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【題未定】観光地熊本でSuicaが使えない――ICカード廃止がもたらす影響とは【エッセイ】

 熊本県内で路線バスを運営する4社が、全国ICカード(SuicaやICOCAなど)の先月中旬から利用停止となった。その背景には、ICカードシステムの更新費用がかさむという現実がある。公共交通機関を運営する企業がコスト削減を考えるのは当然のことだが、今回の決定は利用者にとって大きな影響を及ぼすものである。

 現在も含めて今後、ICカードに関しては地元専用の「くまモンのICカード」のみが使用可能だという。地元色豊かで可愛らしいカードだが、全国ICカードとの互換性が失われることで、これまでの利便性が損なわれるのは否めないだろう。特に、他地域から訪れる観光客や出張者にとって、この変更は不便以外の何ものでもないだろう。

 今回の決定を受け、最も気になるのは「費用負担」の重さだ。システム更新には多額の投資が必要で、これを維持し続けることが企業努力だけでは困難な状況だったのだろう。それでもなお、全国ICカードの利用停止が果たして最良の選択だったのか、議論の余地はある。バス事業は地域住民の足であり、地域経済や観光業にも密接に関わる。県内バス事業者によると、バスにおける全国ICカードの利用率は決して高くなかったから、ということだ。確かにバスは地域住民の利用率が高いため、その点では全国相互利用のシステム論理的根拠は薄いかもしれない。

 さて、ではどうしてそこまで「Suica」などのICカードのシステムの更新費用がかさむのだろうか。こうしたICカードは一般にNFC(近距離無線通信)と呼ばれるシステムを利用している。Suicaなどで使われているのはSonyが開発したType-F(=Felica)という国内での利用が中心のガラパゴスなシステムでかつ、加えてSuicaというJR東日本が利用するシステムをベースにした高規格のものだからとも言われる。

 観光都市熊本として、全国ICカードが使えなくなることは、観光客の利便性を損ねるばかりか、「熊本は不便だ」という印象を与えかねない。観光客が公共交通を利用しづらくなれば、地域経済への悪影響も懸念される。こうしたリスクを十分に考慮した上での決定だったのか疑問が残る。

 熊本県内バス事業者によると、全国ICカードの利用に代わってクレジットカードのタッチ機能を導入するという。しかし問題はその導入は3月以降ということだ。仮にICカードの廃止が決まっていたのならば、どうして同時期に導入ができなかったのか。観光への影響を考えるのならば、海外客の利用率の高いクレジットタッチは入れ替えで導入すべきだったはずだ。

 結局のところ、企業は運営を維持するために、利用者は新たなカードに慣れるために、それぞれが「負担」を背負うことになる。私たちは、目の前に現れた「くまモンのICカード」を受け入れつつも、便利だった過去を懐かしむことになるのだろう。

 コストの壁に阻まれた全国ICカード対応という夢。それでも、熊本の公共交通が今後も地域を支える重要な存在であり続けることを願ってやまない。

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