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【解説付き】簡単な財務3表(PL/BS/CF)のモデリング練習をしよう

財務3表を作成する財務モデリングは、PEファンドにおける投資採算検討のみならず、投資銀行、アドバイザリーファームや事業会社の各部署でも様々な用途で必要となってきます。

今回は財務モデリング未経験の方向け(ただし、最低限の会計知識があることを前提としています)に、簡単な前提条件を使って、財務3表を作成する練習エクセルを作成しましたので、添付のエクセルファイルを活用ください。(今後DCFモデルや、LBOモデル等上級者向けの練習素材も作成予定です)

イスを製造する会社を設立し、その典型的なオペレーションを財務3表に落とし込むことを題材にしています。
「前提条件」シートを参照しながら「3表(練習用)」シートの中身を埋めていきつつ、「3表(回答用)」シートで答え合わせをしながら理解を深めていっていただければ幸いです。

*あくまでもエクセル上でのモデル作成のイメージをつかむことに主眼を置いておりますので、会計処理や税務処理等、厳密な実務上の対応方法とは若干異なるかもしれませんが、ご容赦ください。

以下、少し長くなりますが、本エクセルでのモデル作成作業におけるステップごとの解説を記載します。



No1_ Year1

【創業者が資本金1,000千円のCashを支払ってイス製造会社を設立】

*なお一つ一つの取引は、まず3表に落とし込む前に会計仕訳で考えていくと整理しやすいため、以下そのように解説します。借方仕訳をDr、貸方仕訳をCrとして記載します。

会社の設立にあたり、創業者から出資金を受け入れます。
Dr) Cash 1,000 /  Cr) 資本金 1,000

このお金を使い、会社では初期的に発生する費用の支払いを行っていきます。

Year1の取引は以上なので、CF計算書上でも出資の財務キャッシュフローに1,000が入り、そこを通じて結果的に期末BSのCash残高も1,000になり、この年の処理は以上となります。


No2_ Year2

【当期期首に、600千円を使い、イス製造に必要な機械設備一式を購入(20年間で均等に減価償却していく)】

昨年度に出資されたCashを活用し、イスの製造事業に必要な機械を期首に購入します。
Dr)機械 600 /  Cr) Cash 600

なお、機械のような有形固定資産へのキャッシュアウトは、取得のタイミングでPLへの一括費用計上をするわけではなく、その機械が事業で使用される一定期間に渡って少しずつ減価償却費という形で費用化されていきます。

今回は20年間、毎期末に下記の仕訳を入れていきます。
Dr)減価償却費30/ Cr)減価償却累計額30

No3~6_ Year2

【No3_Year3_当期にイスを180千円分(うち減価償却費30千円、材料費90千円、工場人件費60千円)製造し、それらがYear2内で全部が売れた】

【No4_ Year2_ 上記180千円分で製造したイスの売上金額は280千円だった】

【No5_ Year2_ イスの製造のために、90千円で木材(材料費)を購入しており、そのうち40千円はYear2内に支払い、残り50千円は翌年度に支払うこととなった】

【No6_ Year2_ 上記280千円の売り上げのうち、Year2の期末までに210千円は得意先に支払ってもらえたが、残り70千円はYear3に支払ってもらえるとのことになった】

No3~6は総合的に考えていきます。

まず4番から始めます。売上の計上を行いますが、通常は即時でCashが入ってくるわけではなく、一旦全額売掛金となり、その後一定のタイミングで顧客からの送金が行われます。
Dr)売掛金280 /  Cr) 売上280

次に、No6より、その売上げのうち、Year2の中で210が回収できたということなので下記の仕訳が実行されます。
Dr)Cash 210 / Cr )売掛金 210

そうすると、Year2期末のBSの売掛金の残高としては、280-210の70が残りとして計上されることになります。

次に、少し難しい売上原価サイドについて検証していきます。
まず、No3から当期のイスを製造するためにコストが発生した仕訳
けを作成します。
Dr)減価償却費 30 材料費90 工場人件費 60 
 /Cr) 減価償却累計額 30 買掛金90 Cash 60
*No5より、材料費については買掛金となる旨を反映、工場人件費については当期中に全額Cashで支払いが完了する前提とします。

次に、上記Dr側の費用を使って販売用のイスが完成することになるので、上記のDr)側の仕訳を相殺する形で棚卸資産へと移管させる仕訳を作ります。
Dr) 棚卸資産180
 / Cr) 減価償却費 30 材料費90 工場人件費 60

