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「文科省の官僚は現場を経験すべき」という暴論と短絡思考への恐怖

教育行政に振り回される教育現場

これまでも教育行政に教育現場が触れ回される事例は枚挙に暇がないほどありました。

ゆとり教育の開始と失敗、脱ゆとりへの急旋回、その後は大学入試改革から英語外部試験の頓挫、新指導要領からの共通テスト改革などここ10年でもイベントが山盛りでした。

それに加えて#教師のバトンからの教員の労働問題と給特法など、学校や教育制度だけでなく、教員への労務管理などでも振り回され続けています。

そんな中、今度は免許更新制の廃止です。

教員免許更新制の廃止

教員免許更新制については、第1次安倍政権のときに教育再生を掲げて決定された政策です。

教師の不祥事が頻発しているというのが表の理由ですが、安倍政権と教職員組合がイデオロギー的に対立構造にあったことなどから施行されたとも言われています。

とはいえ、実質的には教員からの集金システムに成り下がり、不適格教員を排除するという目的は失われ、国の集金システムと化したのは周知の事実です。
(教員以外の人は排除シスステムが機能していると勘違いしていることがあるようです)

個人的には学び直し自体は楽しかったのですが、いかんせん費用負担が大きかったのがネックでした。

施行から一回りした段階で総括した結果、潜在的免許所有教員候補を労働市場からはじき出し、消極的教員志望者は免許取得を避ける傾向が高まり、採用試験の倍率がだだ下がりするという明らかな失策という烙印を押されるに至ったわけです。

このように実効性の低い政策を打ち出す文科省に対しては、現場教員界隈からも強い批判の声があげられています。

机上の空論批判からの「現場を経験すべき」という安易さ

このことに関して、Twitterなどでも批判の声が上がっていますが、その中に「文科省官僚も現場を経験すべきだ」というものがあります。

こうしたエリートへ現場労働を強制する考えは受けが良いようです。いいねの数が私が見ている6月15日現在で1.7万人となっています。

当然ながら、この言葉とその奥にある気持ちは私にも十分わかります。

これに対しこのようなコメントがありました。

実際には研修などで出向組を存在はしているのかもしれませんが、少なくとも現場へのガス抜き効果を得られるほどの件数は確保できていないようです。

こうしたエリート層が現場を知らないがゆえに起こるという考え方は昔からあります。(実際にはエリートたちは十分認識していることがほとんどであったりします。ただ、現状認識と有効な改善策を打てるかは難度に大きな開きがあるのです)

「現場を知らない政策やエリートが自分たちを苦しめる」という幻想

しかし、この幻想こそが最もポピュリズム的であり、そもそも教員が一般の国民から向けられた難癖の正体ではないでしょうか。

「恵まれた環境で育ち、大卒教員免許取得公務員教員は世の中の厳しさも知らずのうのうとその身分に胡座をかいているのはけしからん。更新制度で不適格者を排除すべきだ!」

といったところでしょうか。

そしてそれが政策として具現化したものが「教員免許更新制」でしょう。

自分たちが今度は官僚に対して同じことを言っています。

「恵まれた環境で育ち、東大卒国家総合職公務員は教育現場の厳しさも知らずのうのうとその身分に胡座をかいているのはけしからん。現場研修制度で生意気なエリートの鼻っ柱をへし折ってやれ!」

とでも言い換えただけでしかないのです。

教育現場の混乱原因は非常に複雑

誰かが原因だという安直な思考は便利で気楽です。

しかし、世の中はそれほど単純ではありません。教育現場の混乱や教育行政や政策の失敗は複雑な要因が絡んでいます。

パッと思いつくだけでも

  • 文科省と教育委員会による二重行政

  • 労働問題としての給特法

  • 部活動問題とスポーツ振興

  • マスコミと関連団体の利権化した高校野球

  • 福祉政策と教育行政の混同

  • 教員自身の労働者意識の欠如

これだけあります。実際にはこれ以外にも非常に多くの問題が絡み合い、複雑化しているのです。

もちろん政治主導による教員への圧力や、文科省の方針の誤りも存在はしていたでしょう。

しかし、そうした理由で官僚を批判し貶める考え方はあまりにも短絡的であり、教員としての思考としては浅はかではないでしょうか。

そうした短絡的な思考で教員が生徒を扇動する可能性があるのならば、それは恐怖ですらあります。
(高校生はまだしも、小中学生に対しての教員の影響力は強い)

大鉈で解決はしない

現場の教員にできるのは、自分自身の手の届く範囲を一つ一つ、解決できなくても改善をすることだけです。

誰かが大鉈を振るって解決することを期待するよりも、自分のできることをするしかないと思います。

そういった思いから、こうした記事を書き、発信をしているのかもしれません。

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