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『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』におけるハーレイの描かれ方に関する考察
スーサイド・スクワッドは今まで見たことがなかったのだけど、ネットフリックスにあったので観てみることにした。今までこういうヒーローもの(?)というのは避けてきたのだけれど鑑賞してビックリ、めちゃくちゃ面白い。
ハーレイクインの格好よさとチームの連携感最高だし、こんなにやりたい放題な映画もなかなかないので脳天突き抜ける感覚を味わえる。
特にハーレイが囚われの身から脱走して槍で兵士を突きまくるシーンはグロとポップの宝石箱と化している(いやマジで)。
スーサイドスクワッドについて
そんなわけで、まずスーサイドスクワッドについて説明すると、主人公のハーレイクインは元精神科医で担当の患者であったジョーカーに恋をしたことをきっかけに、ジョーカーに忠誠を誓うために化学薬品の溶液タンクに身投げして肌が真っ白になった。という経緯がある。
この時点でイカれているけど今作ではその描写は取り上げられていない。ジョーカーの元恋人という描写をあえて抑えることでジョーカーありきのハーレイクインではなく、あくまで一人のキャラとして立たせている。
そんなハーレイはスーサイドスクワッドと呼ばれる特殊部隊に入れられていて、あらゆるミッションをこなすための強力な兵隊として使われている。
今作ではそんなハーレイクインが旧ナチスの実験施設をぶち壊すために派遣されるという物語だ。
とはいえ筋書きなどあってないようなもので、この映画の見どころはハーレイクインやべえ、かっけえ、味方も良いやつでYEAH、おわり。という映画である。
今作は頭空っぽにして観れるんだけどその裏に働いているロジック、政治的正しさの精密さにも感心してしまう出来栄えなのだ。
そのロジックとは何かというとハーレイクインの女性的魅力を残したまま、その上で女子として扱うことが一切ないというものである。例えばスーサイドスクワッド内においてハーレイクインは中心的な女性キャラとして存在しているわけだが、チームのメンバーがそれぞれ彼女を女性として一個の壁を隔てて評価をしていないことが徹底されている。
ここがすごいところで、男性からすると女性に対する評価は女性というだけで低くなるか、逆に過度な期待を抱かされて高くなるかのどちらかによりがちなんだけどこの映画のメンバーはハーレイクインをあくまでチームの1メンバーとして公正に評価する。
つまり、ハーレイクインを部隊の紅一点みたいな描き方をしていないということだ。この手の映画でよくありがちなのが女性を入れました!とか抜かしながら逆に女性の存在意義を強調しすぎて重圧にしかなっていなかったりする作品や、また過保護に取り扱いすぎてて「オタサーの姫」と化する映画のなんて多いことか。ということになるんだけどこの映画はそのような凡ミスを徹底的に避けている。
男女の二項対立を飛び越えるハーレイクイン
先ほど重圧と書いたけれど、男性向けコンテンツとして制作されてきたヒーローアクションものに女性主人公が適用されるとフェミニズムの重荷が強すぎるあまりに、女性vs男性という構図に集約してしまいがちである。しかし、男性vs女性の構図はもう使い古されてしまっているし、かつその構造を一人のキャラに背負わせるには重すぎるのだ。
このスーサイドスクワッドではそのような男女の二項対立を軽々と飛び越えている。すでにそんな旧価値観はなかったかのようだ。だからこそハーレイクインの自由奔放さとポップなグロ描写が最高に引き立っているのだと思う。
つまり、今作はハーレイクインの女性的自立を描いた作品ではなく、「女子」を超えた魅力的なキャラとしてメンバーと共闘するという話なのだ。
女性として自立するのではなく、そもそも自立していた女性という認識の違いは大きい。
途中牢獄からハーレイクインは自分の力で脱走するシーンがあって、下手な映画だと女性の力舐めんなみたいな描写にしがちなんだけど、そんな重さを一切感じさせないのがこの映画の凄さであり、だからこそハーレイクインの純粋な格好よさを表現できているシーンなのだと思った。
狂っているのに品が良い
細かいことを言うならあの赤のドレスがいい。途中動きすぎてズタボロになるんだけどそれもまた金魚の尾ひれみたいで品がある。
普通あんなイカれたキャラを出そうとすると頭のわるいおバカな感じになっちゃうと思うんだけど、狂ってるんだけどバカじゃない感じがすごく上手くて、むしろ本当は知性的だよねとすら思えてしまう。
敵である大人には容赦ないんだけど、チームのメンバーを助ける場面や子供に対する非道は許さないあたり、人間味の深さが出てしまっているのだ。
長々と書いたけど、今までにない魅力を持ったキャラクターを描けた作品だと思う。
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