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【コラム】工務店が陥る黒字倒産の危機とその回避策とは?

職人や専門業者を手配し、工事全体を総合的にマネジメントする工務店。

地域密着型の企業も多く、需要者にとっては、ハウスメーカーにくらべてデザインや間取りの自由度が高いというメリットもあるなか、黒字倒産が多いのはなぜでしょうか。

本記事では、工務店が陥りやすい黒字倒産の原因や回避策についてくわしく解説します。

1. そもそも黒字倒産とは?

工務店のなかで、「売上や利益は出ているのに資金繰りが苦しい…」という企業は、黒字倒産の危機にさらされているかもしれません。

まずは、黒字倒産という言葉を正しく理解することから始めましょう。

1-1. 黒字倒産の定義

倒産とは、法人または個人が債務を返済できず、経営できなくなる状態のことです。

黒字倒産の場合は、「利益が計上されているにもかかわらず、掛取引や手形決済などの関係で現金の入ってこない時期に経費の支払いで資金繰りが困難になる状態」と定義できます。

わかりやすくいえば、帳簿上は黒字でも売掛金を回収できず、資金ショートしてしまうことです。

実際、建設業者のおよそ半数は、黒字倒産であるといわれています。
特に、約束手形や小切手での取引の多い工務店は、先行投資などで多額の資金を要する一方で、決済が3ヶ月~6ヶ月後になるため、黒字倒産に陥りやすいのです。

2. 工務店が黒字倒産に陥る背景・原因

工務店が黒字倒産に陥る背景や原因は、大きく分けて4つあります。

1.ウッドショック
2.半導体不足
3.資金不足
4.人材不足

2-1. ウッドショック

工務店が黒字倒産に陥る原因・背景のひとつに、ウッドショックがあります。

これまでも、1990年代の天然林保護運動や2000年代のインドネシアによる伐採規制強化などでウッドショックに見舞われましたが、最近は、コロナ禍が主な原因です。

およそ3年前、世界各地で実施された感染予防策のロックダウンで外出が規制され、世界的に経済活動が低迷しました。

木材のグローバル・サプライチェーンが停滞し、オーストラリアの木材輸出規制や東欧の木材伐採に関わる労働者の移動が難しくなったことも拍車をかけたといえます。

これらを要因に木材価格が高騰し、輸入木材を必要とする日本の建設業界は大きな影響を受けました。

2023年は、前年とくらべて木材価格は下落傾向にあるものの、国内への供給も含めて市場に反映されるまでには、まだしばらく時間がかかるでしょう。

2-2. 半導体不足

コロナ禍によって世界中で半導体が不足したことも、原因のひとつです。

半導体の生産拠点である工場が閉鎖され、サプライチェーンからの供給が激減したなか、テレワークの推進でパソコンの需要も増加しました。

その結果、工務店や建設業界でも、給湯器やシャワートイレなどの住宅設備が慢性的に不足し、入手までに長い時間を要する事態に至ったことは記憶に新しいでしょう。

特に、半導体は世界的に需要も多く、不足の解消までに時間を要するため、半導体価格の高騰で材料費が高くなり、依然として建設業界を含め各業界の経営を圧迫しています。

2-3. 資材不足

コロナ禍によるリモートワークの増加により、アメリカや欧州で新築家屋の需要が急増したことに加え、大きな森林火災の影響などもあって木材の需要が大幅に伸びています。

また、中国が産業用の丸太を輸入するためにコンテナを買い集めているうえ、木材の輸入で頼っていたロシアのウクライナ侵攻に対し異を唱えている日本にとっては、輸入しづらい状況です。

