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時間の経過はピアスが教えてくれた

きちんと手入れしてやらないと、案外簡単に閉じてしまうんだよ。

大学に上がる年の3月に初めてピアスをあけた。
正確に言えば、親に開けてもらった。
髪を染める代わりにピアスをあけた。
イヤリングみたいにブレないし、種類も沢山あってイヤリングの何倍もいいなって思った。

わたしは多分まめな方じゃない。
面倒くさがり、いつだったかな1回目に塞がったの。
それを覚えていないくらい適当な生き方をしている。

2度目は、当時付き合っていた恋人に開けてもらった。
大学1年の秋、お泊まりした日、ピアッサーを近くのドンキで買って。
今度こそ大切に大切にするんだと誓った。
ある日目が覚めたらピアスが見当たらなくて、耳たぶに埋まっていたときは血の気が引いた。
意外とあっさり自分の手で引っこ抜くことができた。

コロナが始まって外出する機会が極端に減った。
ピアスを付ける機会も減った。
順調に更新できていた月日はあっという間に止まった。
あれだけ大切にしていたのに、また塞がった。
多分大学2年生になる目前の3月あたり。

悲しかったけど、また開けてくれるからと安堵していた。そんな日は来なかった。もう一生こない。
でも1度目とは違う。
塞がったけれど跡が残っている。
ピアスが確かに開いていた跡。
ふと耳をきちんと見た時に左右の耳たぶに小さな丸い跡があるのが嬉しい、ううん愛おしい。
大切な人との大切な思い出が詰まっていて。
形あるものが全てではないけれど、やっぱり形あるものは嬉しい。

クリープハイプの左耳とexダーリンを混ぜたような話、
尾崎さん私の恋愛をあなたの音楽で供養させて下さい。

「また、塞がったんだ。だから開けてよ。」
「ああ、俺も最近は全然ピアスつけてないんだよね〜」

付き合い始めたころの、彼の耳にきちんと整頓されたピアスを見るのが好きだった。いつからだろう、全然目にしなくなっていた。変化は寂しい、嬉しい変化もあるけれどこれは寂しい方の変化だと分かっていた。
そして終わりの時を告げる。
ピアスが教えてくれた、私たちに時間の経過を。

どこまでがフィクションかなんて、なんでもいい。
決めるのは読者であってわたしではないから。
もしかしたら全部この話はフィクションかもしれない。
はたまた夢で見た話かもしれない。
もし後者であるのならば、醒めない夢であって。

この春3つ下の従姉妹が専門学院に入学した。
耳元には小さく綺麗に光るピアスがあった。
私と同じく親に開けてもらったらしい。
開ける前の好奇心や憧れなんて私にはもうこれっぽっちもないや。


私はもう一生ピアスを開けない、
残された跡を愛おしく思う日々で充分に幸せだから。


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