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【題未定】デジタル教科書が「教科書」になった日──最適な学び方とは?【エッセイ】

 先日、デジタル教科書が正式に「教科書」として認可されたという決定を聞いた。ようやくデジタル教科書が文科省に公的に認められたということだ。

 この話を聞くと教育業界はまだデジタル化していなかったのか、と感じる方も多いかもしれないが、実際にデジタル教科書自体はすでに現場で導入をされている。もちろん学校や授業担当者、科目などによって差はあれでも、ほとんどの教科書出版業者はすでにデジタル版をリリースしていたのだ。

 ところがこれまでの「デジタル教科書」はあくまでも「資料」という位置づけに過ぎず、「認定教科書」としては認可されていなかった。そのためデジタル版を使いつつも、紙の教科書は必ず購入することが義務付けられていた。この縛りが撤廃されるというのが今回のニュースの要旨だ。報道によれば2030年度から利用開始されるということだ。

 今回のこの方針転換自体は決して批判すべきものではない。実際、従来型の紙のみやハイブリッド型でも問題はないということのようであり、少なくとも選択肢が増えるという点では特に文句のつけようのない話だろう。

 とはいえ正直な話、デジタル教科書をフル活用することに関して、その学習効果を考えると個人的には懐疑的である。より正確に言えば、教科によってその学習効果に大きく差が出るのではないか、と感じている。

 例えば数学はデジタル教科書との相性が良い教科である。基本的に教科書を読む場合、見開きでそのページを読んで理解するケースが多く、ページ捲りしながら読むことはほとんどないからだ。必要な事項は検索できるし、デジタルコンテンツに接続が容易で、動く図形などの理解も深まるだろう。

 対照的に英語や国語の教材はどうだろうか。少なくとも文章を読むという点においてはデジタル教科書は紙の教科書に劣る可能性は高い。複数ページを読み返したりする場合、どうしても紙の方が総覧性や検索性が高くなる傾向があるのではないだろうか。

 一方でノートやメモをデジタル化する場合にはまた異なる視点が必要である。数学に関して言えばノートのデジタル化はあまりお勧めできない。タブレットとペン型デバイスで計算をするのはどうにも効率が悪いようだ。私のような中年の感想だけでなく、生徒の様子を見ても紙とペンの方がスムーズだろう。これは作図や手計算をどうしても必要とする理科も同様のように見える。

 その逆に英語、国語はノートをタブレットに切り替えると書き込みや補足を文章に直接書き込めるなど、非常に効率的に学習が進むようだ。これは情報をまとめる必要がある社会などにも言える傾向があるように感じる。

 もちろん個人的見解ではあるが、大学受験指導を20年近く続けてきた現場教員の感想としては、理系教科はデジタル教科書+紙ノート、文系教科は紙教科書+デジタルノートという組み合わせが最適解というものになる。

 いずれにしても重要なことは、効果的なデバイスや手法は大いに取り入れ、レガシーな手法であっても一概に否定しない、是々非々で考えることが学びの手法を選択する上では重要だろう。そしてその点において、今回のデジタル教科書認可は朗報以外の何物でもないだろう。

 年を取ると新しいものが受け入れづらくなるという。今回のデジタル教科書認可に関して、ベテランの現場教員の中には苦々しく思っている人も少なくないという。しかし、教育の目的はあくまで「学びを深めること」にある。デジタルか紙かではなく、それぞれの長所を活かしながら、最適な形を模索していくことが肝要だ。

 私自身、時代の変化に対して構えすぎることなく、新しい技術と伝統的な手法の両方を見極め、実践に活かしていきたいと思う。

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