死を乗り越える
「まだ死んだ実感がわかない。もう少ししたら帰って来そうな気がする。」
と祖父がよく口にする。
それに対して僕は
「早く帰ってきて欲しいわ。」
と笑いながら返事をする。本当に買い物に行っているくらいにしか思えない。いつものように扉を開けて「ただいま」と言って帰ってくると思えてしまう。
もうすぐ祖母が旅立って1ヶ月が経とうとしている。ようやく受け入れられ始めた自分がいるが、まだ完全に受け入れられたかというとそうではない。
死を受け入れるということは思っていた以上に難しい。泣けば解決するというものでもないし、時間が解決してくれるものでもない気がする。時間がその悲しみを薄れさせてくれるのではなく、自分で死というものを受け入れ、それを乗り越えなければならない。
受け身ではなく能動。自ら乗り越えてようやく死というものを受け入れられる。
もうこの世にはいない、もう会うことはできないという事実をまずは受け入れることから始める。そこがスタート地点のような気がする。
思い出して悲しくなった時は思いっきり泣けばいい。無理に感情を押し殺す必要は無い。感情を出してやることで発散してやる。
あとは毎日遺影に顔を見せるということもいいのかもしれない。写真で見ることで次第に受け入れることもある。僕は毎日今日あった出来事を報告している。これはもう日課だ。
故人を引きずっていて暗くなるのが1番良くない。怒られてしまう。1番良いことは「楽しく生きる」こと。
精一杯生きて、死んで向こうへ逝った時に、今までのことをたくさん報告してやれば良い。久々に顔を合わせて思い出話や今までの報告をしてあげる。これが故人にとって1番の恩返しになるのではないか。
明るく楽しく元気よく。小学生みたいなことだが、これこそが遺族にとって一番大切なことのような気がする。そうやって生きていく中で死を乗り越えていければ幸せなのかもしれない。