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小中一貫校という存在に対する個人的な考えと「もやもや感」
小中一貫校の増加
現在、全国的に小中一貫校が増加しています。小中一貫校は小学校で行われている初等教育と中学校で行われている中等教育の前期課程を合わせた学校形態で主に過疎地域に設置される学校種別です。
地方の過疎化が進んだ地域の場合、小学校が複数あったとしてもすべての学校が複式学級になるなど、児童数の確保が難しくなっています。しかし、学校分かれている以上は校長や養護教諭などを設置する必要があり、困窮する自治体の財政悪化の原因の一つともなっていました。
そこで地域の小学校を統合するとともに、それらの小学生が進学する予定の中学校を合わせて一つの学校とすることで、教職員の数を効率化することを主目的として現在、日本中の過疎地域で統廃合が進んでいます。
富士市の全校小中一貫化
そんな中、静岡県の富士市では市内の小中学校が全校小中一貫化するというニュースを見かけました。
現時点で校舎などをすべて一体化する一貫化は特定の学校のみのようですが、ゆくゆくは全校を一体化する方針もあるようです。
さて、富士市の小中学校が一貫を強力に推進するのにはいかなる理由が存在するのでしょうか。小中一貫のメリット、デメリットを分けて考察したいと思います。
小中一貫のメリット
小中一貫教育にはメリットが存在します。先に上げた財政的な負担以外の、教育的な効果について考えると主に以下の2つがあげられます。
中1ギャップの解消
小学生に対するモデル象の提示
中学生の面倒見やリーダシップの伸長
中1ギャップは比較的自由な小学校と、規定や規則が厳しい中学校とのギャップにストレスを感じるというものです。確かにこの点に関しては一定の効果は存在します。
また年齢層の幅が広くなることで後者の2つは必然的にそうなるであろう、と容易に想像できます。
さて、ではこれ以外にメリットはあるでしょうか。個人的にはどう考えてもこれ以上のメリットを探せども見つからないようにかんじています。
小中一貫のデメリット
まずもって前提とすべきは一般的には小中一貫はデメリットの方が大きいということです。
児童、生徒に関わる問題としては以下のようなものが考えられます。
人間関係の固定化
進級、進学にけじめの無さからの中だるみ。
行事等でリーダーシップ成長の機会減少
暴力などの非行の低年齢化
要は小学校高学年がきちんと上級生として機能しない、ということで成長阻害の可能性が存在します。
また学校組織の問題としては以下のようなものがあります。
学区の広域化による通学距離の問題
体育館、プール等の施設利用の調整
小学校学級担任制の目の届きやすさというメリットの喪失
中高一貫教育との整合性がない
教職員の教育免許の区別による教員人材の少なさ
高等学校の未接続
私学一貫校と競合による民業圧迫
特に後半の問題が私にとっては関係が深いものですし、実際にその問題点が大きいと感じています。
中高一貫との整合性
近年は公立高校などでも中高一貫教育を打ち出した学校が複数存在します。ところがこの中高一貫と小中一貫は整合性が取れず、果たして自治体がどのような教育モデルを想定しているのか焦点が定まらなくなるでしょう。
また高等学校が未接続(高等学校は県立のため設置は難しい)ため、結局は受験する回数が変わらず、メリットを生かしづらいカリキュラムとなっています。
さらに問題なのは私学の中高一貫に対して明らかな民業圧迫となることです。小中一貫が前提の学校において、中学校を受験するという選択はかなりハードルの高いものとなります。
今回の富士市においても、静岡県富士見中学校・高等学校という私立の中高一貫が存在します。静岡、富士市の実態が私には不明ですが、この学校の職員であったとすれば行政の圧力による生徒数の減少を考えると、なんともやりきれない気持ちになる気がします。
過疎地に限定すべきでは
こうした小中一貫は様々なデメリットがある一方で、コスト削減という非常に大きな実りがあるのも事実です。
したがって、高齢化が極端に進んだ過疎地域などにおいて小中一貫校化という政策はある種の必然であり、否定も批判もするつもりはありません。
しかしある程度の人口がある地域において、この政策を進めることには大きな違和感を抱きます。
今回の富士市の場合も、静岡県第3の都市、人口24万人を超えるそれなりの都市規模であることを考えると、果たしてこの政策をすべきかどうかははたから見ると首をひねらざるを得ません。
仮に、富士市の場合地域的にそうすべき、そうせざるを得ない事情があるのかもしれませんが、こうした事例、中規模クラスの都市がこの手の政策の後追いをすることが日本の教育環境を改善するとは私には到底思えないのです。