黒字転換への歩み - 経営指針の実践
はじめに
こんにちは、チトセ工業の中西です。
大阪は八尾市で金属製品の受託加工業と無線電子機器の開発・販売を行っています。
前回の記事からなんと一年半も空いてしまいました。笑
その間に代表就任から2年が経ち、私生活では二人目の子どもに恵まれました。
完全にnoteの存在を忘れてましたが、先日知人から「note読みました」と言われてそういえば、と。
上記のとおり、会社の代表になってから2年経ちました。
今回はこの2年間の自らの歩みについて振り返りたいと思います。
あまり推敲できていないため長いですが、なにかしら経営に関するエッセンスは入れれてるんじゃないかと思います。
よければ最後までお付き合いください。
問題だらけの就任直後
自己紹介にも書いた通り、2022年の9月に2代目社長だった父に代わり僕が経営のバトンを受け継ぎました。
しかし、さっそくピンチを迎えます。
企業の経営資源はヒト・モノ・カネ(・情報)に分けられたりしますが、いきなりヒトとカネにおいて壁にぶち当たりました。
カネの問題
まず、カネの問題。
うちは6月決算なので2023年6月が就任後初の決算となるのですが、なんとその半年以上前の時点で既に赤字決算になることが分かったのです。
うちはBtoBで手がける製品のライフサイクルも長いということもあり、向こう一年くらいの売上はそこそこ正確な予測が立ちます。
コロナによる大打撃から受注は徐々に回復し、59期 (2023年6月期) は10億円の売上計画を見込んでいました。
58期 (2022年6月期) の7億と比べ大きく盛り返し、コロナ前の水準といえます。
売上が増えたのに、なぜ赤字になるのか?
答えは単純で、費用が増えたからです。
利益の出し方は2通りしかありません。
売上を上げるか、費用を下げるかです。
この時、確かに売上高は前年比で上がりましたが、それ以上に費用が膨れ上がってしまいました。
ご存知のとおり、原材料価格は急速に高騰しました。
材料費率の高い当社の主力商品は大きな影響を受けます。
さらに人件費をはじめあらゆる費用が上昇。
にも関わらず、適正な販売価格への改定が進められていなかったことに収益悪化の原因がありました。
仕事はあるのに儲からない。
そんな状況です。
ヒトの問題
次に、ヒトの問題。
中間管理職のメンバーが次々にダウンしたり、勤務態度に問題を抱える社員(ここには書けないレベル)の対応に追われたり、せっかく採用した新人が定着せず入っては辞めが続いたり…。
カネの問題が波及してのことか、負のスパイラルのように次々とトラブルが巻き起こりました。
社内の雰囲気もとても良いとは言えません。
ある方に辞める間際、「こんな会社辞めない理由がない」と言われたのはさすがに堪えました。
経営者としての問題
さらに私生活でも変化が。
この頃ちょうど二人目の妊娠初期で、一人目は絶賛イヤイヤ期。
もちろんありがたいことなんですが、この頃は仕事のことで精神的に余裕がなく、妻とも衝突することが多かったです。(今思えば、非常に情けない話です)
そんなこんなで問題が重なりに重なって、いっぱいいっぱいでした。
僕は後継者です。
だからこの会社に入ると決めた時点で、いずれは会社を引き継ぎ経営者としてやっていく覚悟が決まっているつもりでした。
しかし、いざ実際に自分がなってみると、見える世界は全くの別物でした。
プレッシャーが非常に重くのしかかります。
山積する問題に、僕はこの仕事に向いてないのかなとも思いました。
こんな僕では、この会社を潰してしまうんじゃないだろうか。
ストレスからか持病の皮膚炎も再発・悪化したり、お酒を飲みすぎて体調崩したり、リアルにうまく呼吸ができなくなったり。。。
僕は日記をつける習慣があるのですが、改めてこの頃のものを読み返すとなかなか精神的にも肉体的にも参っていた様子が伺えます。
とにかく四六時中お金のことばかり考えていました。
再起に向けて
ですが、当然なんとかしなきゃいけません。
どんなに苦境にいようと、人を雇っている以上、経営者には企業を維持・発展させる責任があります。
言い訳は許されません。
半年後の決算が赤字なのは見えている。
これは今から覆しようがない。
ならば、次期は必ず黒字化しなければ。
2期連続赤字はなんとしても避けなければいけない。
そんな思いで、再起に向けた準備に取り掛かりました。
半年かけた準備
まず、最初にやったのは僕自身の能力の強化でした。
主に管理会計に関する書籍を読み漁り、数字に強くなろうと。
もちろんそれまでも一通りの知識はありましたが、それはあくまで知っているだけでした。
そうではなく、実際にどう企業運営に活かすか?のレベルに昇華させるべく、短い期間ながらなかなかの濃さでインプットしていったのを覚えています。
やはり人間、本当に必要になると吸収力が違いますね。
