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探究学習という重荷

探究学習の研究や実践が全国的に広がっています。

しかし、その一方で重すぎる負担に対して現場からは悲鳴が上がっています。

リンクは学生服メーカーのカンコーが行った探究学習に関する調査です。

カンコーはこうした探究学習に関して特集記事をHPに載せるなど、教育活動に関わる情報発信を行っています。


探究学習の負担の大きさ

探究学習の必要性についてのアンケートに関しては、多数の教員が必要と回答しています。

探究学習に取り組む必要性については、「とても必要」(中学校22.8%、高校20.3%)、「やや必要」(同50.2%、43.6%)という状況で、中学校は7割超、高校は6割超の教員が「探究学習は生徒にとって必要」と回答したが、高校では「全く必要ではない」という回答も約1割(11.7%)みられた。

しかし一方で必要でないという意見もあり、その理由を負担に見合わないとうする意見もあります。

探究学習が必要だと思わない理由は、「準備が大変」「時間の余裕がない」「教材づくりが難しい」といった授業準備や教員への負担や、「調べ学習に終わる生徒が多い」「興味を持たない生徒が多い」など、生徒の取り組み状況やモチベーションの低さがあげられた。

また、学校という形態でする以上、どうしてもそれぞれの興味範囲にベストマッチする活動を提供できない可能性があり、その中で興味を持たない生徒の存在を上げる意見もあったようです。

さらに言えば、出来ることの幅を広げるほどに教員側の負担が増大するという実情もあります。

実際の探究学習の様子を見ると、その負担の大きさがよくわかります。

探究学習の実践例①

上のリンクはカンコ-は自社のHPで探究学習を行う学校を特集したページです。

3-1 北越高等学校(新潟県)の事例
・課題解決型フィールドワーク
目的:自分たちの街にどんな課題があるのか知る
実施内容:探究ウォーキングで新潟の街に出て課題を見つけ発表する
対象生徒: 高校1年生 400名
実施時期:入学後から文化祭(9月)にかけて実施 約11コマ
(中略)
新潟市内の企業や団体をクラスごとに訪問します。クラスの親睦を図るとともに、探究学習の一環として地域の歴史や文化、企業 ・団体の地域に対しての取り組みを知ることが目的です。

この内容を実施する場合、まずは企業への協力依頼、実施に向けてのスケジューリングなど学校外の業務が大きく膨れ上がります。

さらに、生徒それぞれの進捗状況やマネジメントを行うとなると、授業の片手間で行うのは難しいのではないでしょうか。

この結果がどれほどのアウトプットを生み出しているのかはHPからは分かりませんが、常識的に考えると職場体験+調べ学習の形に収束する可能性は高いでしょう。

探究学習の実践例②

3-2 立教女学院高等学校(東京都)の事例
・企業課題解決型PBLプログラム
目的:深い学びの場の創出
実施内容:企業課題解決型PBL(Project Based-learning)プログラムを導入する
対象生徒:大学進学が決定した高校3年生(希望者による参加) 約20名
実施時期:1月~3月 約9回 ※放課後の課外活動
(中略)
PBLの取り組みでは、様々な企業や団体の方と対話し、自発的に活動することで、多角的な見方・考え方を養うことができます。PBLの経験を生徒自身の糧として、多様な価値観を涵養し、社会に様々なアイデアを発信できるようになってほしいと願っています。

この参加者数と層、規模感であれば機能させることは十分可能でしょう。

しかし、これは進路決定が早い大学の系列校ならではの取り組みです。

立教女学院は立教大学への推薦枠を大量に抱えており、入試対策を行わずに目標とする教育に全振りできる環境があるためにこうした探究活動の実践も可能なのではないでしょうか。

浅く全体に、少人数対象に深く

結局のところ探究学習を実施する場合、学年全体といった対象を広い範囲に行えば内容的には浅く、調べ学習や体験講座レベルのものにしかできないのが現在の人員配置の限界なのでしょう。
(これは公私問わず言えます)

また、少人数に深い探究を行うことは不可能ではありませんが、その場合も実施期間や時期などの時間的制約を強く受けます。

そして、多くの場合は付属校や系列校といった進路の心配をしない、あるいは探究活動そのものが進路決定に直接寄与するものでなければ実行が難しいように感じます。

生徒の変容と実施における現実的な課題

Q 探究学習実施後の生徒の変容は?
・主体的な行動ができるようになった生徒が増えた
・目的意識をもって行動できる生徒が増えた
・物事を多面的に見ることができるようになった
・自分の将来を考える意欲が上がった
・発言・行動に他者視点がでてきた
・相手に発信する力が向上した
・俯瞰する力が身に付いた

カンコーのHPには探究学習を終えた生徒の変容に関してもまとめられています。

これらの能力を伸ばすことができること自体を私は否定しませんし、事実そうだろうという内容が並んでいます。

一方で、探究学習がそれらの能力の向上にどの程度寄与したかという定量的なデータの提示はなされておらず、お気持ち、感想の類の評価となっています。

結局のところ、入試が現在の形式である限りにおいては学習指導や進度確保とカリキュラム重視の授業を変えることは不可能であり、その状況で有意義な探究学習を並行して行うことは人員的にも、時間的にも不可能でしょう。

あれもこれもさせるために人員を増やすか、あるいは入試を改革しいわゆる入試対策を意味消失させるかのいずれかの方針を選ぶのでなければ、現行の探求型学習がそう長い時間続けられるとは到底思えないのです。

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