【題未定】カウフマン氏逮捕と日産のゴーン氏:日本企業と外国人トップの複雑な関係【エッセイ】
オリンパス株式会社のCEO、シュテファン・カウフマン氏が薬物所持で先日逮捕されるというニュースが報道された。カウフマン氏は同日付でCEO職を辞任したという。カウフマン氏の薬物使用に関しては、現時点では薬物反応が出ておらず関係先に関しても薬物は見当たらなかったという。
言うまでもないことだが日本の法律上、こうした薬物の使用は許されるものではない。また倫理上の観点からも薬物所持や売買、使用が事実であるとすれば企業の代表の辞任は避けるべくもない。しかし一方で今の段階では氏の薬物使用は立証されているわけではない。オリンパス側の言い分としては「違法薬物を購入していた」という通報が同社にあり、内部調査でその可能性が高いために判断を下したということだ。
今回の事件が黒か白かは私には不明だ。しかしこの事件の構図は日産自動車とカルロス・ゴーン氏の関係を思い出すものだ。ゴーン氏は1999年に最高執行責任者(COO)として日産に入社し、2001年には最高経営責任者(CEO)に選出された。
ゴーン氏の企業経営者としての実績は大きい。経営破綻直前と言われていた日産自動車で大ナタを振るう改革を行い、その経営を立て直した業績である。しかしその裏で大規模なリストラなどを行ったという批判もあり、労組が支配する日産独自の企業文化とも対立していた。その中で、日産資金の流用などから特別背任で立件された。その後の逃亡劇は誰しもが知るところだろう。
ゴーン氏の功罪に関しての評価は分かれるところだが、あのまま留置したとして有罪が立証できたかは微妙だとする意見は少なくない。日産という企業に関してはゴーン氏の後任にはゴーン氏の側近であった西川廣人が就任し、外国人役員が次々に離職することになった。ゴーン氏が打ち出していた強い改革色も薄まることになる。
日産という企業の闇は深い。日本を代表する自動車会社の一つが経営破綻直前までに陥った理由は労組の企業支配も一因であると言われている。日産自動車の社員であり、自動車総連の会長であった塩路一郎と経営陣との確執がその中心である。塩路は「塩路天皇」と呼ばれるほどに日産の中で権勢をふるい、度々経営陣と対立していた。塩路失脚後も日産の企業風土として、コーポレートガバナンスの軽視などを植え付ける結果となった。
そしてその払拭に選ばれたのが外国人経営者であるカルロス・ゴーンなのだ。しかし外国人経営者の高額過ぎる報酬、強大な権限が日本企業においては負担となってくる。そのために用済みになったために切り捨てられたという見方もあるようだ。
対するオリンパス株式会社は2011年のオリンパス事件発覚でその闇が浮き彫りになった企業だ。オリンパス事件は巨額の損失を「飛ばし」という手法で損益を長期にわたって隠し続け、負債を粉飾決算で処理したというものである。
2011年、オリンパス社長に就任したマイケル・ウッドフォード氏は調査の結果、菊川剛会長および森久志副社長の引責辞任を促した。ところが、その直後の取締役会で、ウッドフォード氏は社長職を解任される。しかしウッドフォード氏はその件を公にし、旧経営陣の責任問題を追及することになる。結果として旧経営陣は刑事、民事双方で責任を問われることになった。
そうした経緯を踏まえて今回のオリンパスCEO逮捕を見ると少々見える景色が変わってくる。企業文化として外国人経営者への忌避感があったのではないかという疑いだ。カウフマン氏は約11億円の役員報酬を受け取っていたともいう。株主側からの要請でカウフマン氏をCEOの座に就けたが、内部的な反発は強かった可能性もあるだろう。もちろん、薬物使用が事実ならば辞任は止む無しなのは言うまでもないことだが。
日本企業における外国人経営者とのミスマッチは度々話題になる問題である。ソフトバンクでも孫正義氏の後継候補筆頭と目されていたニケシュ・アローラ氏が電撃辞任したことは記憶に新しい。
これらの事例において共通するのは日本企業の文化、風土が国際的な基準と比較して大きく異なるということだ。その良し悪しを論ずることは難しいが、そうした違いが存在しそれが企業の代表とのトラブルとなりやすいということは間違いないだろう。
今回のオリンパスCEOの事件がどんな結末を迎えるのかはいまだ見えない。しかしSNSを見る限りでは外国人経営者批判一辺倒になりがちであるのも事実だ。一般的にこうした外国人経営者は、企業内部の人間だけでなく日本社会全体で好意的に見られないケースが多いという証拠でもあるだろう。とはいえ、それでは問題の本質は見えない。そうした一方的な意見とは一線を置いて今後の経緯を見守りたい。