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「とある男」が成した業績は社会的価値が十分にあるが、内容そのものを過大評価をすべきでもない
「とある男が授業してみた」
「とある男が授業してみた」で知られている葉一氏。
教育系Youtuberの代表格と言っても過言ではない方です。
彼の上げた授業動画の数は2000本を超え、チャンネル登録者は200万人、総再生回数は7億回にも上るという化け物配信者です。
そんな彼のことが少し前にニュースになっていました。
彼の配信している内容は小中高の教科書レベルの基礎的な算数、数学が中心で、授業の予復習や家庭での範囲学習に活用している子供たちは少なくありません。
説明も分かりやすく、多くの子供たちの学習のサポートになっているようです。
工夫された内容
記事内には以下のようにあります。
服装も落ち着いた色のものを選び、繰り返し視聴する生徒を想定して雑談は挟まない。「授業の臨場感が何より大事」と、撮影途中でカットはなく一気に撮りきる。
さらに、スマホで視聴する子供が多いだけに、「小さな画面でも見やすいように」と導き出した文字の大きさは3・5センチ前後。視聴者の邪魔にならないよう、自身の姿が映らない立ち位置を心がける。解説は力強く明るい声を意識し「自分が視聴する側なら、暗い声の動画を見たいと思わない」と常に全力を注ぐ。
あくまでも学校の授業の代替品として成立するように構成されていること、字も丁寧で大きさも工夫されていること、などの配慮が細かくなされています。
また、授業者(葉一氏)が映らず、講師主体の予備校の講義動画との差別化されていることも特徴でしょう。
学校の授業と対立するものではない
こうした授業動画は学校の授業と敵対する存在ではなく、活用すべきツールの一つです。
確かにこの動画を見ればわかった気になる生徒もいますが、実際にはそこまで定着をしていないケースがほとんどです。
同内容の学校の授業を再度受け、演習を行うことでしっかりと定着させることが可能になります。
その道具として動画は非常に有用であること、現場教員が一つ一つの動画を作成する時間はないこと、動画にできるほどの説明スキルがある教員は限られることを考慮すれば、むしろこうした授業動画は教員や学校側が活用すべきものなのかもしれません。
所詮は無料のコンテンツ
その一方で残念ながら「とある男」の動画の内容に関しては有料コンテンツのような信頼性が無いことも承知しておく必要があります。
「とある男が授業をしてみた」が色々ひどい件。
— 黒木玄 Gen Kuroki (@genkuroki) September 5, 2021
引用【24÷0=0】😭
一応「問題が間違っております」とあるが、何が正しいかの説明はなくて、「無視して解いてください」になっている。
どうして動画自体を作り直さないのだろうか?https://t.co/V0U5FSUjEm https://t.co/aJOAaACy4X pic.twitter.com/7T3Gvw025g
上記はXにおける葉一氏の授業内容に関しての批判的なポストです。この黒木氏はこれ以外にも複数の指摘をされています。
こうした論理的な誤りや表現に関しての数学的な誤り、錯誤は葉一氏の動画の中に存在します。
もちろん彼の行った全範囲の動画を網羅し配信するという偉業自体を否定するものではありませんが、こうした内容に関する精査や批判は行うべきですし、そうでなければ誤りを拡散する装置にもなりかねません。
一つ注意しておくべきこととしては、上記の黒木氏も指摘していますが葉一氏の誤りのいくつかは算数教育者界隈や中学数学界隈においても方々で見られる光景である、ということです。
したがって、葉一氏だけを批判していない指摘も存在していますが、氏の持つ発信力はもはや市井の民のそれとは異なり、責任ある発信をする義務を負っていることを忘れてはならないでしょう。
あくまでも「補助」教材
繰り返しになりますが、葉一氏の行った動画授業を無料で整備する試みは偉大な事業ですし、多くの教員や講師が考えて、挑戦し、そして挫折をした行為です。
未だに彼がこうした取り組みを続けることは尊敬に値します。そしてその成果たる授業動画にも大きな価値があります。
私たち、現場の教員はそれを否定せずに活用することは目の前の生徒にとってこれまでよりも高い教育効果を得ることは否定できない事実です。
だからこそ積極的に活用をすべきだと思います。しかしその一方で不確かなものや専門的に疑問符の付く表現があるのも事実です。
そうしたデメリットを見極めたうえであくまでも「補助」教材として生徒にアドバイスをしながら活用することが、教員側に求められているのではないかと思うのです。