次に、棚卸資産のうち、売上に対応する部分(今期は100%分)が改めて売上原価としてPLに費用計上されることになるので、下記仕訳が計上されます。
Dr) 売上原価 180/  Cr) 棚卸資産 180
つまり、厳密にはYear2の期中で棚卸資産の増加減少が発生していることになりますが、期末のBSにおける棚卸資産の残高は180-180でゼロとなります。

最後に、材料費の買掛金のうち、40は当期に支払うことなので、その処理を下記の通り行います。
Dr) 買掛金40 / Cr) Cash 40
従い、当期末の買掛金の残高は90-40=50となります。

No7_ Year2

【販売のための営業担当者への人件費が発生しており、それは40千円だった。それはすべてYear2のうちに支払った。】
「人件費」について、PLの中で売上原価(棚卸資産)とするのか、販管費扱いにするのかは、会社の事業内容の実態を踏まえて各社が判断しますが、製造業の場合は、直接的に製品の製造にかかわるような工場系の方の人件費を売上原価、本社バックオフィス業務や営業に従事する方の人件費は販管費扱いとすることが一般です。本件もそのように考えます。

Dr) 人件費40 / Cr) Cash 40
*費用項目に関し、特段断りが無い限りは当期に全額Cashで支払う形を前提とします。

No8_ Year2

【製造した在庫を保管しておく倉庫兼事務所も借りており、それは20千円だった。それはすべてYear2のうちに支払った】
こちらも基本的には上記営業人件費と同様の考え方が適用されます。製造に直接関わる工場の賃料等は売上原価扱いとし、一方、出荷待ちの完成品を一時保管しておくための外部倉庫や、本社オフィスの賃料等は販管費に計上します。
Dr)支払賃料20/ Cr) Cash20

No9_ Year2

【Year2のPL営業利益に対し、30%の法人税を当期に支払った】
ここまでPLで積み上げたYear2の営業利益40 (売上280-売上原価180-販管費60)に対し、30%の法人税を課して支払う仕分けを計上します
Dr) 法人税等 12/ Cr) Cash 12

*なお、実務上は、PLの営業利益に法人税率を乗じるのではなく、PL上の当期純利益(もしくは税前利益)から、別途税務上の課税所得というものを調整計算し、そこに適切な税率を乗じていきます。
また、N期分の法人税は本来通常N+1期の開始後2~3か月等に実際はキャッシュアウトされます。こちらYear3ではそのようにしています。

Year2 財務3表の作成

ここで、Year2の一通りの取引の発生が終了しました。PL、およびBSの大部分(Cash、繰越利益剰余金以外)については単純にそのまま上記仕訳を直接入力するだけなので特に問題なく作成できているかと思います。

まず、BSの繰越利益剰余金ですが、こちらは毎期のPLの当期純利益が蓄積されていく純資産項目となりますので、Year2の繰越利益剰余金であるF35のセルは、前年の同項目であるE35に、Year2の当期純利益であるF14セルを加算します。

次にCF計算書について考えていきます。

投資キャッシュフローについては機械一式購入のための支払いの600(キャッシュアウトなのでマイナス表記)を「有形固定資産の取得」として記載します。

財務キャッシュフローについては、出資や配当の支払い等は無いので当期は特に何も記載しません。

一方、営業キャッシュフローに関してですが、会計にまだあまり慣れていない方にとっては少しトリッキーかもしれません。
まずは税引前純利益(今回は営業利益と同じ)からスタートし、法人税のキャッシュアウトがあった分を控除します。
ここまでの時点でPL上の損益はCF計算書で一見取り込んでいるようにも見えますが、実は会計上の収益や費用は、必ずしも当期のキャッシュイン・アウトをそのまま意味するわけではなく、以下の調整が必要になってきます。

減価償却費の足し戻し
上記No2の解説で記載した通り、固定資産の取得(いわゆるCapex)に関しては、取得のためにキャッシュアウトした金額をPL上全額同年に費用計上するのではなく、減価償却費という形で毎年少しずつ費用化していきます。

逆に言えば、キャッシュアウトの有無の観点からは減価償却費という費用は「キャッシュアウトしない費用項目」となるので、CF計算書上はスタートの税前利益に既に含まれてしまっている(=控除されてしまっている)減価償却費を足し戻す必要があります。

売掛金・買掛金の調整
売掛金について
No6で売上として280千円計上しているものの、その280全額が当期にキャッシュインするわけではなく、そのうち70千円の回収は翌期になるとのこと。

