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「読書」を趣味とする生徒は成績が良い、という幻想
「本をよく読む子は成績が良い」という幻想を抱いている人は多いように感じます。
実際、成績を上げるために本を読みなさい、という指導をする教員も多いようです。
そうしたアドバイスをまとめたサイトもありました。
さて、では実際のところ読書と成績に関係性はあるのでしょうか。
成績の良い生徒は文字を読むスピードが速い傾向
成績の良い生徒は文字を読むスピードが速い傾向にあります。
現在の共通テストの傾向は文章読解スピードや情報検索能力を問う側面が強いため、こうした文字を読むスピードと成績には相関関係が存在します。
ただ、大学入試の記述試験においては必ずしもこの傾向が当てはまるわけではありません。
腰を据えてじっくりと考えてから解くような問題も多いからです。
とはいえ、全般的な傾向としては文字を読むスピードは成績に関係することは間違いなく、文字を読むスピードを上げることは成績向上に対してある程度寄与すると言ってもよいでしょう。
では、文字を読むスピードを上げるにはどうすればよいのでしょうか。
「読書」で文字を読むスピードは上がらない
「読書」を趣味として行う場合、多くは物語などの作品を読むことが多いでしょう。中高生でノウハウ本や自己啓発本を読む人はそれほど多くないと思います。
そうした物語や小説といった作品を読む場合、風景描写や人物像を頭に浮かべながら、そしてセリフを頭の中で音声にしながら読んでいる人は多いのではないでしょうか。
こうした鑑賞読みをしている場合、文字を読むスピードはそれほど速くはなりません。
なぜならば、描写を想像するには時間が必要ですし、セリフなどは音声を読み上げる速度以上に速くなることが無いからです。
そのため、いくら読書をしても作品鑑賞的な読書を行う限りは文字を読むスピードがある一定値以上に上がることはないと言えます。
もちろん、普段は本を全く読まない人や文字に触れる機会が少ない人に比べれば遥かにマシですが、所詮は音声スピードに依存した速度でしかありません。
つまり、成績向上を目的として読書を勧めても、文字を読むスピードはそれほど上がらないため、効果が薄いと言えます。
感情移入型の読み癖がつきやすい
また、実は普段から読書を趣味とする人が入試問題と向き合う場合、引っ掛かりやすい落とし穴が存在します。
それは感情移入をして主観的に読みやすい、ということです。
現代文の問題においては作者の考えや登場人物の心情を読み取り、解答する問題が存在します。
こうした問題は出題者がこの文章を読んで、客観的にそう判断した理由や材料、類推を書くべき問題であって、「私」がどう感じたか、を答える問題ではありません。
ところが、読書を趣味とする人の中にはこの区別が苦手な人が一定数存在します。
こうした人たちは、自分が感じたことや考えた範囲と、客観的に誰が読んでも読み取れる範囲を分別できないため、解答を書いたり選択肢を選んだりする場合に主観性に強く影響を受けてしまうのです。
そのため、読書が好きなのに国語の成績が悪い、という状況になるケースが間々存在するのです。
文章への抵抗感は下がり、語彙力は向上する
ここまで書いたことを見る限りでは読書はむしろ受験勉強にとっては害悪ですらある、という印象を受けるかもしれません。
しかし、そうではなくあくまでも読書が成績向上に対して直接的には影響がない、また場合によっては読み癖がつく、という事実を上げただけに過ぎません。
逆に、読書によって文章を読む行為自体への抵抗感は低下するため、勉強そのものへのハードル自体は下がりますし、語彙力が向上するため思考の抽象化や知識を増やす効果は存在し、それらは成績向上に大きく影響します。
つまり、読書自体は学びに対して効果的である、ということは間違いないのです。
しかし、それが受験などの勉強に対しては直接的な効果が薄い、ということです。
読書は健康維持の運動、受験勉強はスポーツ競技
例えるならば、健康維持のためのラジオ体操や散歩、軽いジョギングなどのようなものです。
しかし、大学受験の勉強は特定のスポーツ競技のようなものです。
成績を上げたい人に「読書をしなさい」というアドバイスをすることは、野球を上手くなりたい人に「朝のラジオ体操と散歩を習慣化しなさい」と指示するのに等しい、ということです。
効果が無い、とは言えませんが非常にピントのずれたアドバイスであることがわかるのではないでしょうか。
経験上、読書と成績の相関は低い
教員の仕事を20年近くやっていると、生徒の成績と普段の趣味や行動との相関が見えてきます。
経験的には読書を趣味とする生徒が成績(文系の教科だけでも)が良い、という傾向がある、とは決して言えません。
むしろ、成績下位者の方が小説などを大量に所有していたり、図書館で借りていることが多いようです。
成績が悪い生徒にアドバイスをする際に、本を読みなさいといった声掛けはやりがちなものの一つではないでしょうか。
読書を成績と結び付け、読書をしなさいという指導を学力向上を目的として行うことは避けた方がよい、と私は個人的には考えています。