教員に「精神疾患の親を持つ子ども」をケアさせようという要求は無理筋
精神疾患の親を持つ子供に気づき、寄り添ってほしいという教員への要望とそうした事例の啓発動画のネット記事を見かけました。
教員の職務
こうした生徒の精神的なケアをすることは教員が抱える多くの職務のうちの一つではあります。
しかし、あくまでも「生徒の」精神的なケアであり、それもメインの業務なわけではありません。
そもそも教員は生徒を評価しなければならない立場であり、その意味では本質的に生徒とは対立的な立場となります。
そのためカウンセラーやソーシャルワーカーのような立場で接することは不可能です。
ところが多くの人たちは学校のこと、生徒のことは教員に丸投げすればよいと考えています。(むしろ丸投げしたいのでしょう)
今回のニュースの根源的な問題もそこにあります。
気づくことはできるが…
生徒が毎日学校に来るのであれば、もちろん精神的な不調や何らかの異常に気付くことは可能です。
本人の異常であればスクールカウンセラーを紹介することもできますし、場合によっては保護者も相談を受けることは可能でしょう。
しかし、保護者自身の精神疾患などで生徒が何らかの不調をきたしている場合、その原因を突き止めることは極めて困難です。
保護者と毎日顔を合わせるわけでも、連絡を取り合うわけでもないからです。
さらに言えば、仮に気づいたとしても多くの場合、何もできません。
教員は教育機関の職員であり、あくまでも生徒の教育やそれに付随するケアが仕事であって、家庭の問題や保護者の疾患に関わる権限は持っていません。
もし、熱意ある担任が保護者の精神疾患が生徒の不調の原因だなどと言ったところで、家のことに口を出すな、うちは普通だと反発されるのが関の山です。
それどころか迂闊なことを口走れば、取り返しのつかないトラブルになりかねません。
福祉につなげる制度の充実、支援制度の拡充
家庭の問題の場合、学校の組織やスクールカウンセラー(SC)、ソーシャルワーカー(SSW)だけでは対応できません。
しかるべき機関の相談して、公的なケアを行う必要があります。ところが一方でそうした機関へつなげるハブとしての機能が弱いことが現代における日本の学校制度における問題点です。
教員に丸投げをして解決を行う習慣ができすぎており、また教員側も他の職種が学校に介入をすることを忌避してきた歴史があります。
そこにはリンク元の記事にあるような恩師の成功体験による拒絶もあるのでしょう。
しかし、そうした個別の例外をいくら積み上げても氷山の一角でしかなく、組織として対応しなければならないほど数が増加しているのが現実です。
そしてそうした結果が現代の学校における問題として噴き出しているのでしょう。
学校から福祉へどのようにスムーズにつなげるか、この点をもっと真剣に議論しなければならないのではないでしょうか。