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学校教育が生涯スポーツの障害になっていないか
今、運動をしていますか?
「学生時代、運動をしていましたか?」という質問に対して、「Yes」という回答をする人は非常に多いようです。
しかし、「今、運動をしていますか?」という質問に対して。「Yes」と回答する人はどれぐらいいるでしょうか。
就職活動などにおいてもスポーツ経験はある程度高く評価される項目のようです。
ところが、社会人になってからスポーツを継続する人は極端に少ないようです。
スポーツの実施率と競技の内訳
スポーツ庁の令和元年度の調査では、成人の週 1 日以上のスポーツ実施率は 53.6%という結果です。
その内訳は、ウォーキングが60%以上で、続いて男性はランニング20%弱、女性は体操が16%となっています。(複数回答可)
笹川スポーツ財団の調べでも、ランニングやウォーキングの競技人口は他のスポーツを圧倒しています。
ところが、同財団の部活動に関しての2017年の調査によると、ソフトテニス、バスケット、サッカー、野球などが10%を超えており、陸上部はそれよりも少ない状況です。
中学校・高等学校の学校運動部活動の活動実態:種目別による比較
これを見る限りでは明らかに、中高時代に主にプレイしていた競技ではない、ランニングやウォーキングをしている人が多いことが分かります。
(さらに、その殆どがウォーキングですがこれがどの程度の強度かは不明です。散歩を運動に入れて数合わせをしているようにも見えます。)
このように、競技を継続できない原因はどこにあるのでしょうか。
中高時代のスポーツを継続できない原因
以下の4点が関係すると私は考えています。
時間的な問題
競技的な問題
費用的な問題
精神的な問題
1.時間的な問題 及び 2.競技的な問題
1.と2.は互いに関連し合っています。
日本の労働生産性は世界の中でも決して高い方ではなく、多くの職業では残業が発生しています。
そんな中で、平日にスポーツをする時間をとることは難しいのかもしれません。
また中高時代の競技種目は集団競技が多いため、参加者が同時に休みを取る必要があるなどの時間的制約が存在します。
しかし、本当にこれらは主たる要因と言えるでしょうか。労働法規の運用が厳格化されつつある昨今、極端な長時間労働は減少しています。
また競技に関しても、毎回全員揃って練習をする必要などありません。ミニゲームなどを行うことも可能です。
さらに、現代においてはオンラインで同好の士を募ることがかつてと比べれば容易になっています。
それ以外の原因が大きいように感じます。
3.費用的な問題
費用的な問題も確かに存在します。
1億総貧困化が叫ばれる中で、経済的に恵まれた人は減少しているようです。
しかし、これも決定的な要因とは考えにくいでしょう。
なぜならば、スポーツをすることにそれほどの費用は必要としないからです。
公的な競技施設などは時間貸しで短時間であれば、かなり安く借りることができます。スポーツ用品店は大型店が増加し、PB品などを格安で購入することも可能です。
費用的な問題に関してはむしろ、「実負担」よりも「負担感」の方が大きいのではないかと考えています。
部活動は基本的に無料です。個人の道具以外は基本的のほとんど費用負担は発生しません。しかも毎日、週6日も練習して施設利用料も指導料もかからないのです。
しかし、テニスや水泳など大人になってからのスポーツに費用負担が発生します。しかもインストラクターの指導料は結構な額になります。また、野球やサッカーなどの場合には施設をまとまった時間借りる必要があります。
このように、スポーツに費用が発生するという事自体に「負担感」を感じる人は少なくないのではないでしょうか。
4.精神的な問題
私は小中高の12年間にわたって体育の授業を受けてきました。
しかし、技術的な指導やアドバイスをきちんと受けたことがどれほどあったでしょうか。
私はクラスでトップレベルで運動が苦手な子供だったと思います。球技などはまっすぐ投げることができない、蹴ったら明後日の方向に飛ぶ。
そんな運動音痴にアドバイスをしてくれた教員はいたでしょうか。殆どは叱咤、叱咤、叱咤のみ。あるいは周囲の生徒と一緒に嘲笑する始末。
これでは運動を好きになるわけがありません。
私のような特別に苦手な人間は別としても、平均以下の生徒に対しても技術的、理論的なアドバイスをしている様子を見ることはほとんどありません。
逆に得意な生徒に対してはスポーツの意味を考えさせているでしょうか。部活動では過剰な勝利至上主義がまかり通っていないでしょうか。
私は、運動に対して生涯スポーツという観点から、長期間に渡ってプレイすることを視野に入れた指導など受けたこともありません。
好きでもない、そしてその重要性も伝わっていないスポーツをどうして続けることができるでしょうか。
このスポーツへの向き合い方や苦手意識といった精神的な問題が、生涯に渡って運動を継続することへの大きなハードルになっているように私は感じます。
いくつになっても運動を継続する
私は今年41歳になりますが、現在2年ほどほぼ毎日エアロバイクを1日30分以上漕いでいます。
また、晴れている日などの休日はウォーキングにランニングを混ぜて5㎞ほど行っています。
運動音痴で、体育の授業で端っこで座っていた、日本の体育教育の失敗作の代表例のようなこの私が、です。
方や、私と同世代で若い頃運動部のエースであったり、体育の時間のヒーローだった人達の中には運動の習慣を忘れ、お腹周りに貫禄が出てきた人も少なくありません。
生涯スポーツへの視点を教育に
義務教育から高校にかけての学校教育において生涯スポーツに関する指導は機能不全を起こしているように感じます。
生涯スポーツのあり方を中高生に伝え、長い期間楽しみ、健康増進に繋げることが重要です。
そのためには、体育教員だけでなくクラスの担任など周囲の大人がまず運動を自発的に行い啓蒙することが求められるでしょう。
そして、より実効性の高い、部活動の地域移行やそれによる地域社会と学校の接点の増加、スポーツ指導者への適正な報酬の確保などが改善への当面の道筋になるのではないでしょうか。