実際、日本における欧州からの輸入木材の割合は、ベラルーシやウクライナを含めると約75%にのぼるともいわれています。

このような状況から資材が揃わず、工務店では工事の着工を延期するケースも少なくありません。

せっかく受注しても工事に着手できなければ、その間に発生する人件費や経費が経営を先細りにさせるでしょう。

さらに、新たな受注を得られなくなるため、資金ショートに陥るリスクも高まります。

2-4. 人材不足

工務店や建設業界にとって大きな課題となっている慢性的な人材不足も、黒字倒産の原因のひとつといえるでしょう。

建設業は、いわゆる3K「きつい・汚い・危険」のイメージが強くつきまとい、若い世代から敬遠されています。

特に、技能職の場合は、遠方での作業が多いため拘束時間も長く、ハードな労働に見合った賃金が支払われていないケースも少なくないようです。

今後、いわゆる団塊世代の職人たちの多くが引退すれば、せっかく受注があっても人手不足で経営が難しくなる企業も増えると予測されます。

特に、「建設業許可」を受けるための有資格者が離職すれば、事業の継続自体が難しくなる可能性もあり、注意が必要です。

3. 工務店での黒字倒産が多い理由

工務店での黒字倒産が多い理由は、次の3つです。

1.工務店特有の入金サイクル
2.工事完了前の支出が多い
3.資金繰り表が短期計画であることが多い

3-1. 工務店特有の入金サイクル

まず1つ目の理由として、工務店特有の入金サイクルが考えられます。

一般的に、工務店の入金は、契約時の着手金・中間金・引渡時の3つの段階に分けられ、全ての代金を回収できるのは工事が完成してからです。

なかには工事の受注から完成までに1年以上かかるケースもあり、入金されるまでの期間も平均で3ヶ月半といわれています。

また、建設業界では手形取引も多く、発注元に支払時期を先送りにされた場合は、入金があるまで手持ちの資金でやりくりしなければなりません。

このような入金サイクルによって資金繰りが厳しくなり、黒字倒産に陥る工務店が増えています。

3-2. 工事完了前の支出が多い

工事完了前の支出が多いのも、工務店で黒字倒産が多い理由のひとつです。

建設業では、先行投資として建設資材などの材料費や人件費、外注費、足場や仮事務所の設置費、重機などの調達費を支払う必要があります。

これらの経費はどれも高額で、工事の受注件数が増えるほど負担も大きくなるでしょう。

その結果、受注件数が多く売上を出しているにもかかわらず、工事完了前の支出で資金繰りが立ちゆかなくなり、黒字倒産に陥るわけです。

3-3. 資金繰り表が短期計画であることが多い

3つ目の理由は、資金繰り表で短期計画が多いことにあるでしょう。

資金繰り表とは、企業が資金を管理する際に現金の過不足を計算しやすくする表のことで、工務店にとっては、工事を受注した際の収支状況を把握するために欠かせないものです。

短期的な計画で資金繰り表を作成している企業の多くは、自社の入金スケジュールを把握できていません。

いつ頃、どのくらいの費用が必要になるのか、入金スケジュールを視野に入れながら綿密な計画を立てなければ資金繰りが悪化し、黒字倒産に陥るリスクは高くなります。

4. 工務店がとるべき具体的な回避策とは?

工務店がとるべき具体的な回避策は、主に3つです。

1.人材の確保
2.中長期での資金繰り表の作成
3.実行予算と現場管理の徹底

4-1. 人材の確保

まず考えるべきは、人材の確保でしょう。

少子高齢化時代といわれる日本では、そもそも労働人口が減少しており、今後も10年に10%の割合で労働人口は減少するといわれています。

ただでさえ職人が多く、技術を継承するスタイルの建設業界では、若い世代の人材が定着せず、高齢化も加速している状況です。

今後は、労働条件や働き方を改善してライフワークバランスを見直し、人材を育成する環境を整え、若い世代の離職を低減すべきでしょう。

このほか、求職者自体が少ない場合は、求人サイトによる採用手法や外国人労働者の雇用の検討、IT技術を活用した仕事全体の業務の効率化を図ることも重要です。

4-2. 中長期での資金繰り表の作成

2つ目の回避策として、中長期での資金繰り表の作成も効果があります。

資金繰り表は、最低でも半年分、可能であれば1年分以上は作成すべきです。

黒字倒産の多くは、支払いにあてる資金が不足するために起こります。

中期的な計画を立て、数ヶ月先のリスクを事前に把握すれば、金融機関からの融資やファクタリング・新規投資など、資金不足に陥りそうになった時の選択肢も増えるでしょう。

ちなみに、資金繰り表を作成する際に押さえておくべきポイントは、次の4つです。

1.入金時期
2.支払時期
3.支払時の貯金残高の予想
4.金融機関からの融資の確認

資金繰り表を中期的に計画しておくと、金融機関から融資を受ける際の相談時にも活用できます。

また、作成しただけで満足せず定期的に確認し、予想とズレが生じている場合は、資金繰り表の必要箇所を随時修正する姿勢も大切です。

4-3. 実行予算と現場管理の徹底

実行予算と現場管理の徹底も、黒字倒産の回避策のひとつです。

工事現場ごとに原価を想定しながら組む実行予算によって、現場ごとにかかる原価を事前に把握すれば、実際の原価との差額を確認してコストを削減できます。

実行予算の作成する際は、材料費や外注費などの経費に利益を加算するに留めず、各項目ごとに原価をしっかり確認して利益率を確認することも重要です。

大規模な工事であればなおさら、工事現場での心がけ次第で費用を節減できるでしょう。

現場管理も、現場のミスで予算を大きく上回るリスクを回避するために徹底すべきです。

自社の在庫を活用するだけでなく、現場では「ミスをなくす」だけでなく、「ムダを減らす・なくす」「所定の利益を厳守する」ことにも考慮して着工するようにしましょう。

工務店の先行投資は、金額的にかなり大きいことが想定されます。

現場で何らかのミスが生じた場合は、予算と実際の工事費との差異がさらに大きくなり、黒字倒産のリスクも高まるため、注意が必要です。

5. まとめ

工務店は、入金までのサイクルが長いという建設業の特性から、黒字倒産に陥りやすい業種といえます。

だからこそ、中期的な資金繰り表を作成し、資金ショートによる黒字倒産のリスクを未然に防ぐことが重要です。

売上や利益があっても油断せず、工事に必要な人材をしっかり確保して実行予算と現場管理の徹底を心がけましょう。


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