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【題未定】小学校で『できる子』だったのに──進学率が語る現実のギャップ【エッセイ】
教員という仕事の業務の中に「保護者面談」というものが存在する。生徒の状況などの情報交換や進路選択に関する情報提供などを目的としたものだ。その面談の中で、いわゆる勉強がそこまで得意でない生徒の保護者から出る言葉が「うちの子は出来てたんですよ」というものだ。
親の立場になった今となってはその言葉を発する感情的な部分は十分に理解できる。しかしどうやらその言葉は感情的な部分だけで出たものではなく、その人なりに根拠のあるもののようなのだ。さらに詳しく話を聞くと、その根拠は「小学校時代の成績」のようだ。
小学校では「カラーテスト」なる業者の作成するテストを単元ごとに実施する。そのテストで「できる」子たちは高得点を取っていたということだ。曰く90点未満の結果を見たことがない。周囲の子供は80点以下がごろごろしていたのに、という。
この疑問について、小学校における全数と大学受験の全数に関して話を進めていきたい。一般に公立小学校に通っているのは令和5年度の学校基本調査に基づくと約98%となっているため、ほぼ全数と考えて問題ない。一方で大学進学率は約60%となっている。ここでは簡便のため公立小学校は100%、大学進学率は60%とすることにする。
さて、まずは小学校で勉強ができると自覚、認識していた層はどの程度の割合かを考える。一般にカラーテストの平均点は85点程度と想定されているため、90点以上を常に取っている層は上位40%程度と考えられる。これは35人学級における14人程度となる。これが小学校において「できる」子供たちの割合と考えて間違いないだろう。
では次に大学進学について考えると、一般に35人の内の60%、すなわち21人が平均して4年制大学へ進学する。その中でいわゆる社会的評価がそれなりに高い大学の割合を算出しよう。
ここでは全数を意識するためにベネッセが実施する進研模試の高校1年生を対象にしたデータを利用することにする。例えば国公立大学のボリュームゾーンは偏差値60程度と想定される。これは割合にして16%であり、35人学級の中で母数21人の内、上位3.36人が国公立大学(レベルの大学)へ進学できることになる。
ただ実際には大都市部ほど進学率や学力が高いこと、逆に私立大学への進学者が多いことも考慮する必要がある。とはいえ一クラスに3人強が国公立大学へ進学、この数字は地方都市在住者からすれば納得する感覚のある数値ではないだろうか。
この数値を見れば「できる」子という認識のギャップは明らかだ。「できる」と認識している層は14人、しかし地方でそれなりの難度の大学へ進学する層は3人強、この差の約10人が小学校の時点では「できる」層であったのに、大学進学が思うようにできない層ということになるだろう。
こうした思考実験は必ずしも現実をきちんと反映できているわけではないし、あくまでも仮説にすぎないことは事実だ。しかし一方で国公立大学や、中堅以上の私立大学への進学という選択肢は、多くの高校生にとってはハードルの高い挑戦であるということが明確になったのではないだろうか。
この結果を踏まえて国公立大学や中堅以上の私立大学への進学を「諦めなさい」と言うつもりはない。もちろん面談などで私が本人や保護者に直千知伝えることもない。しかしその現状だけは常に伝わるように意識して話をするようにしている。
どこかの掲示板サイトやSNSでは「MARCH未満は低学歴」などという言説がまかり通っているという。しかし現実にはそのレベルは小学校一クラスにおける2人以下でしかないことは現前たる事実だ。そうした受験事情に疎い人が騙されないためにも、この情報をネットの片隅に残したいと思うのだ。