次に中期経営計画の策定など、組織運営の手法について学びました。
そこで得た知識を、先代である父がこれまで築いてきた管理手法と組み合わせ、アップデートしていきました。
ある程度知識をインプットしたあとは、経営幹部全員で中期経営計画の策定に取り掛かりました。
うちは3年を1タームとしており、2023年7月からが新たな区切りだったためそこはちょうどよかったです。
会社の経営方針・経営計画について徹底的に検討し、約半年をかけて作り上げていきました。
経営計画については、従来よりも精緻化することを目指しました。
売上とか仕入れとはもちろんどこでも細かく見てると思いますが、固定費もかなり細かく見ました。
人件費はもちろんのこと、通信費とか旅費交通費とかも含め全ての勘定科目を部署ごとに月予算を設定。
経営計画としてかなり作り込んだ変動損益計算書を準備しました。
(そこまで細かくする必要があるかは微妙ですが、まあ僕自身が細かい人間なので)
経営指針セミナー
そこから少しタイミングは後になりますが、僕が所属している大阪府中小企業家同友会のセミナーも大いに学びになりました。
「経営指針確立・実践セミナー」というのですが、具体的な企業運営の手法について体系立てて学ぶことができます。
2023年の5月から半年ほどのセミナーの中で、知識だけでなく自分を見つめ直すいい機会にもなりました。
なぜ経営をするのか?自分の人生の目的は?
そういった根源的なところに立ち返って考えることができました。
このセミナーを通して経営理念を見直せたこと、そして規模も業界もバラバラながらともに同じ目線で経営について話せる仲間を得られたことはとても大きな収穫だったと思っています。
余談ですが、こうやって僕が自身の能力の向上のため時間を割けるのも、先代が苦心してきた組織づくりという土台あってこそだなと改めて思います。
実務に忙しくしている社長はなかなか成長のための時間が取れません。
でもそれではいけない。
経営状況の改善
2023年6月、59期は予想した通り大きな赤字となりました。
そして7月。
新しい一年、そして新しい中期経営計画の始まりです。
半年かけて準備した経営指針を上述のセミナーでブラッシュアップしながら、経営課題に対処していきました。
兎にも角にもカネの問題ですね。
先にも述べたとおり、利益を上げる方法は売上を上げる or 費用を下げるの2つです。
その双方に手を入れました。
売上up
まずは売上の増大。
ここでは主に販売価格の改定と新規開拓の2つに力点を置きました。
業種により価格改定の難易度は差があると思います。
また、toC企業の場合は改定自体は容易でも、顧客を失うリスクなど様々なことを考慮しないといけないでしょう。
当社のような受託加工業の場合、お客さんにうんと言ってもらわないとなかなか価格は変えられません。
そのため、価格交渉には相応のエビデンスが必要になります。
ここで、やたら細かく作った経営計画が活きました。
実際に上がった仕入価格のみならず、向こう1年の変動費・固定費がかなり正確に見通せるため、交渉する価格に納得性をもたせられます。
もちろん時間はかかりましたが、少しずつ適正な価格への改定を進めていきました。
次に新規開拓。
実は、こっちはまだ結果が出てません。
ここは狙い通りいかなかった部分ですね。
特に利益率の高い加工の売上を増やすべく、人材採用や外注を活用したリード獲得、Web広告の活用などいろいろ手は打ちましたが、まだ結実とまでは至ってません。
これに関しては今現在も重点課題として取り組んでいます。
費用down
次に費用。
ここでは在庫とロットサイズの適正化に注力しました。
うちは売上の大半をプレス加工品が占めます。
プレス加工というのは、金型を用いて同じ形状の製品を大量生産するのに適した加工です。
なので、ひとつひとつの単価は安い傾向にあります。
そして、金型は(もちろん大きさによりますが)機械への取り付け・取り外しと調整に時間がかかります。
つまり、一度金型をセットしたのであれば、まとまった数量を一気に作ってしまったほうがお得というわけです。
なので、これまでは後工程の能力も受注数もお構いなしに生産をしていました。
ですが、いやちょっと待てよ?と。
一気に作り溜めした製品はしばらく在庫として社内に残る。
資産として計上されるのに実際は売れてないわけだし、長期保管すれば品質悪化の懸念もあるし、場所取るし、良いことないのでは?と気づきました。
たとえプレス工程の生産性が多少下がろうとも、工程全体や注文に応じた供給量に合わせてモノを動かした方が利益は出ると考え、これまでの1ロットの数量を見直すことにしたのです。
この辺り書いているとそれだけでめちゃくちゃ長くなってしまうのでこのくらいにしときましょう。
詳しく知りたい方は "The Goal" を読んでください。
