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【題未定】SNS時代の高校生—「クズ」な若者の成長と変化【エッセイ】
遅刻をする、提出物の期限に遅れる、勉強時間が確保できない、ついついスマホに手を伸ばしてしまう、SNSで夜更かしをしてしまう。多くの高校生はかように「クズ」であり、そうでない生徒の方が少ない。20年近く高校現場で働いた経験からもこれが誤りのないことは自明だ。
そしてこの「クズ」を治したい、という相談に来る生徒が毎年一定数存在する。前述のようなクセを治し、勉強に取り組みたい、難関大学を受験したい、場合によっては医者や弁護士を目指したい、といった具合だ。保護者も一緒になって相談に来るケースまである。
その気持ち自体は称賛に値する。現状の自分の問題点を目をそらさずに見据えて、改善をしようとする意思は決して馬鹿にできるものではない。問題そのものを見ないことにしたりする生徒も多い中で、行動に移そうとする姿勢は評価すべきだろう。
しかし非常に残念なことではあるが、そうした相談に対して100%で解決できることはほぼない。一念発起したが続かず、僅かに改善は見られるが目に見えるほどの差異もなく無難な進路に落ち着くというのが通例である。毎日単語を覚えます、と約束したが1か月で有耶無耶になったことや、遅刻をしないという決意を週明けには忘れてしまうことなど、例を上げれば枚挙に暇がない。少なくとも高校3年間で観測できるのはその程度が関の山。様々なアドバイスをしてはみるものの、現実は厳しいということだろう。
こうした相談は以前から少なからずあったが、昨今増加傾向にある印象がある。どうもその理由を聞くと、SNSやYouTubeで高学歴やハイレベル受験を勧める動画を見たケースが多いようだ。
インターネットや動画が普及する以前は身近にそうした一念発起して受験に成功した例は少なかった。そのためそれをモデルケースにすることはそれほど多くなかったのだろう。それこそかなり昔からエール出版の受験成功系の書籍は存在したが、それに手を伸ばすのはかなりマニアックな一部の受験生に限られていた。
ネットの普及がこれまで知り得なかったタイプの人間の行動変容を可視化し、それを自分に当てはめてしまうのだろう。しかしそうした結果まで到達できる人間はごく一部であり、人間はそう簡単に変わるものではない。成功した一部の上澄みだからこそ、そうした発信をしているのだ。
では人間は変わらない、変われないということだろうか。それもまた違うだろう。確かに受験までには間に合わなかったが、卒業後に大きく変化があったという卒業生もまた存在する。飽き性で続かない性格だったが研究に没頭し、博士後期課程まで進学したり、勉強が苦手だった生徒が国家試験を突破して資格職として活躍する話を聞くことも少なく無い。彼らの特徴を十把一絡げに論ずることは難しいが、総じて自分の欠点を自己認識しているという点が共通している。
残念ながら「クズ」を今すぐ変容へと結び付けることは、高校生のような未熟な時期には簡単なことではない。しかし高校時代にその「クズ」な自分を受容し、その付き合い方を学ぶことは人生において決して損にはならない経験でもある。自分の苦手、嫌いな分野を知ることで次の一手の打ち方も見えてくるだろう。久々に会った卒業生にそんなことを感じたのだ。