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「AよりがB大事なのだから、お金を回せ」という短絡志向の問題点
山形県では「人材育成」に予算を割く政策が議論されており、その具体的な政策の一つとして新採教員を原則担任外に着ける方針であるということが報道されていました。
政策自体は大いに賛成
この方向性自体は個人的には大いに賛成ですし、全国に波及するべきものだと考えています。
そうした内容に関して、以前に記事としてもまとめています。
とはいえ、担任外にするということは、最低限以上の人員を確保する必要がありなかなか難しいでしょう。
特に小中学校の教員採用試験の倍率は全国的にも低下の一途を辿っており、予算をつけて解決するかどうかは甚だ疑問ではあります。
とりあえずは任期付き講師制度という現代に残る奴隷制度を見直すきっかけになればよい、ぐらいには感じています。
スケール規模の異なるものを単純比較する短絡志向
この件の報道では、山形県はそうした改革のために約7億円を充てる、との具体的な予算数値も上がっています。
それを受けた形で、以下のようなツイートを見かけました。
「7億円の予算をつけるだけで、初任者を担任から外すことができる」ことがわかったのも大きい。
— とし (@toshi235711) February 18, 2023
もし7億円×47都道府県だとすると、329億円です。
ギガスクール構想には4600億円が掛けられました。
一人一台端末なんかより、先生を一人増やす方が大事です#教師のバトン https://t.co/9onBhOb5Pe
都道府県の数を掛ける、という計算の雑さに関しても問題ですが(リプで人口比で計算をしている人がいるようです)、それよりも気になるのはこうした短絡的な思考です。
ここではギガスクール構想で使われた約4600億円と新採教員の担任外配置で想定される金額を単純に比較しています。
こうした尺度の異なる2つを、同じスケールで比較をして、損得や功罪を単純化してしまうケースというのはSNS上やマスコミの論調でよく見られます。
防衛費と教育関連予算に関する比較をする人達
代表的な例は国防と教育予算に関する比較です。
軍事費倍増のための
— 東京新聞労働組合 (@danketsu_rentai) February 10, 2023
5000000000000円(5兆円)あれば
これだけ人々の暮らしを改善できる。https://t.co/MOo5sJGUVJ
年4兆円の防衛費増に「歳出改革、剰余金、増税」で対応すると言い出しだ自民党
— 望月衣塑子 (@ISOKO_MOCHIZUKI) February 12, 2023
3兆円あれば、中学、高校、大学の教育無償化、給食無償化が可能と言われている
年4兆円使うなら軍事に使わず、教育に使え❗️😤
大石議員
「金ない金ないと言って来た自民だが、では、何に使うの?」#軍拡より生活 https://t.co/2dg6LzDgPH
ここ最近も防衛費の増額に対し、その増額分を教育費などに充てた場合、何ができる、といった無意味な試算をしていたのが、東京新聞の組合や東京新聞の望月記者です。
彼らの思想信条として、防衛費の増額に反対するというのは理解はできます。(全く賛意はありませんが、そうした思想を持つ人の存在は受け入れる、という意味です)
また、教育費に対して増額を検討したり、貧困家庭に対するサポートの充実を訴えることも重要だと認識しています。
しかし、その2つを比較してあの予算をこちらに回せ、という思考があまりにも雑で幼稚な議論のように思えるのです。
防衛費は国家の存続に関わる前提条件の維持コスト
これは例えるならば、家計において教育費を増額するために極端にセキュリティの低い家に引っ越したり、食費を抑えるために1日1色にすべき、みたいな議論です。
無駄な出費を抑えるのは当然ですが、必要なものを削ってしまっては全く意味がないのです。
(国家レベルの場合、出費を抑える方向性自体も景気刺激や内需拡大の観点からは一概に正しいわけではありませんが)
必要な出費の代表格が防衛費です。これは国家の存亡にかかわる極めて重要な予算です。
もちろんこのために大幅な増税を行うべきかどうか、と言えば難しいところですが、少なくとも国際情勢が不安定になる中で防衛費の増額分を教育費や福祉に回すべきだ、という議論は余りにも稚拙です。
教育も福祉も、安定した国家運営が前提として機能するものであることを忘れてはいけないでしょう。
ギガスクールは次世代への先行投資
同様のことがギガスクールに関しても言えます。
これは将来的にICTを活用できるようになる人材を育成するための先行投資です。
その効果は短期的なものではなく、長期的な国家戦略に関わるものとなります。
もちろん、今回の投資が十分に活用されたか、効果がどの程度あったかという定量的な検証は必要です。
しかし、長期的な視野の政策に関し、現状で効果が見えにくいから教員の人件費に充てろという意見はあまりにも短絡的で幼稚な主張でしょう。
異なるサイズのものを比較しない
教員の労働条件や現状の待遇、制度的な課題など問題は山積みであるのは事実です。
しかし、そうした目の前の議論と、国家百年の計をまとめて議論しても全く意味がありません。
教員が、教育の問題について語る場合は尚更冷静にスケール感を意識した議論ができるようになるべきだと思うのです。
近年、そして今後はより一層求められるであろう、議論ができる生徒を育てるためにもそう感じるのです。