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ししとうの楽しみ方

ししとうは、夫の大好物である。
ただ焼いて、麺つゆにつけて冷やしただけのものだが、夫はすごく楽しそうに食べる。

美味しそうに、ではなくて、楽しそうに。なぜか。

それはその一皿の中に、「当たり」が潜んでいるからである。
ししとうの「当たり」とはつまり、やたらと辛い一本のことである。

以前は私もししとうを良く食べていた。しかし、私は辛い物が苦手で、しかも当たる確率が非常に高かった。
まだ娘が離乳食の頃、帰りが遅い夫を待たずに二人で食事をしていた時、大当たりのししとうを引き当てたことがある。

食事は大抵のことより優先する私が、この時ばかりはあまりの辛さに脱力して箸を置き、食欲が失せてしまったくらいの辛さであった。
しかもここで「うわぁ!あたった~!!」とかなんとか騒いで場が盛り上がるのなら、ちょっとは当たり甲斐もあろうというものだが、そこにいるのは生後間もない小さな子供一人である。辛さに耐えて一人静かに悶絶する虚しさは、口の中の辛さとはまた違うほろ苦さもプラスされ、さらに帰宅した夫には当たりがなく「今日のはつまんなかったね」などと言われた日には、やるせなささえ感じたものだった。

「焼くから辛いんだよ。揚げると辛くないよ」

そう人から聞いて、これ幸いと試したこともある。この時は、揚げたから辛いはずがないと安心しきっていたので、無防備に食べた。そしてまた、一人静かに悶絶する結果となった。揚げると辛くない説は思い切り嘘である。

そんなこんなで、私はししとうを食べなくなった。
ししとうはただ、夫のお楽しみ料理となったのである。

ししとうの焼きびたしを出すと、夫は「お」と小さく反応する。そしてごく普通におかずの一品として食事の流れの中で食べる。


途中で突然、パタッと箸を置くこともある。
いきなり、鼻息が荒くなることもある。
とにかく、それまでの淡々とした食事に何か句読点が打たれるような動きがあると、「当たり」のサインである。

私はすぐに夫の顔を凝視する。
見る見るうちに、鼻とその周りに赤みが差してくる。
夫の目は喜色にあふれてキラキラしている。そしてもぐ、もぐ、もぐ、と口の中でししとうと格闘し、それをおなかに収めると、うぉ~というような感嘆の声と共に「6!」とか「5!」とか、辛さのレベルが発表されるのである。ちなみに昨日はついに「9」が出た。

1とか2レベルだと、淡々と「2。」と報告がある。3~4だと「来た来たっ!」などと予告が入る。それ以上のレベルはししとうからの攻撃を受けるのに余裕がなくなり、上記のような仕儀となる。たまに、レベル発表は口頭ではなく、指の本数で表示されることもある。

夫は喜んでくれるし、私もそんな夫の様子を見るのは楽しい。何より、自分には何の被害もないのが嬉しい。
かつて、ししとうは我が家のロシアンルーレットであったが、今はひたすらに、楽しい食卓イベントである。

しかし本心を言えば、私もちょっとはししとうを食べたい。
何とか、当たりを見分ける方法はないものだろうか。

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