
情報教員の不足に見る文科省の責任と制度改革の必要性
文科省が情報教員の不足に対し、改善計画を自治体に指示しているようです。
「情報Ⅰ」が共通テストの教科に加わることで、全国的な情報教員不足が深刻化しています。
学校によっては、常勤の担当者を確保できず他校と掛け持ちの非常勤の講師が対応する状況のようです。
共通テストの影響
今回の発端は共通テストの教科科目として情報を導入したことです。
従来、「情報」は標準単位数が2単位(一週間の授業は2時間ということ)のため、規定時数のみの授業の場合はそれほど教員数を必要としていませんでした。
例えば、一学年8クラスの場合、情報Ⅰは16単位、これは常勤の教諭、講師一人で賄えるわけです。
一学年が4クラスの小規模校などでは8単位となり、複数の学校を掛け持ちするケースがほとんどになるでしょう。
しかし、共通テストの教科になる場合、こうした時数では全く対策をすることはできません。
おそらく、最低でも4単位を想定する必要があります。
共通テストの導入が決まっている以上、教員の採用計画も含めて情報教育環境の充実は文科省主導で行うべきです。
なぜならば、教員の母数は教員免許取得者であり、養成機関における学生数や免許取得者の調整を全国的に行う必要もあるため、各自治体のみでの対応は不可能だからです。
標準単位数についての補足
学校教務に詳しい方にとっては当たり前ですが、学習指導要領によって決められた標準単位数は、その2倍を超えて履修することができません。
したがって、情報Ⅰを重く扱う学校であっても4単位以上履修させることは不可能です。
逆に情報Ⅱまでを教科設定すると、取り扱い内容が共通テストから逸脱し生徒の負担が重くなりすぎます。
そこで「学校設定科目」という制度を利用し、「情報演習」などの教科名を設定して2単位を追加するという工夫を行う学校も多いようです。
特例での免許交付は行わない
先述のように大量に必要なケースが考えられるのであれば、特例での対応を行うべきでした。
2002年の学習指導要領改訂において、文科省は新しく設定された「情報A」などの情報教科に対し、特例で免許法認定講習により情報の免許を数学や家庭科など他教科の教員に交付するという対応を行いました。
今回の変更は、確かに学習指導要領の改訂ではありませんが、共通テストという高校生の半数が受験する試験制度の改革であり、その影響の大きさは学習指導要領の変更に次ぐものと考えられます。
さらに、当時2002年の改定時に認定講習で免許を取った教員の多くは共通テストが変わる2025年には現場を去っている可能性が高いということが分かっています。

上の表は平成13年(2001年)当時の教員の年齢構成比です。当時の教員の中で現在も現場で教科指導を行っているのは20代の教員とするとこれが全体の1割弱、30代前半を合わせても約2割といったところです。
この中でさらに情報の免許取得者はどれほどいるのか、現場に隠れた情報免許取得者の数は期待できるほどではないようです。
情報教員養成大学、学部での取得率の低さ
また、情報の教員免許を取得できる大学の数にも問題があります。
情報教員免許を取得できる大学、学部は全国に多数存在します。しかし、その多くは工学部など実際には免許取得者をほとんど輩出していないのが実情です。
文科省の令和2年度教員免許状授与件数等調査結果によると、令和2年度の情報免許取得者は1323名、これは単位数としては必修2単位だけだった音楽や美術よりも少ない数です。
今後、情報の単位数が増加する、また課外授業や補習での対応を考慮すると非常に心もとない数字であることがわかります。
免許制度を含む抜本的な改革は不可避
当面は「情報」の免許取得などが話題になると思いますが、教員免許の問題はより深い部分にあるでしょう。
それは本当に教員免許制度が機能しているか、ということです。
以前にも書きましたが、過疎地域の学校では臨時免許で他教科の教員が授業しているケースが頻発しています。
公立教員の採用試験の倍率低下など、職務内容の精選や待遇の改善は不可避であり、その代表的な例が部活動の外部化でしょう。
そして免許制度や採用試験制度についてもより現代に合った形でのアップデートが必要でしょう。
その中には学制改革をありうるでしょう。戦後完成した6・3・3・4の学制や入学時期の変更まで考える時期に来ているのかもしれません。