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「公設民営大学」という壮大な失敗、そして大学選択の決め手は学費という厳しい現実
大学誘致ブーム
1990年代から2000年代初頭にかけて日本中の地方都市に私立大学が設置されました。
この時期に流行ったのが「公設民営大学」です。
その多くは設置段階で自治体の人口減少や地域振興策の一環として誘致予定地の無償(あるいは限りなく無償に近い)貸与など、通常では考えられない優遇を受けていました。
そうした大学がどうなったかを見ていきたいと思います。
(公設民営大学はそれ以前から設置されているケースもありますが、本記事では同年代に設置された大学のみに注目しています。)
現在も発足時と同じ体制を維持できている大学
まず結論から言うと、多くの大学は志願者を想定以上に集めることが出来ずに募集停止、あるいはその設置体制を変更することになりました。
ここではまずそうではない、かろうじて体制を維持できている大学を列挙していきます。
(以下、大学名ー設置年ー所在地)
東北公益文科大学ー2001ー山形県酒田市
東北芸術工科大学ー1991ー山形県山形市
長浜バイオ大学ー2003ー滋賀県長浜市
倉敷芸術科学大学ー1995ー岡山県倉敷市
長崎国際大学ー2000ー長崎県佐世保市
九州看護福祉大ー1999ー熊本県玉名市
九州保健福祉大学ー1999ー宮崎県延岡市
これらの大学は現在も私立大学として経営を維持しています。
もちろん、それぞれの大学の募集倍率を見る限りでは厳しい状況もあるようですが、維持できているということなのでしょう。
公立移管した大学
一方で志願者の減少(あるいは最初から)によって公立大学へと移管した大学があります。
こうした公立移管への動きは高知工科大学を皮切りにスタートし、全国に波及しました。
(以下、大学名ー設置年ー移管年ー所在地)
公立千歳科学技術大学ー1998ー2019ー北海道千歳市
長岡造形大学ー1994ー2014ー新潟県長岡市
敦賀市立看護大学ー1994ー2014ー福井県敦賀市
公立諏訪東京理科大学ー2002ー2018ー長野県諏訪市
静岡文化芸術大学ー1999ー2010ー静岡県浜松市
公立鳥取環境大学ー2001ー2012ー鳥取県鳥取市
山陽小野田市立山口東京理科大学ー1995ー2016ー山口県山陽小野田市
高知工科大学ー1997ー2009ー高知県香美市
名桜大学ー1994ー2010ー沖縄県名護市
どの大学も公立移管後は志願者が増加しているのが特徴で、おおむねこの試みが成功であることがわかります。
私立大学の体制を維持している大学も、移管大学も立地的な差を見出すことは難しいように感じます。
前者の設置場所が比較的ある程度大きな都市やその近郊で後背人口が多い印象はありますが、立地条件が志願者増に影響している可能性は低いでしょう。
公設民営ではないが私立大学から公立へ移管した大学
それとは別に公設民営ではないが、志願者減少によって公立へと移管したことで志願者を大きく増やし、定員充足率を満たすケースは少なくありません。
長野大学や周南公立大学などがその例にあたります。旭川市立大学なども定員充足傾向にあるようです。
学部改変やカリキュラム変更を大掛かりに行ったわけではない
こうした公立移管の大学の多くは学部学科の改編やカリキュラムを大きく変更したわけではありません。
また行ったとしても初年度ではその周知が徹底されていないケースが多く、一般的には改変一年目では募集倍率に大きな影響を与えるのは難しいことが多いのです。
ところが公立移管大学の多くは私立大学としての募集最終年(私立大学の入試を受けて、1年次から公立大学の学生になる受験生)から志願倍率が大きく増加する傾向があります。
これにはいくつかの理由があります。
まずは学費の問題です。公立移管によって学費が基準額に設定されることになり、私立大学時代と比較すると文系で半分、理系の場合には3分の1程度に学費が下がります。
この負担軽減は志望者増に大きな影響を与えているでしょう。
加えて共通テスト(センター試験)を受験せずに公立大学の入学できるということがあります。
共通テストを受験する場合、基本的には5教科7科目の対策が必須となりますが、私立大学型の場合は2から3教科で受験することができます。
少ない負担で公立大学を受験できるご祝儀年として挑戦する受験生は少なくないようです。
大学の選択が学費と入試対策が中心となり、学ぶことが軽んじられている
残念ながらこうした傾向を見る限り、日本における大学進学時の進学先選択の多くは費用的な問題と受験のしやすさに重心がおかれ、大学での学びは二の次になっているのは間違いないようです。
もちろん、大学に通う費用の捻出は家庭における極めて重要なトピックです。しかし受験生当人にとってはどの学部で何を学ぶかもより重要なトピックのはずです。
とはいえ、背に腹は代えられないのも事実であり、受験生や家庭を責めることもできようはずはありません。
こうした結果を見る限りでは、日本における公設民営大学はかなりの確率で失敗しているように思います。
大学の中身をいくら工夫しても、学費問題を解決しないことには学生募集もままならないという厳しい現実がそこにあるようです。