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【題未定】消費の理想郷、暮らしの試練──東京を家族で旅して感じたこと【エッセイ】

 先週末、東京に観光に出かけた。旅行自体は充実したものだったが、二泊三日の旅行を通じて東京という街の魅力と特性に改めて気づくことができた。今回はその東京という街についての雑感をまとめたい。

 結論から言えば、東京は非常に便利な都市である、ということだ。都内のどの街であっても駅を出れば大小の商店が立ち並び、必要なものはその街でほとんど揃うレベルの繁華街が存在する。少しこだわったものであれば国内トップクラスの繁華街が近隣に複数存在し、一駅、二駅でその街へ移動できる。

 しかもその街と街をつなぐ鉄道が網の目のように張り巡らされており、5分間隔で電車が往来している。消費活動を行う上でこれほど最適化された街は国内には東京以外存在しないだろう。

 そしてそれこそがこの街が抱える長所であり、欠点でもある。消費活動に最適化された街は、あらゆる物事が金銭的にやり取りされるということでもある。食事からサービスまで全てが金銭でやり取りされる。それでも一人ならばまだ良い。必要な金額はそこまで高額になることはない。しかし家族がいればどうだろうか。移動、食事、施設利用料など全てがn倍されるとなるとその負担は決して軽くない。

 要は、東京という街は消費活動に最適化されていると同時に、単身者に最適化された街でもあるということだ。この街の全てが基本的に一人で動くことを前提として設計されている。もっと言えば、収入のない人員を抱えた家庭にとってはとんでもないコストを要求される街、とも言えるだろう。しかもその人員増と負担増は比例どころか指数関数的に増加する。

 例えば交通費費を考える。今回、ほとんどの移動を電車で行ったが、地下鉄であれば都度200円が人数分引かれる。我が家の場合、大人二人、小人一人、幼児一人のため2.5倍であるが、子供が成長すれば4倍になるわけだ。一回の移動は500円としても何箇所も移動すればあっという間に云千年から満単位に跳ね上がる。横浜や埼玉、千葉などの都市間移動を挟むと一回で1500円程度、往復を考えればかなりのコストだろう。

 交通関係で言えば、費用だけでなく利便性も大人一人を前提としたサービスであると言える。雨に濡れずに乗り換えできると言えば聞こえは良いが、乗り換え駅までの徒歩の移動は子供にとってはかなり厳しい距離になる。しかも結局は外に出るため、雨天時に傘の携行は必須だ。加えてターミナル駅の内部は複雑怪奇な作りで、決まったルート以外では子供が一人で動ける状況ではないだろう。今回、横浜に宿泊したが、都内からJRで横浜までの移動がラッシュ時間に重なった。その時に見た、スーツ姿の男性が人の隙間に体を捩じ込むあの異常な光景には閉口した。

 一方で私の住む熊本など、西日本の地方都市の生活は自動車を利用する複数移動を前提とした社会であると言える。雨天時の利便性はもちろんだが、コスト的にも毎回の費用がかからないという点は大きい。確かに自動車の燃料費や維持費は決して軽いものではないが、固定費用として存在するため「負担感」は低い。

 東京という街は遊びに訪れる、単身者が職住近接の環境で生活するという点においては理想郷であろう。そしてその行き過ぎた最適化が子育てをする環境としては非常に厳しい場であるということもまた事実であろう。

 その先に見えるのは、東京の利便性に慣れた若者が生活スタイルを変え、結婚し子供を育てたいと思うことすらなくなるということだ。あの環境での便利な生活に慣れた人間が、他人を背負って生きる選択を積極的にする理由が存在しないのだ。理想郷から自ら進んで旅立つ者が多いとは到底思えない。

 個人的に今回の旅は東京という大都市の魅力と特徴を体験する良い機会となった。しかし何度訪れてみてもこの街で暮らしたいとは思えなかった。独身の時、結婚してからもそう感じたが、子供を連れてのこの旅はさらにその気持ちを強くさせることになった。

 それでも魅力的な街ではあるのだが。

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