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【題未定】熊本市の教員採用改革──「青田買い」か「青田刈り」か【エッセイ】
先日、熊本市教育委員会は次年度の教員採用試験から大学3年生も受験の対象となる「チャレンジ選考試験」を導入するというニュースを見かけた。どうやら教員不足解決の手段としてなりふり構わない「青田買い」に出たということのようだ。
熊本市は昨年度の採用試験でも50名程度の不足となり、その後、追試験を行って定数を確保しようとしていた。当然ながらそちらも不調に終わり、複数回の実施で補う数は確保できたが、定数を満たしてはいないという。
こうした教員不足、教員不人気の傾向は全国的なものだが、一部の自治体では特に顕著にみられる。そして熊本市もその自治体の一つだ。その理由は部活動の地域移行に前向きな姿勢が見られず、教員の労務管理に対して積極的ではないという評価を学生が下しているためだと言われている。熊本市は小学校においても部活動を設置しており、中学校だけでなく小学校の採用に関しても悪影響が出ているのは間違いないだろう。
現代の若者はかつての若者と比較して明らかに我慢強さに欠けている、という評価は決して間違ったものではない。少なくとも理不尽や暴力に対する耐性が低下しているのは事実だ。
しかしそれは決して悪しき変化ではなく、個人が尊重され、権利意識を高く持っているということの裏返しでもある。そして、そうした若者たちがどうして不法な労働環境を維持し続けている学校現場に就職したいと思うだろうか。彼らの価値観の中に刻まれた「コンプライアンス」という概念は大人たちが想像する以上に深いのだ。
そもそもこの大学3年生を対象とするチャレンジ受験という制度はいくつもの問題点を抱えている。大学3年の時点では免許取得の途中に過ぎず、ここから免許取得をあきらめる学生も少なくない。また4年時の教育実習が形式的なものになる可能性がある。多くの教員志望の学生は教育実習で本当に教員を志望するかどうかを決めることを考えると実態に合っていないのは間違いない。
仮に本当に若者の受験者を増やしたいのであれば、小手先の試験の日程ずらしや「チャレンジ選考試験」などという詐欺まがいの囲い込みではなく、きちんと現状の課題を解決する方向性を見せるべきであろう。業務改善や職務内容の精査、そして部活動の地域移行などやるべきことはいくらでもあるはずだ。
今回の熊本市の教員採用における3年の囲い込みが次年度の倍率にどう影響するのか、そして実際の着任率にどう影響するのか、現時点では未知数である。まずは5月の採用試験の動向を見守りたい。「青田買い」が「青田刈り」にならないことを市民としては願うばかりだ。