CF計算書上の営業キャッシュフローとしては「営業利益」からスタート(つまり当期の売上高280千円の全額が含まれてしまっている)しているので、当期に未回収の分である期末売掛金残高70千円をマイナス調整することで、売上に関するキャッシュの動きとして整合をとることが可能となります。

逆に、仮に期首に売掛金が残っている場合(Year2の期首はゼロですが)は、当期にその売掛金が回収できてキャッシュインできることになります。
つまり、「当期の売上に関するキャッシュイン=当期売上高+期首売掛金残高-期末売掛金残高」ということになります。
これがキャッシュフロー計算書の構造の観点で見てみると、「当期営業CF=税前当期純利益(営業利益)- 前期末と当期末の売掛金残高の増加分」という一般構造になります。

・買掛金について
No5で材料費として90千円を購入し、その材料を使って製品が製造され
同年に全額販売されているので、この90千円は「売上原価」という形で営業利益に(会計上)反映されています。

では、キャッシュアウトの観点ではどうでしょう。
No5で90千円分の材料費を購入したものの、その代金90千円について当期に全額支払っているわけではなく、うち50千円は翌年の支払いでOKということで仕入先と合意できています、つまりこの50千円はyear2期末時点では買掛金となっています。

従い、営業利益をスタートとしている営業キャッシュフローの観点では、売上原価として90千円全額キャッシュアウトされてしまっているところ、期末買掛金の50千円を足し戻してあげる必要があります。

逆に期首に買掛金残高が存在する場合は売掛金の時と同様、その期中に支払いが行われることを前提とします。従い、「当期営業CF=税前当期純利益(営業利益)+ 前期末と当期末の買掛金残高の増加分」という構造になります。


No10~13_Year3

【No10_ Year3_ 当期にイスを200千円分(うち減価償却費30千円、材料費100千円、工場人件費70千円)製造し、それらのうち、Year3内で3/4が販売でき、1/4が期末在庫となった】
【No11_ Year3_ 上記Year 3販売分のイスに対する売上金額は260千円だった】
【No12_ Year3_ 当期のイスの製造のために、100千円で木材を購入しており、そのうち60千円は同年内に支払い、残り40千円は翌年に支払うこととなった】
【No13_ Year3_ Year3の期末までに、同年売上げのうち、190千円は得意先に支払ってもらえたが、残り70千円は売掛金として翌年に支払ってもらえる
とのこと】

さあ、Year3についても考えていきましょう。


Year2と同様、売上、売上原価周辺に関するNo10~13は総合的に考えていきます。

売上についてはまず全額売掛金になったのち、190については当期に現金回収できたので下記の仕訳処理となります。これは簡単ですね。
Dr) 売掛金260 /  Cr) 売上260
Dr) Cash190    /   Cr) 売掛金190

次にちょっとトリッキーな売上原価サイドについて
まずはイスを製造するという工程で発生した費用の仕訳*としては下記の通り
Dr)減価償却費 30 材料費100 工場人件費 70 /
 Cr) 減価償却累計額 30 買掛金100 Cash 70

次に、このDr側の費用を使って棚卸資産が完成することになるので、上記のDr側の仕分けを相殺する形で棚卸資産へと移し換えます
Dr) 棚卸資産200 /  Cr)減価償却費 30 材料費100 工場人件費 70

そして今期製造した200の棚卸資産のうち、3/4である150が販売できたのでCr)売上原価150 / Cr )棚卸資産150

ここでYear2と異なる重要なポイントが発生します。
Year2では、当期に製造したイスが、その年のうちに100%分販売できた、という前提でしたが、year3では、当期に製造したイスのうち一部が売れ残り、期末の棚卸資産として残ることになります(=翌年以降に販売することになる)。

つまり、上記「*」部分にある、Cr側の仕訳として処理した「減価償却累計額 30、 買掛金100、 Cash 70」、これは正にyear3に製造したイスの「製造コスト」として200のキャッシュアウトがあったはずなのに(減価償却累計額の30についてはややこしいですが別途CF計算書で調整することになりますので、ここではあまり深く考えなくてOKです)、PLの売上原価として費用化されているのは実際に売れた分に相応する3/4での150だけとなっておりということで、ここでも会計とキャッシュフローでのずれが発生しています。
従って、こちらも最後にYear3のCF計算書を作成する際に調整が必要です。また最後に解説します。

No14&15_Year3

【No14_ Year3_ 販売のための営業人件費が発生しており、それは45千円だった。それはすべてYear3のうちに支払った】
【No15_ Year3_ 製造した在庫を保管しておく倉庫兼事務所も借りており、それは固定費として20千円だった。それはすべてYear3のうちに支払った】

