひな型は戦後ではなく、戦前に作られたシステムからできています。

憲法は戦後に成立し80年経過しても改正一つしていません。民法は1896年の成立から2020年の改正まで、120年間にわたってほとんど改正がされていませんでした。

大学の場合、明治期にさかのぼるような設立年での序列によって、科研費などが分配されています。

こうした制度を作り、守るのが既存の制度で優秀とされる人たちです。

彼らは既存の制度での優秀者であり、そのシステムを守る方向に動く傾向があります。

一方でそのシステムで輩出される人材は類似性が高くなりがちで、同質な人間が増えていきます。

この結果、日本においては同質的なエリートが自分たちのコピーを再生産する形で世代継承を行ってきました。そうした同質性が戦後の発展の基礎になったのも事実でしょう。

しかし、現状においてはそうした一方向的な人材の多さが判断の幅を狭め、柔軟さ政策実行を難しくしています。

受験制度改革はこうした人材傾向の総入れ替えを図るためのもっとも手っ取り早いツールの一つでしょう。

共通テストの方向性は変わらない

このロジックで考えると、おそらく共通テストの傾向自体が以前のものに戻ることはほぼ無い、といえるでしょう。

だからこそ、現場の教員もマインドセットを切り替えて現行の試験の方向性やフィロソフィを意識した上で、授業や業務を行う必要があるのではないかと思います。

「英語力」や「数学力」といったダイレクトな教科学力ではなく、それらを繋ぐベースとなる読解力や思考力、判断力をいかに高めるかを真剣に考えなければならないでしょう。
(教科学力自体は記述試験で問われるため軽視は当然できませんが)

教科横断的な思考や考え方を自身で身につけ、それを生徒に共有し、ともに学ぶ姿勢を持つことが現場の教員には求められているのだと思います。

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