あと、費用を抑えるといっても人件費は削っちゃいけません。
正確にいうと、総額は抑えられたほうがいいですが一人あたりの額はむしろ高めていくべきです。
奏功
第一四半期は価格改定の進捗もありマイナススタートとなりましたが、徐々に種々の取り組みの成果が出てきました。
10月には単月黒字化し、半期を迎える12月ごろには数字が少し安定してきました。
当初立てた計画通り順調に進み、ほんの少し心にゆとりができました。
勘違い
カネも問題がひと段落したところでしたが、まだ問題が残っています。
ヒトの問題はそのままでしたから。
経営姿勢の問題
というのも、僕の経営姿勢に問題があったように思います。
誤解を恐れずに言えば、当時の僕はヒトもカネやモノと同じ経営資源のいち要素として見ている側面が強かったです。
だから、数字で結果を出せば人はついてくる。
そう思ってました。
結果を出して、報酬で還元する。
綺麗事じゃなくて、実利で報いる。
それが従業員を大事にすることだろうと。
(もちろんそれも大事なんですが)
だからヒトの問題には手を打たず、カネの問題に注力していました。
しかし、経営状況が改善してもヒトの問題は尽きませんでした。
コロナで分断されたコミュニケーションの機会は放置されたままで、社内の人間関係は希薄に。
気づけば自分も従業員も居心地の悪い会社になっていたと思います。
数字は回復したけど、全然いい会社にはなってない。
たとえ一時的には回復したとしても、こんなのじゃ長続きしない。
僕自身が今の在り方ではいけない。
そう気づき、改めて先述の指針セミナーでの内容やテキストを振り返りました。
(同友会は "人を生かす経営" に重きを置いています)
ベースとしての信頼関係
今考えてみたら当たり前のことで、結果を出すのは大前提として、その上で居心地のいい会社と悪い会社どっちがいいか?
答えは明白ですよね。
そこから、人間としてベースの信頼関係を再構築すべく日頃のコミュニケーションを重視するようになりました。
僕と従業員もそうですし、従業員どうしのコミュニケーションも活性化させるため、いろいろな施策を試しました。
(当たり外れ様々でしたが、その話はまたいずれ…)
今でもめちゃめちゃ明るい会社かと言われると全くそんなことはないですが、以前よりも全然居心地は良くなったんじゃないかと思います。
僕自身も、こういった経験を経ていろいろと変わりました。
まず、「ちゃんとしようとする」ことをやめたのは大きいですね。
経営者はこうあるべき、みたいなイメージを自分に当てはめてる部分がありました。
先述のようにヒトを軽視していたのに、雇用を守るのが経営者の責任だと考えていた整合性の取れない考えも、このことから来てるのだと思います。
でもそもそもちゃんとしてない僕なので、肩肘張るのはやめて僕にしかできないことをやろう、と思えるようになりました。
黒字化
そして2024年6月、無事黒字で着地できました。
売上は計画を大きく上回る13億超え。
売れ筋の変化により利益率こそ目標に及びませんでしたが、十分といえる結果でした。
赤字という共通の危機感も、バラバラになった団結力を再び高めるのに寄与したと思います。
少ないながら、賞与も出せました。(赤字のころは銀行に借入して捻り出してました)
絵を描いたのは僕ですが、それを実現してくれたのはみんな。
僕はものづくりの知識も浅いし、営業できるわけでもないし、機械直せるわけでもないし無線に詳しいわけでもない。
のに支えてくれるみんなのお陰です、マジで。
感謝を込めて、7月に入ってから社内でささやかながらパーティーを開きました。
参加率が思ったより高く、最中もみんな楽しそうにしてくれてて、とても嬉しかったです。
最初、半分くらいかなあと思ってたら、結局ほぼ全員出てくれました。
二次会も大盛り上がりで楽しい夜に。
人間そんなもんかもしれませんが、常に迷いながら悩みながら色々やってます。
でも、そんな思いを洗い流してくれるような、これまで自分がやってきたことを少しは認めてあげられるような、そんな思いになる一日でした。
みんなへの感謝のために開いた会で、たぶん一番僕が喜んでたかも。
おわりに
なんとか黒字化したとはいえ、課題がなかったわけではありません。
すでに書いたように新規開拓は結果が出せませんでしたし、限界利益率が目標未達だったことも無視できません。
そこに関してはもちろん、前年と同じように前もって検討を重ね、すでに走り出しています。
まあでもきっと、今後も問題は常に降りかかってくるでしょう。
それこそこの2年間なんて屁でもないくらいのヤツが来るかもしれません。(できれば来ないでくれ)
それでも絶えず学び続け、成長し続け、飾らず僕らしく、より良い会社を目指して頑張っていきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。