ニューヨークが生んだ伝説の写真家ソール・ライターの、伝説は続く
「再発見」された写真家
浮世絵の投稿が続いていた当note、2021年初(!)の投稿は、ニューヨークの写真家ソール・ライターについてです。
みなさんはソール・ライター(1923-2013)をご存知でしょうか? Bunkamuraザ・ミュージアム(東京・渋谷)で、2017、2020年と立て続けに開催された展覧会でその名を見た、という方も少なくないでしょう。
あるいは少しさかのぼって、2012年に公開されたドキュメンタリー映画「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」で知ったという方もいるかもしれません。
しかしながら、ライターは2006年に写真集が発売されるまで殆どその存在を知られていませんでした。1950年代、ニューヨークでファッション・フォトグラファーとして『VOGUE(ヴォーグ)』や『Harper's BAZAAR(ハーパース バザー)』で活躍していたにも関わらず、そのキャリアの途中で自ら第一線を退いたためです。50代半ばで全ての仕事を手放し、以後、身の回りの風景をカラーフィルムに収め続けてきたライター。ニューヨークの日常を天性の感覚で切り取った作品は世界中に衝撃を与え、「カラー写真のパイオニア」と呼ばれるようになりました。
『永遠のソール・ライター』重版出来!
小学館文化事業室では、冒頭で記した展覧会(2020年開催)の公式図録ともなる作品集『永遠のソール・ライター』を2020年1月に刊行。このたび、5刷目が決まりました。故人の写真作品集としては異例の数字です。
展覧会情報を載せていた帯も、少し改装する予定です。本書のことを示しているように感じた、ソールの言葉を入れることにしました。
写真はしばしば重要な瞬間を切り取るものとして扱われたりするが、本当は終わることのない世界の小さな断片と思い出なのだ。
―ソール・ライター
ライターはこの言葉通り、自分を取り囲む世界の断片を撮り続けました。ニューヨークのストリート・スナップはもちろん、家族のなかで唯一の理解者だった妹デボラや、最愛の女性ソームズのポートレートを通して、ライターのまなざしを追体験することもまた、本書の楽しみです。
アンコール開催した展覧会
前述の通り、本書は2020年1月9日から3月8日まで開催されるはずだった同名の展覧会の公式図録でした。「はず」だったというのは、新型コロナウィルスの感染拡大が進み、緊急事態宣言が発令したことで、2月28日以降の全日程が中止となってしまったから。その後控えていた京都会場、美術館「えき」KYOTOでの開催も、一旦中止となってしまいました。
しかし、開催再開を待ち望む声も多く、これもまた異例の「アンコール開催」をすることとなりました。2020年7月22日から9月28日まで東京で、2021年1月23日から3月28日まで京都で、無事会期を終えることができました。
浮世絵や書物を通して日本に憧憬を抱いていたとも言われるライターの作品が、ここ日本で、思いがけない長期滞在をしながら大勢の観客に迎えられたのは、偶然ではない何かを感じさせます。
神秘的なことは、馴染み深い場所で起こる。なにも、世界の裏側まで行く必要はないのだ。
―ソール・ライター
自粛生活を経た後に見る作品は、以前と異なる感慨をもたらしてくれることでしょう。
その作品や生き様から「ニューヨークが生んだ伝説の写真家」とも称されるソール・ライター。伝説は、なお続いていくようです。
書籍情報
『永遠のソール・ライター』 監修:ソール・ライター財団
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