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英語力92位? 日本人は本当に英語が苦手なのか


英語力民間調査、92位という報道

先日NHKが「英語力民間調査 日本は92位 調査開始以来 最低水準」という煽情的なトップで日本人の英語力低下に関する問題を報道しました。

英語を母国語としない116の国や地域を対象に、民間企業が行った英語力の調査で、日本は92位となり、低い水準にあることがわかりました。実施企業は、社会人向けの生涯学習プログラムの提供など、英語教育の改善が必要だとしています。

NHK newsweb 英語力民間調査 日本は92位 調査開始以来 最低水準

こうした報道は手を変え品を変え繰り返されていますが、今回はNHKが英語教育をごり押ししたい文科省や英語教育推進論者の片棒を担ぐ番が来たようです。

NHKによる「調査」と「指標」の混同

そもそもこの調査はどれほど信ぴょう性、信頼性のあるものなのでしょうか。

この記事の信ぴょう性の低さに関して、関西学院大学准教授で言語社会学者の寺沢拓敬氏がYahooニュースで記事を書いています。

NHKの報道は,いままでのメディア報道と比べても,かなり深刻な間違いをしています。
それは一言でいうと,EF英語能力指数を調査だと勘違いしているという点です。英語能力指数 (English Proficiency Index: EPI) は,その名が示す通り,指数です。調査ではありません。調査と指数の違いはシンプルです。あらかじめ「これを調べたい」という目的があり,その趣旨に基づいてデータ集めが行われるのが調査です。他方,既存のデータを収集し,事後的に加工・統合したものが指数です。
EF英語能力指数は,同社が留学事業や語学サービス事業用に提供しているオンライン英語力診断テストの受験結果を利用(流用)しているだけなので,明らかに調査ではありません。

要はこのEF社の用いているのは、あくまでも英語試験を受けた人たちの中から抽出した指標でしかなく、公平公正に、あるいは幅広く遍く調べようと調査したものではないため、信頼性が極めて低いというものです。

寺沢氏はこうした初歩的な間違いをNHKが起こしていることへの批判に加えて、このEF社の広報資料に近いような指標をあたかも公的機関が発表した正確なデータであるように報じるという公益性の観点からも問題視しています。

指標の信ぴょう性への疑い

これに加えて寺沢氏は別の記事で指標そのものの信ぴょう性に関しても疑問があることを述べています。

EF英語能力指数は,EF社のオンライン英語力診断テストを受験した人々の成績をもとに算出したものです。ランキングは,受験者の平均スコアを国別に算出して,それを上から順番に並べているわけです。したがって,各国民を偏りなく調査した統計ではなく,その英語力診断テストを受験した人々の平均値に過ぎません。

これに加えて文中では、算出方法の変更や毎年の乱高下など指標としてかなり不確かである理由を複数指摘しています。実際にこのデータを見る限りでは氏の言はもっともであり、このEF社の指標なるものがいかにいい加減で、信ぴょう性を欠くものかは明らかです。少なくとも公益性を謳うテレビなど公的メディアが右に倣えで報道すべきものではないでしょう。

英語力が低くはないし、低くても構わない

まずもって事実として、日本人の英語力は決して低くはない、ということです。

現在、現役高校生の半数弱が大学入学共通テストを受験します。ではこの試験の英語の平均点はどれほどでしょうか。令和3年から6年までの共通テスト(センター試験)の英語(リーディング)の平均点は58.80、61.80、53.81、51.54となっています。この受験者数はおおよそ48万人、相当な人数が受験をしています。その上でこの点数は決して低くはないでしょう。少なくとも現在の共通テストの難度を知っている人が見れば、日本人はなかなかに英語を勉強しているな、と感じるのではないでしょうか。

現在において、社会人が抱える英語への苦手感の多くは「話せない」ことに尽きると思います。しかしそれは日常的に英語を使わない日本という国家の特性上、致し方ないことでしょう。この共通テストの結果を見る限り、多くの日本人は環境次第で意思の疎通などのレベルでは問題なく英会話をできるようになるはずです。

そもそも日本は明治維新のころからの積み重ねで、母語で高等教育を受けられる環境を整えてきました。しかも内需で経済を回すことが可能な経済規模を誇る国家であり、英語を話せなくとも日常的に困らないことこそが長所でもあります。つまるところ英語力が低くても構わない、ということになるのです。もちろん国民全員がそうであれば困りますが、一定数は英語が得意な人が存在しており、彼らの才能を伸ばし能力を活用する場を作ることの方がより重要なのではないでしょうか。

早期の英語教育偏重問題

最近の報道はそうした現実と長所から意図的に国民の目を背けさせ、英語コンプレックスを煽っているように見えます。今回のNHK報道もそうした傾向の一つでしょう。

そうした報道は市井の人々にも影響を与えています。特に親世代は敏感になっているようで、私の子供の小学校でも英会話教室へ通わせている家庭はかなりの数に上るようです。

しかし果たしてそうした早期の英語教育偏重が本当に教育的効果があるのか、私は大いに疑問に感じています。母語の言語力が確立する前段階においてどこまで外国語の習得ができるのか、言葉遊びと猿真似に終始するのではないかと危惧するのです。

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