No14,15はYear2と全く同じですね。当期に発生した販管費を直接キャッシュアウトする仕訳を入れます

Dr) 人件費45  /  Cr) Cash 45
Dr) 支払賃料20  /  Cr) Cash 20

No16_Year3

【No16_ Year3_ 翌年度に支払われる予定のボーナスのため、賞与引当金として10千円計上した】

ここでまた新しい形の仕訳が出てきました、賞与です。

賞与の仕組みとしては「今年度のパフォーマンスに対する支払いとして、翌年度に○○円の賞与を支払う」というのが一般的です。
従い、翌年度にキャッシュアウトする予定ではあるものの、今年度に帰属する費用として先に費用計上する必要があり、その際のCrサイドは負債としての引当金になります。(その負債が翌年度に賞与を支払うタイミングでキャッシュアウトされる形となる)

Dr)賞与引当金繰入額 10  /  Cr) 賞与引当金 10

No17_year3

【No17_ Year3_ 同年のPL営業利益に対し、30%の法人税が発生するが、翌年度に支払った】

さて、Year2の法人税の箇所でも頭出ししましたが、本来はN年度分の法人税については、N+1年の期初から2~3か月後にキャッシュアウトされます。従い、N年度の期末の段階では計算された法人税等の金額が費用として計上されると同時に、数か月後に支払うべきものとして負債にも計上されることが一般的です。

Year3の法人税=営業利益(税前当期純利益) x 実効税率 = (260-150-45-20-10) x 30%= 10.5

Dr) 法人税等 10.5  /  Cr) 未払法人税 10.5

No18_Year3

【No18_ Year3_ 当期期中に、出資者に配当金として10千円支払った】

さあYear3最後の処理です。

会社が成長するにつれ、会社の持ち主、出資者である株主に対し、一定額の配当金を支払っていくことが通常です。

配当の支払いは、PLを経由せずに、純資産(繰越利益剰余金)を直接減額して支払うこととなります。また、CF計算書上では営業キャッシュフローではなく、財務キャッシュフローのカテゴリーからキャッシュアウト計上されることにも注意が必要です。

Dr) 繰越利益剰余金 10 / Cr) cash 10

Year3 財務3表の作成

さあ、ラストスパートで、Year3の三表をまとめていきましょう!
Year2と少し異なる処理が必要な処理について解説していきます。

PLに関しては、新しく「賞与引当金繰入額」という費用項目が発生していますのでそちらを販管費に加えることを忘れずに。
こちら、相対勘定として、負債の賞与引当金が計上されていますが、この「賞与引当金繰入額」という費用は、減価償却費と同じく、「キャッシュアウトを伴わない費用項目」となります。
従い、繰り返しですが、PL上で費用として含まれてしまっている分を、キャッシュフロー計算書作成上は除外してあげる(足し戻してあげる)必要があります。
具体的には、買掛金の時と同様、「賞与引当金の期首期末の増加分を足し戻す(減少分を差し引く)」ことになります。

次に法人税の取り扱いです。
Year2では簡便的にYear2に帰属する法人税→year2に支払う、ということにしていましたが、Year3ではより実務での扱い方に近づけています。
キャッシュフロー計算書上では税引前利益からスタートしていますが、year3での法人税のキャッシュとしての支払いは無い(Year4の期中に支払う)ため、セルG45はゼロとなります。ここも、厳密にはG45のセルの中の数式にあるように、Year3の法人税のキャッシュアウト=Year3期首の未払法人税額+PL当期の法人税等-期末の未払法人税額、となっていることに着目できればと思います。

最後に配当の支払が10あるので、財務キャッシュフローから10のキャッシュアウトを立てつつ、繰越利益剰余金から10控除することも忘れずに対応お願いします。

以上でYear3の財務3表を作成するためのヒントを終了します、無事に作成できている場合は、40行目のBalanceがゼロになるはずですので、ここがゼロにならない場合はどこかしらで入力ミスがあるものと思われます。


おわりに

いかがだったでしょうか、財務3表モデルについて、初めて体験してみた方も、なんとなくの作成イメージは伝わったのではないでしょうか?
実際の場面では、このように設立時からの設定で作成することは稀で、既存の財務3表がある状態で、その後の将来予測財務諸表を作成するパターンが多いかと思います。

今後も中級者・上級者向けの練習教材を作成していこうと思いますので、引き続き見ていただけますと幸いです。











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