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在職中に「大学院進学」をできる環境と制度の充実は、学位取得者を増やすには不可欠

産経新聞のオンラインに以下のようなコラムが載っていました。

政策決定に関わる官僚やエリート層に博士号の取得者が少ないという問題は以前から問題となっていましたが、現時点では解決していません。

産経のコラムでは給与面などの「待遇改善」をインセンティブとして取得者の採用を増やすべきだとしています。

新卒一括採用の弊害

そもそもこうした問題の多くには「新卒一括採用」という悪しき慣行があります。

もちろん、最近は徐々に緩んできているようですし、第二新卒という言葉も普及しています。

ところが、博士号取得には非常に時間がかかります。博士課程を卒業しても博士号を取得できるわけではないのです。

学部卒で22歳、博士課程単位取得まで大学に残ったとして27歳、これが最短になります。

特に文系の場合、ストレートでの取得は珍しく、多くは博士号取得まで至らないケースが多いことを考えると現状のシステムの中で博士号取得者を増やすの非常に困難です。

かくいう産経新聞も採用者条件において以下のように出しています。

令和5年4月2日に29歳未満で、同年3月までに大学院、四年制大学、短期大学、高等専門学校を卒業見込み・既卒の方、学部・学科は問いません。それ以外の方も上記の年齢未満で令和5年3月に卒業見込み、あるいは既卒であれば応募できます。

産経新聞社 採用サイト

29歳未満の制限は博士号取得者には厳しすぎる年齢制限です。
(あるいは新聞業には博士号は必要ないという自虐なのか)

日本人のインセンティブは「待遇改善」よりも「安定雇用」

この手の話において「待遇改善」が就職におけるインセンティブとして機能することが前提として語られます。

しかし、実際にはどうでしょう。

そもそも公務員という職業は人気がある、という一点においてもそれを否定することはできないでしょうか。

他職種と比較して公務員は決して待遇が良い、とは言えない職業です。同学歴と比較すると国家、都道府県、政令市、中核市などの公務員の多くは民間企業の社員よりも低い年収です。

また、残業代が満額支給されないことも多いのが特徴です。公務員の残業代は予算上限によっては支給されないこともしばしば存在します。

こうして考えれば、「待遇改善」こそが必ずしもインセンティブとはなり得ていないのではないでしょうか。

では公務員人気の理由はどこにあるでしょうか。

これはまさに「安定雇用」に尽きるでしょう。終身雇用、年功序列はもちろんのことですが、病休や育休、産休などの場合も雇用を継続することが可能です。

実際、女性の多くはこうした理由で公務員を志望することが多いのです。勤務校の卒業生には公務員になった生徒が数多くいますが、彼らは口をそろえて「安定雇用」を理由に上げます。

大企業や有名企業の人気の多くもこうした安定感によるものでしょう。

在職中に誰もが気軽に大学院へ

公務員には自己啓発等休業制度によって、在職中に大学院へ進学する制度があります。公立教員にも教職大学院への教員の身分を保ったまま進学する制度があります。

しかし、この制度の場合休業中は給与が非支給となるため、生計の維持が困難となるため利用が難しいのが実情です。

また国家公務員には国費留学や研修制度もあり、この場合はほとんどの費用が国費負担となりますが採用倍率も高く、キャリア官僚を主に対象としたシステムのようです。

つまり、現状のシステムの場合、在職中に大学院へ行くという選択は全体のごくわずかを対象にしているに過ぎないのです。

そうではなく、在職者が大学院へ進学を希望する場合、誰もが利用できる制度の充実と、それを支援する政策こそが大学院への進学率を上げることになるのではないでしょうか。

特に費用負担に関して、国費による支援を充実させ、民間企業でも活用をできるようにする、その代わり進学者に対しては一定期間の雇用契約の解除制限を設け、人材確保のメリットを企業側にも与えるなどの施策も考えられます。
(官僚の留学制度の場合、留学後に退職をしたため償還義務を負っているケースもあるようです)

いずれにしても重要なのは、学士取得者を優遇する方向だけでは、現状の日本の雇用慣行の中では効果が薄く、むしろ在職者にいかに学位取得を促すことが効果的なのではないか、という視点を持つことです。

学びなおし、リカレント教育を学位取得制度と紐づける

学びなおしやリカレント教育という言葉が流行り始めて久しいですが、残念ながら広く普及しているとは言い難い状況です。

その理由には、費用負担や時間の問題など様々ですが、何よりも職場や周囲の理解が得にくいことがあげられるようです。

私自身もそうですが、周囲にも大学院へ行って学びなおしをしたい、という考えを持つ人は決して少なくありません。

しかし、そうした場合、収入や生活の点から多くの場合は断念をしています。

もちろん、夜間や放送大学などもありますが、業務を継続しながら取得するのは非常に困難であり、相当なまでの覚悟と努力、周囲の協力が不可欠です。

学位取得者を増やす、という政策を考えれば「一部の勤勉な努力家」にできる制度で門戸を開いている振りをするのではなく、より多くの人が利用できる制度の充実は不可欠なはずです。

私もいつの日か、大学院へ進学したいとは常々考えています。ひとまずは現状の制度下、子育て道半ばの現状では難しいでしょう。
(ちなみに私は私立学校勤務ですので、退職もしないといけないことになります)




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